第7話 英国大使館の殺人事件
「紹介が中途半端に終わっちゃったので、改めて自己紹介します。わたくし、外務省欧米局第二課課長の上村晋作と申します」
これを、と名刺を渡される。
「どうやら、ご迷惑をかける事に成ってしまったようで、申し訳ございません。どうぞ、よろしくお願いします」
「いいえ、こちらこそよろしくお願いします。お気になさらないで」
「そう言ってもらえると助かります。時に、私も小町ちゃんとお呼びしても宜しいですかな?」
「ええ、是非」
「一通りの紹介も終わった様なので、事件について話すとしよう、あらましはこうだ」
土御門中佐があらたまって説明を始めた。
「昨夜除夜の鐘が鳴り始めたころ、すなわち御前零時頃の事だ、場所は英国大使館。大使館の職員が除夜の鐘に混ざって、悲鳴のようなものを聴いて大使館の裏庭に出たところ、一等書記官のローレンス・ミルフォード氏の惨殺死体を発見したということだ」
なるほど、だから外務省の方が来てるのね。
「通常であれば例え殺人事件といえど、大使館は治外法権の場、本来であれば彼ら自身で解決するか、仮に要請が有ったとしても、警視庁が捜査に協力する事に留まる。だから、軍の一部隊である我々の出る幕では無いのだが……」
「いささか、異様な点が有ってな、内密に捜査協力の依頼が来たのだ。まず、死体の損傷が異常に激しいということだ。腕は何者かに食いちぎられ、頭部半分を大きな爪で抉られるというありさまでな」
でも、それって……。
「野生動物に襲われたとかでは、ありませんの?」
私の問いに上村さんが答える。
「その可能性も、考えなかったわけでは有りません。何しろ、遺体の周辺に大きな、人のものでは無い足跡が雪の上に残ってましたから。ただ、人間の頭部を爪で半分抉るなんてことのできる野生動物は、日本ではヒグマぐらいでして……。しかし、帝都にヒグマが出没するとも思え無いし、足跡もヒグマのものとは一致し無いとの事でした。一応、念の為帝都周辺の動物園に確認を取ったのですが、猛獣が脱走した形跡は無いとのことです」
「そこで重要に成ってくるのが、目撃者なんだが……それが……大使の5歳に成る御令嬢でな。彼女は悪魔を見たと言ってるらしい」
中佐は渋い顔でそう話す。
まあ、大人からすれば、5歳の少女が寝ぼけたか、見間違えたかって成るよね。
でも、もし見間違いだとしても、
「彼女の証言の真相はともかく、正体不明の怪物が出たのは事実でして、それで、私も夜中に叩き起こされて
疲れ切った面持ちで、上村さんがため息を付く。
「そこで、私に白羽の矢が当たったと?」
「そういう事だ、蘆屋の御隠居が得意にしていたのが、悪魔召喚術だったからな」
「それで、蘆屋小町特務少尉に頼みたい事と言うのは、上村課長のアドバイザーとして英国大使館に向かい、捜査に協力して事件解決に尽力して欲しいと云う事だ。ただし、場所が場所だけに、憲兵に所属する部隊である我々が表立って入るわけにはいかなくてな。済まんが、同行できるのは曹長のみとなる」
なるほど、だから曹長さんは軍服じゃなくスーツ姿なのね。
「アドバイザーと云う事は、助言をすれば良いだけですの?」
「ええ、今回の捜査に関しては、我々外務省が指揮をとる事に成っています。ですから、実際の捜査や捕り物と云った事は、外務省の職員と臨時で出向してもらっている警視庁のもので行います。小町ちゃんには、現場で何か気付いた事とか有れば、助言頂ければと」
未だそうと決まったわけじゃ無いけれど、召喚された悪魔とバトルとか、そんなバイオレンスな事に成らなければ良いんだけど……。
でも、ものは考えようよね。
もしかすると、
私も精神年齢は実年齢×2歳だから、同じ様なものよね♪
「承知いたしましたわ、尽力してみます」
「有難う小町ちゃん」
「では上村課長、彼女の事よろしく頼みます」
「ええ中佐殿、暫く小町ちゃんをお預かりします」
憲兵司令官室を出て、庁舎の車止めへ向かう。
「御免なさいね、初日からいき成り単独で任務に就いて貰う事になっちゃって」
「気にしないで下さいまし、それに単独ではありませんわ」
「曹長さんがいらっしゃいますもの」
「もちろん、上村さんもね」
と、上村さんに微笑みかける、社交辞令は忘れない。
「はははは、お任せください」
曹長が黒い車を、車止めの前に着けた。
うーん……何故だろう、またもオープンカーって……。
「では、行きましょうか、小町ちゃん」
上村さんが、車の後部座席へと乗り込む。
「では行ってまいります」
「ええ、小町ちゃん気を付けてね」
見送ってくれる
「では車を出します」
風がもろに吹き込む。
寒い……。
やっぱり、屋根と窓は必要よね……。
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