第4話 告白の返事~璃桜編~

 昼休み、いつもお昼は幸成と光太郎の三人で学食で食べるのがいつもの日常である。それは今日も変わらず,二人と共に学食へ行く予定だったが、昼休みが訪れると共に、俺の席へ三崎さんがやってきていた。手にはなぜか弁当箱が2つある。


「あの柏葉君、よかったらなんだけど・・・・・・お昼一緒にしたいかな?」


「え?」


 まさか三崎さんからお昼を誘われるとは思わず、間の抜けた声が出た。まさか天使様が、俺のような凡人をお昼をご一緒できるとは全然思わないだろう。

 いや、三崎さんに告白された今、俺はもしかしたらと予感は覚えていたかもしれない。

 俺は三崎さんが持つ弁当箱2つへ視線に入る。流石の俺でもなぜ三崎さんが弁当箱を2つ持っているのか看取できる。

 もし俺が断ってしまったらそのもう一つの弁当箱はどうなるのか。そう考えると三崎さんとのお昼を断れない。というか是非にご一緒したいし、誰もが羨む天使様ーー三崎さんの弁当が食べたい。

 チラリと幸成の方へ目を向けると、顔は「俺に構わず、行ったらどうだ?」と目で言っていた。

 三崎さんが俺のために弁当を作ってきたくれたのだ。これは断れない。・・・・・・というかその弁当は本当に俺のか確信できていない。

 兎にも角にも、俺にとっては好都合。三崎さんに話があるし、この機会を逃せない。


「う、うん。いいよ。どこに行く?」


「えっと・・・・・・屋上?」


 三崎さんが指定された場所は奇しくも告白された場所だった。

 俺はこのあと返事をすると考えると、緊張してきた。

 俺は頷いて、三崎さんと共に屋上へ向かった。

 当然だが、男子からの殺意を受けながら。



 俺達は屋上にあるベンチに腰掛けて、なぜか弁当箱持ったまま三崎さんは沈黙していた。俺はどう言葉にしたら良いのか分からず、チラリと横を見ると三崎さんと目があった。

 三崎さんの睫毛長いとか、やっぱり可愛いなとか思ったが、気まずくなり直ぐに目を逸らした。それから、三崎さんに告白された日の事を想起した。

 自然と頬が熱くなるのを感じて、心臓の音が速まる。告白されたのも初めてだし、こうして女子と二人でいるのもあまりないから、どうすればいいのか分からない。幸成助けてくれ。


「あ、ご、ごめんね。こ、これ、柏葉君にお弁当作ったの。良かったら・・・・・・食べてくれると嬉しいかな・・・・・・?」


 三崎さんから沈黙を破り、弁当箱を受け取った。


「あ、ありがと・・・・・・嬉しいよ」


 俺がお礼を言うと、三崎さんはほっとしてはにかんだ笑みを浮かべた。天使だ。その誰にも向ける天使の笑顔は、今俺が独り占めしている。

 だけどいいのだろうか? だって天使様の笑顔って国宝級だぞ? それを俺が独り占めしていいのか?

 俺は国宝級の笑顔に一瞬見とれる。可愛いな・・・・・・。


「あの、柏葉君?」


「え!? ご、ごめん!? 見とれーーいや、何でも無い!?」


 今俺は何を口走ろうとした!? 本人に見とれてたとか恥ずかしいだろ!?

 三崎さんは微かに頬を染めていたが、俺は咳払いする。気を取り直して三崎さんの弁当箱に意識を向けて蓋を開けた。

 弁当箱の中身は、定番の厚焼きたまごに唐揚げ、ポテトサラダ、ご飯の上には海苔が乗っていた。どれも美味しそうで涎が出る。

 三崎さんの手作り弁当、俺は今それを手にしている。それを俺が食べていいのか? 受け取ったんだし、食べていいんだろう。

 俺は「いただきます」と口にして、三崎さんの弁当に箸をつける。まずは厚焼きたまご。

 一口咀嚼すると、口の中に程よい甘さが広がる。美味い。


「どう・・・・・・かな?」


 三崎さんは自分の弁当に手をつけずに、俺が食べる様子を窺って不安そうな顔をしていた。


「美味いよ! こんな三崎さんの弁当を食べられるなんて、果報者だよ!」


「そ、そんな大袈裟だよ・・・・・・。でも柏葉君に美味しいって言って貰えて良かった。口に合うか不安だったよ」


「こんなに美味いんだからそんな心配する必要ないよ。これなら将来の旦那さんも大喜びだよ!」


「え!? そ、それって・・・・・・あの・・・・・・」


 三崎さんが突然顔を真っ赤にして、チラチラと俺に視線が行ったり来たりと、一体どうしたのか?

 はて、俺はさっき何を三崎さんに言ったのかしばし思い出す。


『ーー将来の旦那さんも大喜びだよ!』


 確かに俺はそう言ったが・・・・・・え!? それってーー。


「あ!? いや!? アレ・・・・・・次は唐揚げ食べよう!」


 俺は誤魔化すように唐揚げを食べた。

 醤油ベースの定番な味。当然、これも凄く美味い。語彙力ないけど、とにかく店に出しても問題ほど美味しい。

 三崎さんの弁当を数十分で完食し、満足した俺は三崎さんの様子を窺う。

 ちょうど三崎さんも食べ終わり、顔は満足げだった。その姿に俺は少しチクッとした胸の痛みを感じた。

 三崎さんに告白の返事をしなければならない。

 もし花渕先輩や黒畑に告白にされなかったら、俺は三崎さんの告白を受けていただろう。ただ、同じ日に三人から告白され、未だに俺の中でどうすればいいのか答えが見つかっていない。三人の事は名前だけは知ってるが、それ程深い付き合いはない。安易に返事するのも悪いし、三人の事を知ってから改めて答えを出したいと思ってる。

 俺の答えに三崎さんはどう思うのだろうか。もしかすると、三崎さんとこうして会話するのも最後になるかもしれない。そう思うと、罪悪感が押し寄せてくる。

 俺は少し緊張した面持ちで三崎さんに向き直る。

 三崎さんは俺の雰囲気に察したのか、一度目を伏せて覚悟を決めた顔で俺を見る。


「あ、あの、こ、告白の事なんだけど・・・・・・」


「・・・・・・はい」


「三崎さんの事を知ってから、改めて返事してもいい?」


「え?」


「あの、まずは友達から? 初めてもいいかなって・・・・・・。ごめん! 直ぐに答えられなくて・・・・・・」


 頭を下げて三崎さんの言葉を待つ。

 直ぐには三崎さんから言葉が無く、俺はしばらく頭を下げ続けたが不安になる。こんな答えを出してズルいだろう。軽蔑されてもおかしくない。いや、きっと三崎さんは俺の曖昧な答えに軽蔑したはずだ。


「柏葉君、私の方こそ、ごめんなさい」


 しかし、三崎さんからの言葉はなぜか謝罪だった。それには俺も困惑した。


「え? どうして三崎さんが謝るんだよ?」


「私が突然告白したから柏葉君を困らせてしまったでしょ?」


「そ、そんな事ないよ!? こんな俺なんかに告白してくれて嬉しかったし!」


「・・・・・・うん、そっか。良かった。友達からということは、まだチャンスがあるんだよね?」


「あ、う、うん・・・・・・」


 俺の答えに三崎さんは安堵し、笑顔と小さくガッツポーズを取った。その姿が可愛いくて、俺は一瞬見とれた。

 それから俺達は他愛ない話をしてお昼休みを過ごした。

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