第8話 邂逅する三人
「先輩、これはどういう事ですか?」
結論から言うと、三崎さんと花渕先輩に告白されたことが三人に知られてしまった。
事の発端は三崎さんが一緒に帰ろうと誘われ、途中で花渕先輩にも誘われたことである。
校門を出ると、黒畑が俺を待っていたらしく、俺の左右に二人の美少女がいることに非難の眼差しを向けられた。当然三崎さんと花渕先輩からの説明を求められて、俺は全てを話した。
現在俺達はファミレスで話し合いをしていた。
最初誰が俺の隣に座るか揉めたけど、真っ先に黒畑が死守して二人は渋々対面へ座った。
既に俺は胃が痛い。俺が悪いかもしれないけど・・・・・・帰りたい。
「ねぇ、柏葉くん。あなた黒畑さんからも告白されていたの?」
「えっと・・・・・・はい」
「ちょっと先輩、それあたし聞いてないですよ?」
「ごめん・・・・・・」
「あの、そんなに柏葉君を攻めないでください」
「あら? 1人だけ柏葉くんにポイント稼ぎかしら?」
「そ、そういうのではないです!? 柏葉君も私達から告白されて悩んだと思うんです。それに他に告白されたこと、本人には伝えずらいと思います」
「三崎先輩の言ってることは分かるけど・・・・・・」
俺はいたたまれなくて何も言えない。
「柏葉くん」
「は、はい」
「柏葉くんに告白したのは私達三人だけ? もしかして他にもいたりしないわよね?」
「さ、三人だけです・・・・・・」
三人の美少女に告白されてモテ期到来とか浮かれることはできない。実際は気まずい。浮気がバレて三人に責められてるような感じだ。
よくラノベでは主人公がハーレムな状況に羨ましいと感じたことはあるが、前言撤回。全然羨ましくない。ただただ気まずくて、胃が痛いだけです。
「なら四角関係って事になるわね。私刺されないか心配になってきたわ」
花渕先輩の視線が三崎さんと黒畑に向けられる。それに当然不満な二人。
「ちょっとそれどういう意味ですか? あたしがそんな重たい女に見えるワケ? そういう先輩達こそ、あたし的には身の危険を感じますけどね!」
「花渕先輩に黒畑さん。そんな喧嘩腰はやめてください。それでは柏葉君が不安になります」
「「・・・・・・」」
三崎さんが二人を止めると、二人からもの言いたげな目を向けられ、たじろいだ。
「三崎さんが一番注意するべき存在のようね。クラスメイトというのは大きな差がついてしまってるわ」
「むむむ、あたしだけ先輩とは違う高校だし・・・・・・」
「あの二人とも?」
俺は発言できずに三人の会話をジッと聞いていた。いや、何も口に出せないです、はい。
「状況を整理するわね」
花渕先輩が今までの話から一度整理して、これからどうするか判断を下すと言い、二人は頷いた。
「柏葉くんに最初告白したのは三崎さん、その後私が告白、その後に黒畑さんが告白。同日に三人から告白されたって事で間違いないわよね?」
「はい・・・・・・それで間違いないです」
「柏葉くんはどうするべきか悩み、出した返事はまず友達から始めること」
「先輩は三人の中で好きな人はいなかったんですか?」
「えっと・・・・・・、告白されたのは嬉しかったけど、三人の事はよく知らなかったから・・・・・・」
「それで柏葉くんはまず友達から始めて、私達の事を知ろうとしたって事ね」
俺は頷いた。
「現状、柏葉くんの私達に対する好感度はゼロに等しいって事よね?」
美少女三人に告白されて、俺は結構三人の事を意識しているし、好感度はゼロとは言い切れない。誰もが憧れる三人美少女、彼女にしたいって人は多いはずだ。俺だってそう思ってた。
少なくとも三人の事を好ましいと思ってる。そう考えると、突出してこの人が好きだって言える人はいないかもしれない。実質、好感度ゼロに等しいと言えるだろう。
「それじゃー今から先輩にアプローチして、好感度を稼げばいいんですよね?」
「く、黒畑!?」
黒畑が俺の腕に抱きついてきた。ってあ、当たってる!?
決して大きくないが、柔らかいのが当たってる!?
「ちょっと黒畑さん!? 柏葉君が困ってますよ!」
「えー? 先輩はほんとーに困ってるんですか?」
「あ、いや・・・・・・あんまりそういうのは・・・・・・」
女子と触れ合う事なんて皆無な俺に取っては刺激が強い。もし二人の時なら嬉しさが勝るが、今は気まずさしかない。ひっ!? 花渕先輩が睨んでる!?
「・・・・・・私も遅れを取らないように、どう柏葉くんを落とすか考えなければならないわね」
こうして話し合いは終わり、終始ぴりぴりした空気が漂い、互いを牽制してお開きとなった。
明日、学校に行くのがつらい・・・・・・。
翌日。
朝登校してすぐに俺は机に突っ伏した。背中が叩かれて、俺は仕方なく振り向くと、心配そうな幸成が声を掛けてくる。
「どうした? 日に日に疲れた顔してないか?」
「そうか? あー・・・・・・そうなのか」
「何があったんだ?」
「・・・・・・三人にバレたというか」
「それは・・・・・・ご愁傷様って言ったらいいのか? というか、その言い方は啓眞が浮気したのがバレたようなニュアンスに聞こえるぞ。それでかなりヤバい状況なのか?」
相談に乗っているんだろうけど、幸成は興味津々って顔をして明らかに俺の状況を面白がっているような雰囲気を感じた。
「別に・・・・・・不穏な空気には・・・・・・・・・・・・」
互いを牽制しあって、終始空気が悪かった。ただ刺されるような事はないはず。彼女たちがそんな事はしないと信じてるし。
「と、啓眞うしろ」
幸成にそう言われ、俺は後ろを向くと、三崎さんが近づいてきた。目が合うと、三崎さんはふっと慈愛が籠もった眼差しを向けられ、ニコッと笑顔で答える。俺も単純で、天使の笑顔が俺だけに向けられたと思うと、心臓がドキッと高鳴るのを感じる。
「おはよう柏葉君♪」
三崎さんのソプラノボイスは、いつもより気持ちが弾んでいた。何か良いことでもあったようなテンション。。
「おはよう」
「今日もいい天気だね♪」
「だな」
いつもの天気の話題から入るのが、俺達の定番となってる。最初はそれだけで会話は続かないことが多かったが今は違う。
「昨日はごめんね? ちょっとビックリしちゃって、その・・・・・・嫉妬しちゃって」
「う、うん。俺こそごめん。初めての事だし、どうしたらいいのか分からなくって・・・・・・」
「ううん。柏葉君は真摯に受け止めて、出した答えだもん。その事に私が攻めるなんてできないよ。だけどね? 私は柏葉君の事諦めないよ。花渕先輩や黒畑さんのような綺麗な人でも、柏葉君に対する想いは誰にも負けてないからね」
「・・・・・・・・・・・・」
三崎さんの真っ直ぐな目に俺は頬が熱くなるのを感じた。女子から強い気持ちをぶつけられたことがなく、戸惑いや気恥ずかしさを感じて、目を逸らしてしまう。
それから俺達の会話に聞き耳を立てていたクラスメイトが、三崎さんの発言にざわついていた。
女子からは興味ありげな視線、男子から嫉妬や殺意の視線。
そんな周囲の雰囲気に気づいた三崎さんは、さっきの自分の発言に、ポッと顔を赤くした。それから俺に会釈してから自分の席へ戻った。
「まさか三崎さんがあんな大胆な発言をするとは思わなかったよ。それで啓眞は誰と付き合うんだ?」
「・・・・・・まだ分からないよ」
三崎さんは魅力的な女性だ。俺のような優柔不断な男に釣り合う筈もない。それは花渕先輩や黒畑にも言える話。どうして自分なのか、未だに疑問が残るが最終的には答えを出さないといけない。
スクエア・ラブ 凉菜琉騎 @naryu0
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