第7話 邂逅する二人
翌日。
俺は朝登校してから席に着いて疲れた顔をしていた。いつも後ろの席の幸成に何か話しかけるものだが、今日は机に突っ伏した。
「どうした啓眞?」
俺の様子に何か察したのか、幸成から話しかけてきた。別に何か合ったワケではないが、例の告白のことで悩んでいた。いや、一応返事はして解決はした。したのか?
「幸成・・・・・・。俺やったよ・・・・・・。これからどうしたらいい?」
「話が見えないが・・・・・・。アレはどうなったんだ?」
「アレ・・・・・・アレね。えっと・・・・・・友達から初める事で一応解決した・・・・・・?」
「あー・・・・・・そうか。まあ頑張れ」
幸成の視線が俺の後ろへ向けられて、釣られて振り向くと、天使の三崎さんが近づいてくるじゃないか。あの微笑みに俺は見とれた。可愛い。
「柏葉君、おはよう」
「あ、ああ。おはよう」
これはいつも交わす挨拶。いつも通り・・・・・・と思っていたが、以前は遠慮がちで、距離感は一定のままだった。それが今はなく、友好的な雰囲気を感じる。
「あ、柏葉君、髪跳ねてるよ?」
そう言う三崎さんの手が俺の跳ねてると思われる髪に触れた。心拍数も跳ね上がる。その今までにない行動に俺は動揺する。何この恋人のような感じ? 俺の心臓一つじゃ保たないんだけど?
「み、みみみ三崎さん!?」
「ん、これでいいかな?」
「あはい」
直ってるか確認できないが、三崎さんが直ってると言うのなら直ってるんだろう。
というか周囲の視線が・・・・・・。ひっ!? 男子か殺意が!?
「どうしたの柏葉君?」
「いえ、何でもないです」
三崎さんを直視できない。この甘々な雰囲気は一体なんだ? 俺何かしたのか? って告白されて、まずは友達から始めてるんだよね。
・・・・・・ん? これは友達の距離感なのか? そもそも友達って触れ合うのは有りなの? 無しなの? もちろん変態的な意味ではない。
「その柏葉君・・・・・・お、お昼、今日も・・・・・・いい?」
緊張した面持ちで三崎さんは俺を伺っている。その愛らしさにキュンってなる。え? 可愛くない? 可愛いよね?
「・・・・・・・・・・・・」
あまりの可愛さに言葉を失った。
三崎さんの瞳が不安に駆られて、俺に悲しげな表情をした。ごめん、違うんだ、三崎さんにそんな表情させるとか俺は何やってるんだ。
「も、もちろん! 俺でよければ・・・・・・?」
「ーーよ、良かった・・・・・・」
胸をなで下ろす三崎さんの胸をつい目が行ってしまう。とても柔らかそう。って何を見てるんだ俺は!? 相手は天使様だぞ? 邪な事を考えただけで俺は死罪だぞ? ごめんなさい。
ちょうどチャイムが鳴ると、三崎さんは「またお昼にね?」と小さく手を振ってくれた。もうね・・・・・・可愛くて俺は今すぐにでも彼女にしたいと思った。
呆然とする俺の背中をトントンと幸成に叩かれる。振り返ると、何故か神妙な顔になっていた。
「啓眞さ、これからが大変になってくるぞ?」
「え? どゆこと?」
「三人が出会ったときどうなると思う?」
「・・・・・・・・・・・・」
これがラブコメなら主人公を巡ってアプローチされるだろう。エロゲなら選択肢によって誰かのルートに入ることもある。では現実では?
俺は誰が好きなのかも分からない。優柔不断な性格で、友達として始めることで告白された返事をした。その選択が正しいかは誰だって分からない。
ただ幸成の言葉に少しだけ不安があった。
それは三人はお互い俺に告白した事を知らない。
「だからまあ、啓眞・・・・・・刺されないようにな」
「ちょっと怖いこと言わないでよね!? というか、三崎さん、花渕先輩、黒畑はそんな事するはずが・・・・・・ないと思うが・・・・・・」
三人の事を深く付き合いがあるわけでもないし、どんな人柄なのか知らない。いや、外向きであればどんな人かは知っている。彼女たちの内面までは俺は知らないだけだ。
あれこれ悩んでいると、担任が教室に入ってきた。俺は幸成との会話を中断し、三人の事を考え始めた。
昼休み。
俺の席へ三崎さんが近づいて来て、はにかみながら「いこ?」と囁いてきた。俺はドキッとする。
冷静に返事をしようとするも、言葉が喉に引っ掛かって返事ができない。代わりに頷いた。
俺達は教室を出ると、周囲の男子から殺意の視線が向けられる。天使を独り占めしてるんだ、仕方がない・・・・・・。というかその中に光太郎からの視線もあった。口パクで「処す」と言ってる。いや、気持ちは分かるが・・・・・・。
それから屋上へ向かう途中。
「あら? 柏葉くんじゃない? ちょうど良かったわ」
花渕先輩に声を掛けられたら。
え? なんで? って屋上に向かってるんだから三年の教室がある階を通るのは必然。花渕先輩に出会うのも当たり前だろう。
いや待てこの状況・・・・・・なんか気まずいです。
横目で三崎さんを見れば、驚いた顔をして、俺と目があった。その瞳からは「どうして花渕先輩が柏葉君を?」と訴えてくる。
「あ、えっと、花渕先輩? 俺に何の用が・・・・・・?」
なんか嫌な予感がする。
「それは柏葉くんとお昼を一緒にしようと思ったからよ?」
「「え?」」
俺と三崎さんが同時に驚きの声が漏れた。うん、三崎さんも驚くよね。
花渕先輩の視線が俺の隣にいる三崎さんへ顔を移した。目がスッと細くなる。
「あなたは?」
「あの、柏葉君と同じクラスの三崎です」
丁寧に頭を下げる三崎さんを花渕先輩は観察するようにジッと凝視する。
「そう、柏葉くんと同じクラス・・・・・・。そのクラスメイトが柏葉くんに何か用があるのかしら?」
「私は柏葉君と一緒にお昼を食べるんです」
「先約がいたのね。それで柏葉くんとはどういう関係なの?」
「柏葉君とは・・・・・・友達以上の関係です」
チラリと三崎さんに目を向けられ、はにかんだ笑みを浮かべた。
確かに友達になったから三崎さんの言うとおりではあるが、友達以上の関係とは一体?
そんな三崎さんの答えに花渕先輩は俺をジッと凝視して、何か納得したように「そう」と答えた。え? 何を納得したんでしょうか?
その疑問は直ぐに花渕先輩の口から聞くことになる。
「柏葉くんが私の告白に、『まずは友達から』と返事をしたのはそういう事ね」
「え? 告白・・・・・・? 柏葉君?」
花渕先輩の言葉に目を見開いた三崎さんは、俺に非難の目を向けられる。すみません・・・・・・花渕先輩に告白されたことは伝えてないです・・・・・・。
「柏葉くん、あなた私と三崎さんから告白されたんでしょ?」
「・・・・・・そうなの?」
二人から攻められるような視線を向けられてる感じがして俺は居心地が悪かった。
これは俺が優柔不断で、曖昧な返事をしたから起こってしまった。浮気がバレたような雰囲気が漂ってるが、別に俺は浮気はしてない。なぜ?
「えっと・・・・・・ご、ごめん! い、いい加減な気持ちで返事したくないし、ちゃんと向き合ってからどうするか返事をするつもりだったんた」
「・・・・・・謝る必要はないわ。柏葉くん。それは誠心誠意柏葉くんが私達に向き合ったから『まずは友達から』という返事でしょ? 柏葉くんが三崎さんに告白されてた事は非難する事ではないわ。三崎さんの方はどうか分からないけれど」
花渕先輩の鋭い眼光が三崎さんを射抜き、一瞬だけ怯んだ三崎さんだが直ぐに向き合って、堂々と立ち向かう。
「私も柏葉君が花渕先輩に告白されてた事には特に言うことはないです。柏葉君が真摯に受け止めて答えてくれましたので、私はそれを受け止めます」
「そう。なら誰が柏葉くんの彼女になるか。これから私達は三角関係となり、血みどろな展開にこれからなるわけね」
「え・・・・・・?」
待って、花渕先輩? 俺はそんな展開求めてないんだけど?
「そ、そんな事しません!」
「そう? 私刺されるんじゃないかってちょっと心配なのよね」
「しません! 花渕先輩のような綺麗な方が柏葉くんに告白してた事は驚きました。けど私は絶対花渕先輩に負けません! 私の方が柏葉君の事が好きって気持ち強いですので!」
「ーー~~っ!?」
三崎さんの力強い宣戦布告に花渕先輩は驚愕し、三崎さんの気持ちをぶつけられた俺は顔を赤くした。
意外な一面を見せた三崎さんにこの瞬間意識をしていた。
「・・・・・・そう。これは手強い子が現れるとは思わなかったわ。取りあえず、ここで立ち話してもお昼を食べる時間が無くなるわ。屋上へ行きましょうか?」
花渕先輩が先導し、俺達はついていった。
昼休みはずっと二人に挟まれて気まずい昼休みを過ごした。というか黒畑にも告白された事を伝えるタイミングを逃した。これは早めに伝えた方がいいよね?
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