第4話

 石嶺宅


 家に帰ってきたら自室へと真っ先に行きベッドにリュックを放り投げ、着替えを持って風呂へと向かう。

 途中、ひかりが構ってとしっぽをブンブンと振りながらうろちょろとついてきたが、ひとりにしてほしいのでがっかりさせないよう上手く追い払った。

 脱衣場で服を脱ぎ浴室へ。

 因みにシャワー派である。湯船に湯をはるのは、相当疲れた時か、気が向いた時だけである。

 頭から順に洗いシャワーで泡を流したら、バスタオルを手にとり水分をとっていく。

 服を着てバスタオルを定位置に戻したらドライヤーで髪を乾かす。

 ドライヤーをかけるタイミングは髪が少し乾いた方が良いと聞いたことあるが実際はよくわからない。

 ドライヤーで髪を乾かした後は洗濯物を畳み、服は両親のと妹とので分けてリビングに置いておく。

 それが終わったら自室に戻り、柔軟と筋トレをする。

 本当は風呂前に筋トレをしたいのだが、そんな余裕もなく入浴後にやっている。

 それも一通り終わるとリビングへと戻り、ニュースを観る。

 するとひかりが舌を出しながら近寄ってきて俺の隣に座った。構ってと時々腰あたりに頭を擦りつけてくるのでよしよしと撫でやる。かわいい。こういうひかりの何気ない行動で一日の疲れが一気にとれる。

 胡座をかいて座り、時々ひかりを構ってやっていると妹の叶が帰ってきた。


「ただいま~」

「おかえりー」

「ワンワンッ!」


 とひかりは吠え、嬉しそうにしっぽを振りながら玄関がある一階へと駆け降りていく。

 叶はニュースを観ている俺を一瞥するとすぐに自室へと向かった。

 晩ごはんは母親が作ったのを食べた後、俺は自室へとすぐさま引っ込んだ。

 ひかりに構ってやろうと思ったが思いの外疲れが溜まっていたらしく、ベッドへとばたり。しばらくベッドの上で横になっていると。

 かりかりかりかり。

 ひかりが器用に爪でドアをノック?をしたので、開けてやると勢いよく入り込んできた。

 しかし俺は疲れているので構ってやれるほどの体力はない。構ってやれずに時間が過ぎると。

 コンコン。

 今度は人の手でドアをノックしているとわかる音が響いた。ドアを開けるとそこには珍しく、叶が立っていた───。


※※※


 雄大の部屋


「どうしたの叶?」

「今十九時になろうとしてるけど、いいの?観なくて」

「何を?」

「ロッテ」

「ああ!」


 そう言われた俺はすぐにリビングへと駆け下り、テレビをつけて『日テレNEWS24』にする。(試合球場はZOZOマリンスタジアム)


「ふむ、どれどれ・・・」


 リプレイでBSOと点数の表示がまだ出てきてないので待つ。


(今日は西武とだったな・・・。確かロッテの先発が石川だったはず。)


 リプレイ映像が終わりBSOと点数の表示が出てきたのでみてみると。


「まだ0対0か・・・。ん?でもランナー一、三塁か。ピンチやん!いや、でも一死(ワンアウト)か。内野ゴロでゲッツーもあるな。でもでもバッターおかわりくんか!頼むで石川~」


 BSOのカウントはワンボール、ツーストライク、ワンアウト。回は四回の表。ランナー一、三塁。

 石川がアウトローのストレートを投げた。それをおかわりくんはレフトへの高いフライを放つ。

 犠牲フライには十分の飛距離で、三塁ランナータッチアップで西武が一点を先制した。


「まあ、ホームランかヒットで点取られるよりはマシだな」


 おかわりくんの次、スパンジェンバーグを4-6-3(セカンド-ショート-ファースト)のダブルプレーに打ち取り、何とか一点で抑えた。


(次はロッテ誰から始まるんだ?)


 とソワソワしているとひかりが俺の隣に座ってきた。


「かわいいなひかり~よしよしよしよし!」


 と撫でてやると嬉しそうに尻尾をぶんぶんと振りまくっていた。そうして構ってやっていると投球練習も終わり四回の裏ロッテの攻撃に移る。

 西武のピッチャーはニール。


 (ロッテの方は・・・。)


 谷保さん──ロッテのウグイス嬢。わかりやすく言うとスタジアムアナウンサーである──のアナウンスで四回の裏先頭バッターの名前がコールされる。


『二番、ライト、マーティン』

(マーティンからか。YESマーティン見せてくれ!)


 そう願うと同時に初球から打ちにいった打球はライトへと放物線を描いて飛んでいき、ライトスタンドへ吸い込まれた。

 思わずテレビ越しからマーティンコールをしてしまう。

 早くも同点に追い付くも、その後は打ち取られてしまい結局四回裏は一点だけにとどまった。しかしこの一点で試合は振りだしに戻る。それだけでも上々だ。欲を言えば逆転するのが一番良いのだが、そう簡単にはいかない。

 五回以降は投手戦となり、八回表まで三者凡退が続き迎えた八回の裏。ロッテは九番ショート藤岡。

 この回で追加点を挙げれば流れが来る大事な回。西武のピッチャーはニールに代わりこの回からギャレットがマウンドに上がっている。

 好調のギャレットをいかに攻略するかがこの回のキーになる。

 しかし藤岡は二球で凡退し、続く荻野、マーティンも倒れ三者凡退の無得点。

 九回に入るがロッテのピッチャーはそのまま石川がマウンドに上がる。西武の打線は三番キャッチャー森からの好打順。

 森は初球から打ちにいきセンターへのシングルヒット。続く四番ファースト山川にもシングルヒットを打たれノーアウト一、二塁。ここで吉井コーチと内野手がマウンドへと集まり言葉を交わした後すぐにポジションにつく。

 そして迎えるバッターは五番指名打者栗山。ここまでノーヒットだが、そういう時こそ打たれるから怖い。

 初球は変化球でアウトローを攻めるもボール。二球目はアウトローに変化球を投げストライク。三球目はアウトロー一杯のストレートを投げボール。際どい。ツーボル、ワンストライクとヒィッティングカウントになり四球目。少し甘くアウトコース高めにはいったボールは栗山に二遊間へ弾かれたが、藤岡が良い所に守っており6-4-3(ショート、セカンド、ファースト)のダブルプレーでランナー三塁へと変わった。

 六番サード中村(おかわりくん──本人の好きな言葉が"おかわり"だとアピールしたことから付けられたんだとか──)

を何とかサードゴロに打ち取り九回表は無得点に抑えた。

 九回の裏は三番レフト清田から。

 西武のピッチャーはギャレットから増田に代わっている。

 初球アウトコース低めの変化球を清田が捉え、ライトへのヒットで出塁する。そして代走清田に代わり岡。バッターは四番指名打者レアード。一発を期待したいバッターだ。

 その初球はインローへの際どいストレート。判定はストライク。続く二球目はインハイへの釣り球を要求する森(キャッチャー)。レアードは手を出さずボール。続く三球目はアウトローへの変化球。判定はストライクでワンボール、ツーストライク。四球目もアウトロー一杯の変化球を投げるもボール。五球目はアウトロー一杯のストレートを投げるもレアードがバットに当てファウルボールでツーボール、ツーストライク。そして六球目。やや内へとはいった変化球は甘く入り、それをレアードが捉え打球はレフトへと放物線を描いて入るかと思ったらフェンス直撃。一塁にいた岡は三塁へ、レアードは二塁へと向かいツーベースヒット。ノーアウト二、三塁で五番ファースト井上。


(頼むで井上・・・!)


 西武陣は一度コーチ、内野手ともにマウンドへと集まり次をどうするか確認した後ポジションへとつく。ピッチャーはまだ代えないらしい。

 そして井上が打席に入る。ここまでノーヒットの井上。初球から打ちにいくもファウルボール。二球目もファウルボールでツーストライク。三球目はアウトローの変化球外れてワンボール。そして四球目。アウトロー一杯にいった変化球を打った打球はレフトへと飛んでいき、三塁ランナータッチアップ体勢。犠牲フライには十分の飛距離。レフトが取ったのと同時にランナースタートし、レフトからの送球も帰ってきて───。

 ヘッドスライディングをした岡はギリギリタッチされる前にホームベースに触れた。ベンチにいた選手たちが、サヨナラ犠牲フライを放った井上に水を掛けに行った。


(何とか今日の試合は勝つことができたな)


 ロッテが勝って一息つく頃には二十二時前になっていた。

 ヒーローインタビュー──試合をつくった石川とサヨナラ犠牲フライを放った井上──を観た後、そろそろ眠くなってきたので自室に戻ってベッドへと入る。

 ひかりも俺の部屋にやってきて隣で丸まって寝る。


(今日はロッテが勝ったから良く眠れそうだぜ・・・)


 勝利の余韻に浸りたかったが、疲れが溜まっていたのかすぐに寝るのだった───。

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