スクエア・ラブ

凉菜琉騎

第1話 三人の美少女からの告白

 俺は非常に危機的状況にいる。

 4月から2年に進級した俺ーー柏葉啓眞かしばけいまは、このまま行くと彼女もできずに灰色の青春を迎えることになる。


 運動神経は普通。

 成績は普通。

 ルックスは普通。


 どれも平凡並なのが俺である。ちなみにそれに付け足すと俺は陰キャだ。アニメ観るし、漫画やライトノベルも読む、エロゲだってする。こんなオタクの俺だが、別に二次元が嫁! 三次元なんて興味ないとは思ったりはしない。人並みには女子に興味はある。

 ただまあ・・・・・・陰キャでオタクということで女子から話しかけられることはあまりないし、おそらく、これと言って何かフラグを立てた事も無い。

 日々、女子との会話イベントや突然の告白イベント等々、切望する事はある。というかマジでそういうイベント来てくれませんかね。

 と、まあ2年に進級するまではこれと言って何も起こっていない。青春したい。

 彼女いない歴=年齢の俺に彼女できないかな・・・・・・。

 そんな悩みを抱えていた。

 そうそう、彼女欲しさに1年の冬くらいから自分磨きを始めた。習慣でランニングも始めたし、筋トレも続けた。クリスマスまでに彼女作ろうと躍起になっていた時期だ。結局、何もイベントは起こらなかったけどね。

 それでもまだ自分磨きは続けている。今年のクリスマスまでには絶対に彼女作ると目標を掲げている。



 今は4月の半ば。

 俺の通う聡岳そうがく高等学校は割と有名な進学校である。俺の成績ではギリギリで合格をして入学をした。なぜ選んだのか理由は単純。家から近いからだ。俺の成績の合う高校は自転車で20分以上は掛かる場所だったと記憶している。それに比べて聡高は家から徒歩で10分。こんな近いのなら頑張って勉強するしかないだろ!

 まあそういう事情は置いといて、まずは俺は彼女が欲しい。こんな時に相談に乗ってくれる友人がいる。


 朝、登校した俺は自分の席に座り、後ろを振り返る。そこには俺の友人の西山幸成にしやまゆきなりが座っている。

 幸成はイケメンの陽キャであるが、俺のような陰キャでも普通に会話し、趣味の事で、今期のアニメのオススメとか聞いてくるほど仲が良い。そして、そんな幸成の周りには女子が数人いる。幸成を狙う女子は何人もいて、必死に自分をアピールするために会話してくる。

 幸成が彼氏だと、さぞかし周囲に自慢でき、自分の地位もランクアップするんだろうね。それを狙う女子は、俺の中では忌むべき存在だ。

 男を顔や年収で判断する女子は等しくクズだと思っている。まあ幸成は外見も中身もイケメンだから狙うのは仕方ないだろう。俺が女だったら絶対に狙ってた。

 そんな事を考えていると、俺の視線に気付いた女子が「うわ、何こいつ? 幸成君に話しかけないで欲しいんだけど」という視線が突き刺さる。

 幸成は俺の友人なんだからいいだろ!

 って、あんまり強く言えず、視線を受けた俺は女子からの痛い視線に耐えられず、目を背けてしまうけど・・・・・・。


「ん? 啓眞? 俺に何か用があるのか?」


 幸成が俺の視線に気付いたようだ。それによって女子達は舌打ちをして、その場から去った。怖い。


「いやさ、相談があって・・・・・・」


「相談って、それってどうしたら彼女ができるかって話? もう散々聞いてるけど・・・・・・。それで何?」


「もう俺達も二年だろ?」


「そうだな」


「もうすぐ受験も控えている。なら分かるだろ?」


「・・・・・・要は今年中に彼女作るって事? 去年のクリスマスまでに彼女作るって自分磨きしてるけど、その成果は?」


「ない。以上」


「啓眞さ、自分から行動してる?」


「行動・・・・・・」


 今までの自分の行動を思い出してみると・・・・・・家が近いから、直ぐに帰宅する事が多かった。帰宅部だから。たまに新刊の発売日に本屋に行くくらいだけど、それ以外は特に何も無い。


「俺に選択肢が出てこないんだ・・・・・・」


「エロゲじゃないんだから現実に選択肢とか出ないでしょ? というか行動してないね。それが原因でしょ」


「選択肢が現れないんだから仕方ないだろ!?」


「何で逆ギレされてんの俺・・・・・・。取りあえず、啓眞は自分から行動を起こすことから始めないと。アニメのように何でもイベントが発生するワケじゃ無いんだし」


「もう正論過ぎて何も言えないよ・・・・・・」


「そういえば、啓眞も女子と会話するでしょ? 同じクラスの三崎さんとか」


「あー・・・・・・でもただ挨拶交わして、天気の話とか、それだけだぞ?」


 三崎璃桜みさきりお。同じクラスメイトの優しい女の子だ。

 明るくて、陽キャも陰キャも関係なく誰とでも会話するため、かなり友人が多い。

 そんな彼女はみんなから天使だと言われている。

 確かに三崎さんの笑顔は眩しく、天使の羽に優しく包み込まれるような温かさを感じる。男なら誰だって三崎さんに惚れてしまうだろう。かくいう俺も惚れそうになった。でも、その笑顔が誰にも向けていると知ると、思い止まった。

 俺に時々声を掛けてくるけど、別にそれはクラスメイトだからだろう。俺以外の陰キャにも声を掛けているし、別にそれほど仲が良いわけではない。


「ふーん? 案外近くに居ると思うんだけどね」


「それは『俺が彼女になってやるって』って言ってんの? さすがに俺にそんな趣味は・・・・・・」


「そういう意味で言ったんじゃ無いんだが・・・・・・。まあ確信があるわけじゃないし、さっきのは忘れてくれ」


 幸成の言葉が一体何を言っているのか俺にはさっぱり分からなかった。


  ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 放課後。

 俺は鞄に教科書を詰めていると、三崎さんが近づいてきた事に気付いた。いつもの「また明日ね」の挨拶だろうか。顔を上げると、三崎さんの目がどことなく落ち着き無かった。いつもと雰囲気が違うような気がした。


「あの・・・・・・柏葉君。この後、何か用事あったりする?」


「いや、特にないけど・・・・・・? どうしたの?」


 突然三崎さんの顔が近づいてきて、俺の心臓がドキッと高鳴った。近い近い。それから髪がはらりと揺れて、シャンプーの香りが鼻孔をくすぐった。そこでまた心臓がドキッとなる。そして最後には耳元にぼそっと三崎さんの声が囁いてきて、ぞくぞくっとくる。


「こ、ここじゃちょっと・・・・・・。あとで屋上に来て?」


「ーーっ!?」


 あ、あまり女子に耐性が無いからそういうこと止めて欲しい、とはさすがに言えず、首を縦に頷くしかできなかった。

 三崎さんの顔が遠のき、俺の返事ににこっと笑顔を浮かべて、そそくさと教室を出て行った。

 さっきのは一体どういうことだ? 屋上にって・・・・・・。

 未だに疑問と三崎さんの笑顔が頭から離れず、後ろから肩を叩かれる。


「三崎さんなんて言ったんだ?」


「いや・・・・・・屋上にって」


「・・・・・・・・・・・・そうか。ようやく啓眞にも」


 驚く幸成は、直ぐに優しい笑みを向けられた。一体どういうことだよ。

 これ以上は声を返すことができず、立ち上がった幸成は「頑張れよ」と言って教室を出て行く。


「・・・・・・一体何を頑張るんだよ」


 取りあえず、三崎さんを待たせるワケにはいかないため、俺も早々に教室を出て、屋上へ向かう。


 ドアを開けると、風が流れ込んで髪を乱した。

 俺はフェンスに寄りかかる三崎さんの姿を確認する。どうにも様子がおかしく、深呼吸をしていた。ふと俺と視線が合うと、慌てた様子で苦笑を浮かべた。

 果たして三崎さんは俺に何を伝えようとしているのか。この放課後に屋上というシチュエーションに、意識するイベントが脳裏に過ぎる。

 ただ俺は三崎さんに限ってそれはあり得ないだろうと一蹴する。


「えっと、俺に何か話があるの?」


「う、うん。・・・・・・あのね・・・・・・・・・・・・」


 長い沈黙が流れる。グラウンドから陸上部や野球部の掛け声が響き、どこかの教室から吹奏楽部の練習する音色が流れる。

 それに俺はまるで告白イベントだと思った。


「わた、私・・・・・・柏葉君の事が好きです!」


「・・・・・・・・・・・・え?」


「えと、えと、へ、返事は今すぐじゃなくてもいいの、突然の事だと思うし・・・・・・だから、返事待ってます」


 それだけ言うと、三崎さんは頬を赤くしながら、屋上を出て行った。

 未だに俺は状況が呑み込めておらず、さっきの言葉を反芻する。

 三崎さんは俺に一体何を伝えた? 柏葉君の事が好きです? 柏葉君って誰? 

 ・・・・・・・・・・・・俺だよね!? え? 待って!? え!?

 あの三崎さんが俺の事を!? なぜ? ホワイ?


「・・・・・・これ夢だよな?」


 真っ先に夢を疑うが、ほっぺを抓っても痛みがある。

 どうしよう。嬉しいんだが・・・・・・本当に三崎さんは俺の事が好きなの? もしかして、これはドッキリもしくは罰ゲームとかあり得ない?

 いや、三崎さんがそんな事をするはずもないし、やっぱり本当の事なんだろう。


「返事、しないとな」


 三崎さんの言うとおり、突然の事で今すぐ答えるのは難しかった。本当は今すぐにでもOKしたかったが、一時の感情で直ぐに返事するのもどうかと思ったし、これは家に持ち帰って前向きに検討しなければ。主にOKする方向で。

 俺の口元がニマニマしてるけど構わない。誰かに見られてきもがられても大丈夫!

 俺は意気揚々と屋上を出で、昇降口へ向かう途中で声を掛けられた。


「柏葉くん、見つけたわよ」


「え?」


 振り返るとそこには黒髪ロングの美少女がいた。

 見覚えはある。

 三年生の花渕冬芭はなぶちふゆは。成績優秀でいつも一位をキープし、運動神経も抜群、スタイルも抜群で、完璧な美少女だ。

 そんな男子生徒の高嶺の花が一体俺に何の用があるのか?


「あの・・・・・・何か用ですか?」


「ええ、柏葉くんに用があるから探していたのよ。取りあえず・・・・・・空き教室へ行きましょうか」


 花渕先輩が先導し、俺はそれに付いていった。三崎さんに次いで花渕先輩も俺に用があるって一体何だろうか?

 空き教室を入ると、花渕先輩は窓際へ立って、窓を開けると風が流れ込んで、花渕先輩の黒髪が靡き、それを手で押さえた。微かに花渕先輩から柑橘系の香りが鼻孔をくすぐった。


「・・・・・・」


 このシチュエーションどこかで既視感があった。最近プレイしたエロゲに似たようなシーンがあったはず・・・・・・そう、それは告白イベントと記憶していた。

 まさか・・・・・・高嶺の花である花渕先輩が俺に告白するなんてあり得ないだろ・・・・・・?


「柏葉くんに伝えたいことがあるの」


「は、はい」


「私、柏葉くんの事が好き。お付き合いしたいわ」


「・・・・・・・・・・・・・・・え?」


「返事はいつでも構わないわ。でもさすがに待たせし過ぎるのは嫌だわ。それじゃ、返事待ってるわね?」


 花渕先輩はそれだけ伝えると、俺の横を通りすぎて教室を出て行った。

 当然、俺は理解するのに時間を要した。

 だって花渕先輩が俺の事が好きとか・・・・・・どうして?

 三崎さんに続いて、花渕先輩からの告白。さっきまで嬉しかった気分が、花渕先輩の告白を受けて困惑へと変わった。

 これどうすればいいんだ・・・・・・?

 家に帰って頭を悩ますことになる。

 取りあえず、俺は昇降口へ向かった。

 もうどうすればいいのか分からず、答えが見つからない。

 校門を出た所で声を掛けられた。え? また?


「やっと来た先輩。遅いですよ?」


「えっと・・・・・・黒畑?」


 また見覚えのある女子。

 星葉せいは女子学園の制服を着た、黒畑海音くろはたうみねである。偶然出会った他校の生徒だ。仲が良いかと言われると首を傾げるが、放課後に本屋行くときや休日に、なぜか偶然出会う事が多くて顔見知りとなった。

 しかし、なぜ聡高にいるのか? 俺を待っていたみたいだが・・・・・・。


「俺に何か用があるのか・・・・・・?」


 ふと二人の告白が脳裏を過ぎって、黒畑を見る。まさか・・・・・・さすがに無いよな。


「用はありますよ。それじゃ公園に生きましょうか?」


 黒畑に付いていき、俺達は近くの公園まで歩いた。

 公園に着くと割と広く、まだ子供達が遊んでいた。少し離れた場所へ移動し、黒畑が俺に向き直った。


「それで・・・・・・何?」


 思わず身構えてしまう。


「どうしたんですか? そんなに怪しむような目をされると、なんか言いづらいですよ」


「あ、ああ悪い」


「まあいいですけど。それで話し何ですけど・・・・・・。その前に先輩の連絡先教えてもらえませんか?」


「え? 別にいいけどさ」


 俺はスマホを取り出して、QRコードを表示させた。それに黒畑は読み取って、メッセージをタップしていく。すると直ぐに俺のスマホに黒畑からメッセージが来た。内容は『これからもよろしくなります♪』と書かれていた。


「これで心の準備完了です。それじゃ言います」


「あ、ああ」


「あたし、先輩の事が好きになっちゃいました。だから・・・・・・あたしの彼氏になってくれませんか?」


「・・・・・・・・・・・・」


「って、ちょっとはずいですね・・・・・・。へ、返事は今じゃ無くてもいいですのね・・・・・・待ってます。それだけです! それじゃバイバイです!」


 顔を真っ赤にして黒畑はその場を去って行った。俺は黒畑の背中しか見られず、またもや理解が追いついてなかった。

 今度は黒畑から告白・・・・・・? どうして?

 また俺の悩みの種が増えて、これからどうしたらいいのか分からなかった。

 今日の夜は三人からの告白にどう答えたらいいのか、懊悩し、眠ることができなかった。

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