第6話 特務少尉
「ところで、さらわれた
「ええ、
「だけど、親父に聞いたんだが、そのおかげで微妙な立場に成って、正月早々駆り出されることに成ったんだろ。後悔してないのかい?」
「
それに、叔父様の話だと、遅かれ早かれ軍に駆り出される立場に成ったでしょうから。
「ハハハハ」
その私の答えに満足したのか、それとも、自慢のオープンカーをかっ飛ばすのが楽しいのか、
「そうだ、その事件と関係あるかは分から無いんだが、最近行方不明者が多発しているらしいんだよ。それも、
全く物騒な話ね。
「被害者は何人ぐらいですの?」
「俺も詳しくは知らないんだが、数十人って話だ。ただ、被害者は彼らの家族とは限らなくって、使用人とか出入りのものとか。まあ、あくまで関係者ってことらしいから、これらの事件に関連性は無いかもしれんがね」
そう有って欲しいわね。
黒川さんが何十人もの人を誘拐する理由は無いでしょうから、無関係だとは思いますけど。
もし、黒川さんの使ったのと同じ魔法陣を誰かが使って、その生贄にさらったとか……あまり考えたくはないわ。
生み出される無数のゾンビとか、そんなサバイバルホラーはゲームだけにして欲しいわ。
「小町ちゃんも、蘆屋家と言えば名家中の名家だから気を付けてくれよ。もっとも、小町ちゃんならどんな悪漢も、片手で一捻りしそうだけどね」
「人をゴリラみたいに言わないで頂けませんこと!」
そうこうしている内に、いかにも税金で建てました的な建物の前に着いた。
「さあ、着いたよ小町ちゃん」
車を降り、
「ご苦労様であります、西大尉」
「小町ちゃん、正月早々申し訳ない」
「いいえ、気にしていませんわ」
「では
「あら、
「ああ、すまない、此処からは俺は部外者なんだ、それと俺も上官に呼び出されたくちでね。これから
そう言うと、踵を返して
それは良いんですけど……私帰りはどうすれば良いんでしょ。
まさか歩きってことは無いでしょうね、送って貰えるのかしら?
今度は、
コンコンと
「蘆屋小町さんを連れてまいりました」
「入れ」
と叔父様の声。
部屋に入ると、叔父様の他に3人の男性が居る。
スーツ姿の男性が二人、一人はメガネを掛け、いかにも官僚といった感じの男性、もう一人は大柄で精悍な感じがする。
そしてもう一人は軍服を着た男性なんだけど、異彩をはなっているわ。
右手は金属製で、二本の鍵爪の様な形状の義手を装着していて、
左手にはステッキを持っているから、多分足も悪い様ね。
戦場で怪我をされたのかしら?
「正月早々すまんかったな」
「気にしていませんわ、叔父様……あら、叔父様はいけませんわね。憲兵司令官殿とお呼びした方が良いかしら、それとも中将閣下かしら?」
「止してくれ、堅苦しいのは苦手だ、いつも通りで構わんよ」
「はい、叔父様」
叔父様がマホガニー制の机の引き出しから何かを取り出した。
「まずは、これを渡そう」
と、手帳の様なものを渡される。
「これは?」
「憲兵手帳だ、小町の身分を保証するものだから、何か有った時はこれを呈示してくれ」
渡された手帳には憲兵手帳と書かれている。
表紙をめくり、中を確認する。
『憲兵司令部 魔技取締分隊 特務少尉 蘆屋小町』
とある。
「叔父様、特務少尉って……」
「軍務に従事する以上階級は必要でな、一応特務少尉とあるが、階級的には少尉と同等だと思ってくれ」
「さて、そうだな、彼らを紹介せんとな。この義手の男は
「
土御門中佐がこちらに歩み寄ってきて、器用に義手の2本の鍵爪の間にステッキをはさむ様にして持ち替えて、左手を差し出してきた。
「これからいろいろ世話に成る、よろしく頼む、蘆屋特務少尉」
整った顔立ちと義手がアンバランスな雰囲気を醸し出している。
「いえ、こちらこそよろしくお願いいたしますわ」
左手で握手をする。
でも、なんかその呼ばれ方しっくりこないわ。
「ですが……軍には軍のルールーがお有りかと思うのですが、蘆屋特務少尉という呼び方は、どうにかして頂く分けに成りませんの?」
ダメもとでお願いしてみる。
「ではどの様に?」
「そうね、小町とか小町ちゃんとか、何ならこまっちゃんとかでも宜しくてよ」
「はははは、では公務に関する場合以外は、小町ちゃんと呼ぶ事にするよ」
叔父様の仰る通り、気さくな方みたいで良かったわ。
人を見かけで判断してはいけないわね。
「次に背広の大男の方だが、
一歩前に出て「ハッ」と敬礼する。
「この男は掘り出し物でな、以前は関東軍で
「中将閣下その話は……」
曹長さんが困ってる。
「まあ、その上官とやらは儂が処断したがな、ガハハハ」
つまり、叔父様が好きそうな武闘派ってことね。
「見ての通り堅物だが、信用も置けるし腕も立つ。まあ、小町の良い様に使ってやってくれ」
直属の部下ってことかしら……14歳の小娘の分際で、部下を持つとかやり難いわー。
「よろしくお願いしますわね」
「ハッ、特務少尉殿、この身に変えまして!」
あれ、さっきの話聞いてなかったのかなー?
「先ほどもお願いしましたけれど、小町もしくは小町ちゃんとお呼び頂けませんこと?」
「流石に、上官に対して呼び捨てや、ちゃん付けはその……」
まあ、軍人さんの習慣と言うのもあるでしょうから、仕方ないわ。
「まあいいわ、おいおい変えて頂けると嬉しいですわ」
「じ、尽力致します」
「最後に、彼は外務省欧米局第二課の
やっぱり軍人じゃなく官僚さんだったのね。
「まあ、正月早々小町を呼び出す事に成ったのは、この男が厄介な問題を持ち込んできたのが原因でな」
「ハハハハハ、中将閣下人聞きの悪い、私が事件を起こしたわけじゃ無いんですから」
この人も、見掛けほど堅物な官僚さんってわけじゃ無さそうね。
「おっと、すまんこんな時間だ。急いで会議に向かわねばならん。事件のあらましや、仕事内容については中佐が説明してくれ」
「承知しました」
「小町、本当にすまんかったな。近いうち、
そう
やっぱり、似たもの親子ね。
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