第5話 まさか今日からですの……

差し込んだ朝日に起こされて目が覚める。

昨晩はいろいろ有ったせいで、あまりよく寝れなかったわ。

……まあ、そんなことは忘れて初詣よ。

それと、お参りの後は梨咲りさちゃんのお見舞いに行こうかしら。


ベットから這い出ると、少し寒い、一応我が家はこの時代には珍しくセントラルヒーティングなんだけど、今日は冷えるわ。

外を見ると、一面の雪。

結構積もったみたいね。


「さて、今日は何を着ていこうかしら」

こう雪が積もると、着物だと足元がおぼつかないし、かといって洋服で初詣というのも何かつまらないし……。


で、さんざん悩んだ挙句、矢絣やがすり模様の着物に袴とブーツ、結局いつもの恰好。

この時代の感覚だと有り触れた格好なんだけど、現代人の感覚だと結構有りなのよね。

「まあ、いいわ」


部屋を出て、お嬢様モードをONにしてリビングへ向かう。

はじめちゃんなんかもうしりません!もう可愛い甥っ子とは思いませんからね!」

またもやお母様がプンスカしている声。

しかも、昨日ははじめお兄様との縁談を進めておいて、どういう心境の変化が有ったのかしら?


リビングに入るとあきれた表情で苦笑しているお父様と、昨晩に続いてプンスカしているお母様、それと、困った顔で頭を掻いている軍服姿のはじめお兄様が居る。

「お父様、お母様お早うございます」

お父様とお母様には昨晩、新年の挨拶を済ませているので、朝のご挨拶を。

はじめお兄様、お明けましておめでとう御座います」

はじめお兄様には新年のご挨拶をする。


「小町ちゃん明けましておめでとう」

はじめお兄様は困った表情で挨拶を返してくれる。

オーダーメイドのカーキ色の軍服と外套をスマートに着こなしているんだけど、正月早々お仕事かしら。

軍人さんも大変ね。


ハグッと足にしがみつかれる感触に足元を見ると、道彦みちひこが抱きついていた。

「お姉さま、明けましておめでとう御座います」

「明けましておめでとうミッチー」

取り合えず、頬擦りしながら今日のミッチー成分を補給する。


「それで、またお母様がプンスカしてる様ですけれど、どうなさいましたの?」

「それが……すまない小町ちゃん。親父が憲兵司令部まで小町ちゃんを連れて来る様にと……」

えっ!マジですか!?

無いわー、正月早々無いわー。


「昨晩お話が有って、今日ですの?流石に早すぎませんこと?」

お嬢様歴14年は伊達ではない、クールに返して見せる。


「実のとこ、俺も詳しい事は聞いてないんだ。何しろ、俺は憲兵じゃないからね。ただ、親父もこんなに早く呼び出すつもりじゃ無かった様だよ。何か不測の事態が起きたから、小町ちゃんの力を借りたいって」


「行かなくて良いわよ小町ちゃん!」

お母様が口をはさむと、今まで腕を組んで聞いていたお父様が口を開く。

「まあ、そうもいかんだろう。昨晩、あれだけお前に悪態を付かれて、それでも尚、今日小町を呼び出すという事は、余程の事が有ったんだろう」


これは、初詣は無理そうね。

「仕方有りませんわ。憲兵司令部に行ってまいります」


「有難う小町ちゃん。あ、そうだ、ポチ袋が無くて申し訳ないんだけど、これお年玉」

10円札を受け取った。


「まあ!はじめちゃんまで小町ちゃんをお金で釣ろうだなんて!」

「そんなんじゃありませんよ叔母様、気持ちですよ、気持ち」

なんか昨日見た光景ね。


まあ、はじめお兄様の場合はお金で釣ろうっていうよりも、お詫びの気持ちね。

ありがたく受け取っておくことにしましょう。


「小町ちゃん、そろそろ向かいたいんだけど良いかい?」

「では支度をしてまいります」

支度と言っても、魔道具の手袋を護身用に持っていくぐらいかしら。

猫召喚の魔法陣は、1000枚とかかさばるから置いていきましょう。


玄関の有るホールに向かうと、お父様とお母様と道彦みちひこが見送りに来ている。

「怪我しない様にね、虐められたらお母様に言うのよ!」

と、お母様は心配している。

虐めとかって有るのかしら?

「無理するんじゃ無いぞ」

と、お父様は一言。

そして最後に心配そうに見上げているミッチーに、もう一度頬擦りしてミッチー成分を補給。


「では行ってまいります」


玄関を出ると、はじめお兄様がご自分の車で待機している。

黄色い車体で、何処かの怪盗の三世が乗っていそうな、クラシカルなオープンカーである。

何故に、こんな寒空にオープンカーと思いながら乗り込む。

座席は左がはじめお兄様が座っている運転席で、右が助手席、そしてなぜか申し訳程度の一人用の座席が後部に一つ。

この時代のセンスには時々付いていけないわ。

当然助手席に座る。


「では、参りましょう。はじめお兄様」

「じゃあ、車を出すよ」

車は正門を抜け、黒い本小松石ほんこまついしで出来た洋館を後にした。


風が冷たい。

「それにしても、何でオープンカーですの?凄く寒いんですけれど」


「ハハハハハ、カッコ良いからさ」

ジト目ではじめお兄様を見る。

「男のロマンとか分かりませんわ」

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