第2話 相談

 翌日の朝。

 俺は寝不足から欠伸を噛みしめながら教室に入った。自分の席に着いて俺は後ろの席の幸成へ振り返る。

 当然だが、女子達は俺を一睨み。しかし、俺は超重要な事を幸成に相談しなければならない。あと寝不足で若干目付きが悪くなっている。そんな俺を女子達は舌打ちをして離れた。今は一刻も争うことなんだ。


「今度はなんだよ啓眞」


「お前ってさ、結構色んな女子から告白されてるだろ?」


「・・・・・・何が言いたい?」


「お前を見込んで相談があるんだ。いや助けてくれ! 俺・・・・・・昨日ーー」


「あの、柏葉君・・・・・・」


 俺が三人に告白された事を告げようとしたところで誰かに声を掛けられた。いや、その声は知っている。恐る恐る顔を向けると、三崎さんがはにかんだ笑みを浮かべていた。え? 天使?


「お、おはよう・・・・・・」


「あ、ああ・・・・・・おはよう」


 それっきりお互い無言になる。

 めっっっっっっっっっっっっっっっっちゃ気まずい!!!

 だって、昨日告白された女子から話しかけられたんだよ? どう接したら良いのか分からんし、彼女いない歴=年齢の俺にはハードルが高い。無理。助けて幸成~。


「・・・・・・」


 チラリとSOSを幸成に送ると、俺と三崎さんに視線を行き来し、何かを考えている。それはいいから早く助けてくれよ・・・・・・。


「えっと・・・・・・ご、ごめんね? いきなり無言になって・・・・・・。柏葉君にどう話したらいいのか分からなくなっちゃって」


「あ、い、いや・・・・・・ふ、普通でいいんじゃない? い、いつも通り今日は天気がいいねとか・・・・・・?」


「うん・・・・・・そうだね。でも、柏葉君とは天気の事以外も、会話したい・・・・・・かな?」


「お、おう・・・・・・」


 また無言。

 もうどうしたら分からなくって、テンパってると、チャイムが鳴った。俺はそれに救われた。


「あ、それじゃあまたね?」


 それだけ言うと三崎さんは自分の席へ戻った。そして周囲の男子から殺意の視線が。


「なぁ啓眞。お前らなんかあったのか?」


「あー・・・・・・あったといえば、あったというか・・・・・・今俺非常に困ってるんだ。詳細は昼休みに話す。だから俺を助けてくれよな!?」


「どういうことだよ」



 そして、昼休みになると、俺と幸成、それからもう一人俺の友人の斉藤光太朗さいとうこうたろうと一緒に学食へ向かう・・・・・・途中で俺は花渕先輩に出会った。ハッキリ言って今は会いたくなかった。


「あら? 柏葉くんじゃない。奇遇ね」


「花渕先輩・・・・・・」


「もしかして学食に行くのかしら? ・・・・・・本当は柏葉くんとお昼を一緒にしたいんだけど、これから用事があるのよね」


「そ、そうですか・・・・・・はい」


「またいつかご一緒しましょうね? それと例の件、待ってるからね?」


「は、はい・・・・・・」


 それだけ告げると花渕先輩は去って行った。常に堂々として、女子相手に言う言葉じゃないがかっこいいと思えた。

 そんな俺達の会話に光太朗がギロリと睨まれた。


「おい、啓眞。どうして花渕先輩がお前に話しかけてくるんだ!? というか例の件って何!?」


「いや、それは・・・・・・」


「朝は我らが天使の三崎さんにも声をかけられて!?」


 ちょっと面倒くさい事になった。相談相手は幸成だけでよかったんだが、もし三人に告白されたとか光太朗に知られたらどうなる。もっと面倒くさいことになるぞ。だがもう俺達は学食に向かっている。さすがに光太朗だけをのけ者にはできない。仕方ないから腹を括るしか無い。


「まあ、席が埋まる前にとっとと学食行こうぜ」


 幸成の言葉に俺達は学食で食券を買って、食い物を確保して俺達はテーブルに着いた。光太朗をチラリと一瞥すると、カレーを頬張っている。俺は一度、水を飲んでから幸成に相談した。


「幸成、相談・・・・・・俺を助けて欲しいだが」


「あー朝の? 助けるってなんだ?」


「・・・・・・俺さ、こ、告白されたんだ」


「貴様!? 今何と申した!? 場合によっては戦争が起こるぞ!?」


「ちょっと光太朗落ち着けって。で、啓眞が告白されるなんて本当か? 彼女欲しいって言ってたし、これで啓眞も彼女できるじゃん」


「・・・・・・三人」


「・・・・・・ん? 三人って?」


「三人に告白された」


「かはっ!? き、貴様!? さ、ささささ三人に告白されただと!? 貴様死罪じゃ!」


「光太朗マジで落ち着けって。・・・・・・三人に告白されたってマジか? アレじゃ無いよな? エロゲの話とかじゃ無く?」


「リアル。三次元。マジで」


「・・・・・・誰に告白されたんだ? って一人は何となく想像できるんだが・・・・・・」


「三崎さんと花渕先輩と黒畑」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 光太朗は既に白目を向いて、現実逃避していた。

 それに構わず、俺は幸成に助けを求めた。


「お、俺どうすればいいだよ!? こ、こんな時経験豊富な幸成なら解決方法があるだろ? それを俺に教えてくれよ!?」


「別に俺はそんなんじゃないけどさ。・・・・・・三崎さんは何となく啓眞の事が気になってんだろうなって思ってたけど。あの花渕先輩が啓眞に告白なんて・・・・・・。それに黒畑さん? 確か偶然出会った星葉の子でしょ? てかそんなに喋った事無いとか言ってなかった?」


「そうなんだけど・・・・・・どうして俺なんかに告白なんかしたんだろう・・・・・・これってやっぱり罰ゲームか何かなのか?」


「黒畑さんがどんな子か知らないけど、少なくとも三崎さんと花渕先輩はそんな事しないだろ。それは啓眞だって分かっているだろ? 啓眞にとっては信じられない事だろうけど、三人は啓眞の事が本当に好きで告白したんだろ? なら真剣に答えないと」


「そ、そうだけどさ・・・・・・じゃ、じゃあどうしたらいいんだ?」


「いや、そこは啓眞が考えるべきだ。三人の想いに、啓眞も真剣に答えるべき。それしか答えようがない」


「ごもっともな意見だけど、やっぱりどうすれば良いのか分からないんだよー! イケメンの友人キャラはもっと何かアドバイスくれるはずだろ!?」


「俺をエロゲ主人公の友人に重ねるな。・・・・・・まったく、なら啓眞は誰が好きなんだ?」


「え? それは・・・・・・三人ともあんまり知らないし・・・・・・」


「・・・・・・なら一人ずつ聞こうか。エロゲ風に言うなら、どうやって三人のフラグを立てたかだ。まずは三崎さん。確か挨拶くらいはしてただろ? それだけでフラグを立てるのは弱いだろうし、俺の知らない場所で啓眞は三崎さんの好感度が上がっているはずだ。何かそのきっかけになるエピソードないか?」


「エピソードね・・・・・・特に無いと思うんだが・・・・・・。うーん、1年の時も同じクラスだったけど、ノート重そうに運んでるときとか、大きいゴミ袋を一人で運んでる時とか、いつも見かけてたから俺が代わりに運んだくらいかな。まあさすがにこれじゃ無いと思うけどさ」


「・・・・・・・・・・・・あー分かった。啓眞が俺の知らないところで三崎さんのポイントを知らずに稼いでたんだね。納得」


「は? どういうことだよ?」


「お前が鈍感主人公だって事だよ」


「何を言う!? アニメやラノベ、漫画、エロゲ、数々のラブコメを作品を知っている俺が鈍感なワケないだろ!?」


「じゃあ聞くが、啓眞が見てきたラブコメの話に、ヒロインが一人重いノートや大きいゴミ袋を運んでいた、それを主人公がさりげなく持ってあげる。そんなシーンはあったか?」


「お前それは莉央奈のフラグ立てるイベントじゃねぇか!」


「どんな作品か知らんけど、それをお前と三崎さんに重ねれば分かるだろ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え? それって三崎さんの好感度上がってんじゃん? いや待てよ! アニメの話だぞ? リアルでも同じだと思ってるのか?」


 アニメやラノベはあくまで創作物であって、実際に好感度が上がるなんてまずあり得ないだろ? だって俺のような平凡な男に三崎さんが好感度上げるとは思えない。


「女の子ってそういうさりげない気遣いに惚れる事がある。知り合いの女子からそう聞いたことがある。だから十分にあり得る話だろ」


「マジか・・・・・・」


「まあ三崎さんの話は分かった。啓眞の気持ちも分かった。次だ。花渕先輩についてはお前と会話しているところを見たことがないんだが、どういうきっかけなんだ?」


「いや、俺もよく分からないというか・・・・・・なんか偶然出会って話しかけられる程度というか・・・・・・」


「それだけじゃ分からないな・・・・・・他にエピソードはないのか?」


 花渕先輩に関しては俺もなぜ話しかけられるのか謎であった。エピソードがあると言われても特にないはず・・・・・・。もう少し考えると、ふとある出来事を思い出した。


「確か、花渕先輩と最初に出会ったのは・・・・・・あれだ。車に轢かれそうになったところを助けたんだよ。その時が花渕先輩だとは知らなかったけど、よくよく思い出したらあんな綺麗な黒髪の女の子は花渕先輩しかいなかったよな」


「・・・・・・・・・・・・また知らない所で花渕先輩のポイントを稼いでいたのかよ。まさかそれで惚れるはずが無いと啓眞は言わんよな?」


「い、いや。さすがにまあ・・・・・・分かるけど。別にポイントが稼ぎたいとかじゃなく、本当に危なかったから助けたんだぞ?」


「それは分かってる。まあ花渕先輩が無事でよかったよ。でもまあそれは啓眞に惚れるよな」


「・・・・・・でもさ、別に俺なんかに惚れるなんてさ、相手は高嶺の花だぞ?」


「あーお前の気持ちは分かった分かった。次は黒畑さん。さすがに他校の生徒と啓眞の事なんか知らんからな。黒畑さんのエピソードは?」


「エピソードつっても・・・・・・あれかな。俺が一人本屋に行くために駅前に行ったんだよ。その時に黒畑がナンパされててさ、なんか迷惑そうにしてたから助けて、そのまま本屋に行ったかな。初対面だし、俺だぞ? さすがにそれだけで好感度上がる事はないだろ?」


「う~ん・・・・・・まあそうだな。というかお前確か、黒畑さんにちょくちょく出会ってるって言ってただろ?」


「いや、なんか放課後に本屋寄るときとか、休日に駅前に行くたびに黒畑と偶然出会うんだよ」


「あー・・・・・・そういうこと」


「どういうことだよ? 黒畑が俺に好感度上がるイベントないぞ?」


「もう何回も起こってるよ。最初にナンパされてる所を助けて何も無く別れたんならそれで終わっただろうな。ただ偶然ナンパから助けたお前と出会ったんだ。それも何回も。多分お前に運命を感じたんじゃないのか」


「・・・・・・いやだって俺だよ?」


「はいはい、お前の気持ちはわかった。結論、啓眞は三人にまだ好意はない。だた三人はお前に好意があるってことだ。結局お前は誰を選ぶか分からずじまい。つーか、三角関係すらドロドロの予感しかしないのに、四角関係とかどんだけだよ・・・・・・。お前刺されるんじゃないか?」


「ま、マジでそういうこと言うなよ!? こんな時何が最善なのか教えてくれよ!?」


「その優柔不断なところがドロドロの展開になるんじゃないか? お前、ドロドロの四角関係になってから俺に相談とか勘弁してくれよ・・・・・・?」


「そ、そんな・・・・・・三人とも大丈夫だと思うけど・・・・・・」


 そう思うものの、なぜか不安になった。

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