第6話 告白の返事~海音編~
花渕先輩と別れて、俺は昇降口を出た。
残るは黒畑だけである。一応メールで会えるか送った所、秒でOKを貰った。場所は黒畑に告白された公園である。なぜ三人に告白された場所で返事を・・・・・・なんて思ったがこれも何かの縁なのだろう。
三崎さんや花渕先輩に返事を決意した時と同じように、緊張している。二人から快く友達から始めることができたが、黒畑に軽蔑されてもおかしくないはずだ。こうも上手くいくなんて無いのだから。重い足取りで俺は公園へ向かう。
数分で公園に着くと、ベンチに座ってスマホを弄る黒畑の姿を見る。その顔は心なしか、緊張と期待、不安が入り交じっている。俺の返事で黒畑は期待を外し、俺の事を失望させてしまうかもしれない。それを考えると、胃が痛くなる。
「く、黒畑」
「あ、先輩やっと来た! 話があるって言うから急いで来たんですからね!」
ベンチから立ち上がった黒畑は頬を膨らませてジト目を向ける。
「わ、悪い。待ったか?」
「大丈夫ですよ♪ それで話って・・・・・・アレですよね?」
その瞳は先ほどと同様に期待と不安が混じった色をしていた。
俺は喉を鳴らして、覚悟を決めて返事をする。
「黒畑。告白されたのは嬉しかった。ただ・・・・・・俺は黒畑の事は知らないから、まずは友達から初めてもいいかな? それから改めて返事をしたい」
俺の返事に黒畑は横を向いて、何やら思案顔となる。三崎さんや花渕先輩に受け入れられたけど、やっぱり黒畑もなんて期待しちゃいけないよな。俺の優柔不断な態度に軽蔑されてもおかしくないし。
それからしばらくして、黒畑は俺をチラリと見て口を開いた。
「それって、他に好きな人がいるとか、あたしの事を遠回しに振ってるってことじゃないって事ですよね?」
「あ、ああ。好きな人はいないし、できれば黒畑の事を知ってから改めて返事がしたいんだ。告白されたのは素直に嬉しいし、俺なんかでいいのかって思ってるくらいだし」
「ふーん・・・・・・。ならまだチャンスはあるって事ですか。それはそれでラッキーって感じだけど・・・・・・てかあたし達の関係ってまだ友達じゃ無かったんですか?」
不満な顔で黒畑からジト目を向けられる。
何回か出会っているけど、それはどれも偶然の出会いであって友達に発展しているかと考えると首を傾げた。
「友達って言うほど・・・・・・そんなに絡んでいないような気がするんだけど・・・・・・?」
「何回も会ってるんですから、あたしは友達だって思ってたんだけどな・・・・・・」
「そ、そうか? えっと・・・・・・ごめん」
「はいはい。もう気にしてませーん。なのでこれからは先輩にアプローチしていきますので覚悟してください!」
黒畑はビシッと人差し指を俺に向けて小悪魔な顔を浮かべた。
「あ、アプローチって・・・・・・?」
「そうですね・・・・・・例えばーー」
近づいてきた黒畑。甘い匂いが俺の鼻孔をくすぐった。それだけで異性にあまり耐性の無い俺の心臓は高鳴る。しかし、それだけで無く、黒畑は俺の手を握ってきた。小さく柔らかい女の子の手を初めて触れて、俺の顔は真っ赤になる。
「く、黒畑!?」
裏声で発して恥ずかしい。
心臓の鼓動も近くにいる黒畑にも聞かれている。こんな恥辱を味わって俺が異性と関わった事が無い童貞だと知られてしまう。
「えへへ、こ、これはハズい・・・・・・」
チラリと黒畑を見ると、俺と同じく顔を真っ赤に沸騰しているような感じだった。もしこれが恋人同士なら一体どうなっていただろうか。
お互い恥ずかしさで、直ぐに手を離した。
お互い沈黙が流れる。
やがて黒畑の方が背を向けて。
「せ、先輩!? きょ。今日はこれくらいにしときます! だ、だからこれからは覚悟してください!」
それだけ言うと、黒畑はダッシュで公園を出て行った。
俺は呆然と黒畑の背中を見ていることしかできず、後輩の黒畑にドキドキさせられて、しばらく固まっていた。
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