第3話

 昨日、氷室さんと一緒に下校してから翌日。

 特に俺の日常は変わることなく進んで、午前中の授業が終わり昼休み。


「石嶺くん、一緒にお昼ご飯どうかな?」


 氷室さんが俺の所まで来て昼食のお誘いをしてきた。


「いいよ」

「隣にいる佐伯さんも一緒何だけど」

「大丈夫だよ」

「じゃあ決まりだねっ」


 そう言って俺達三人は近くにある机・椅子を引っ張てきて食べやすいように机をくっ付けた。


「「「いただきます」」」


 食べ始めの数分は全く会話がなかったが、食べ物を飲み込んだ後佐伯さんが口を開けた。


「・・・ふたりはどういう関係?」


 一瞬の沈黙。


「友達、かな」


 それに答えたのは氷室さん。


「へーそうなんだ。何か最近石嶺くんと絢が仲良くしてるからてっきりね」


 それからまた無言が続く。

 時々氷室さんがちらちらと上目遣いで俺を見てくるので、何か話題を提供しなくてはと謎の使命感が湧いてきた。


「さ、佐伯さんは氷室さんの事を"絢"って下の名前で読んでるけど、昔からの知り合い?」

「中学一年からクラス一緒だったんだよねぇ。最初絢に話掛けた時はビクッて凄く驚いてた」

「も、もう!そんな事まで言わなくて良いじゃんっ!」

「えへへ~、ついね」


 と氷室さんが佐伯さんの肩をぽこぽこと叩き抗議する。


「へ~そうなんだ。俺は同じ中学のやつが居なくて少し居心地が悪いんだよな・・・」


 肩を竦めてそう言うとふたりが顔を見合せ。


「なら私たちが話相手になってあげるよん」

「わ、私はもう石嶺くんと友達のつもりです・・・」


 ふたりはそう言ってくれた。

 素直に嬉しく、安心感が心に生まれた。


「ふたりとも、これからよろしく」

「ふぁいよ~」

「はい、よろしくです」


 佐伯さんは食べ物を口に含みながら、氷室さんはとびきりの笑顔で応えてくれた───。


※※※


 徐々に陽は延びつつも、時計の針が「五」を指す頃には薄暗さが勝っている放課後。

 ほとんどの生徒が教室から出て、残っているのは掃除当番の生徒と俺と氷室さんの数名。

 掃除は机の間を掃いて教室後方でちりとりでゴミを取るだけなので、掃除当番の帰りも比較的早い。

 先日、日誌書くのを手伝うと言ったのはいいものの、ふたりで日誌一冊に対してどうすれば良いのか全く考えておらず、早速俺はSAN値ピンチ。

 どうすれば良いのか自席に座って思案していると右肩に優しくトントンとされ、顔を右に向けると氷室さんが来ていた。


「石嶺くん」

「ん?おっおう。どした」

「もうっ、人の顔見てびっくりしないでよ」

「悪い、考え事をしててな」

「なに?考え事って」

「大した事じゃないよ」

「?そうなの?」


 可愛らしく小首を傾げながら訊ねてくる。


「う、うん。それでこっちに来たのって日誌の事だよね?」

「うん・・・」

「?」


 少し間が出来たので待っていると。


「日誌一冊に対してふたりで作業って、どうすればいいのかな」


 彼女は苦笑しながら俺も考えていた事を口にしたので、少しドキリとする。


「そうだね、どうしよっか」


 と言っても中々案は出てこない。

 更に沈黙が続くと。


「私が書くから終わったのをチェックしてもらっても良いかな」

「わかった」


 そう言うと彼女はシャーペンをノートにスラスラと滑らせた───。

 書き終わる頃には陽はほとんど落ちており、気温も少しばかりか低くなっている。


「どうかな」

「うん、大丈夫だと思う」

「わかった、じゃあ先生に渡してくる」

「おう」


 氷室さんが教室から出て先生に日誌を渡しに行ってある間に帰りの準備を済ませ、窓の戸締まり・教室の電気を消しておく。


「ただいま」

「おう、おかえり。早かったね」

「先生近くにいたからね」


 パタパタと上履きを鳴らしながら机の横に置いていたバッグを手に取り、教室から出る。


「石嶺くんありがとう」

「ん、日誌の事?それなら俺は特に何かやったわけじゃないけど」

「ううん、それもあるけど窓の戸締まりと教室の電気消してくれたことに対して」

「ああ、そゆこと」

「うん」


 彼女俯きながらコクンと頷く。

 校内は廊下の電気意外は全て点いておらず、少し不気味だ。

 ふたり並んで四階から一階まで階段で下りる。その間特に会話はなく、外にいる運動部の掛け声だけが僅かに聞こえてくるのみ。

 一階に下りて下駄箱に向かっている途中も会話はなく、流石に何か話さないといけないのではないかと焦ってくる。


「氷室さん、今日はその、ありがとう」

「?私何かしましたっけ」

「昼ご飯の時の話だよ」

「?」


 彼女はピンときてないようで眉間に皺をよせながら思いだそうとしてくれている。


「ピンとこないなら無理に思いださなくて大丈夫。俺が勝手に救われた気がしただけだから」

「んー・・・」


 そう俺が言うも、氷室さんは思いだすのに必死みたいで聞こえていないっぽい。

 でもそれは彼女らしくて、俺は心の中で苦笑した───。

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