<大正:英国大使館の悪魔事件 前編>
第2話 大正16年
ゴーーーーーン
「除夜の鐘だわ」
自室の窓からベランダ越しに外を見ると、しんしんと雪が降ってる。
結構積もりそう。
明日の初詣は、振袖より洋服にブーツの方が良いかしら。
「そんなことより……これはもう確定ね」
これで今日は、大正16年元日ということに成る。
「こちらの大正の世界は、向こうの現代の世界とは歴史的に繋がっていない。つまり、異世界ということだわ」
奇妙な現象に気付いたのは物心が付いてすぐの事だった。
数日おきに、朝起きると両親は別人に入れ替わって、部屋の広さも変わっていた。
片方はふかふかのベッドに広い部屋、両親の他にお爺様や使用人の人達がいて、もう片方は部屋は狭いけれど、すごく快適な部屋にテレビがあって、お姉ちゃんが居る。
幼い頃それは普通の事だと思っていたし、両方の家族や周りの人達にも良くその事を話してたのを覚えている。
おかげで、小さい頃は結構不思議ちゃん扱いだったわ。
少し大きくなって、大正時代は現代よりずいぶん過去の世界だと理解するようになった。
だから自分は、大正時代と現代とを定期的に行き来できる体質なんだと思うようになったの。
タイムリープなんていう言葉を覚えたのは、もっと大きく成ってからのことね。
だけど、小学校に上がって7歳に成った頃、おかしな事に気付いたわ。
社会の教材の地図が、大正と現代のもので微妙に異なってることに……。
現代には存在する島や半島が大正には無かったり、地名が微妙に違ったり。
他にも、例えばニュージーランドは現代の世界では
だけどこの時点では、未だ異世界だとは思わなかったわ。
大正時代だもの、世界地図の精度はお粗末でしょうし、軍事的ななんやかんやで、正しい地図は一般市民には公開されていないとか……。
因みに小学校に上がりたてで、『地図の精度』だとか『軍事的ななんやかんや』だとか変に思うかもだけど、現代と大正で二重に年を重ねて実質14歳だもの、
そして、約3年前、正確には大正12年9月1日の関東大震災の時……確かにそこそこ大きな地震ではあったのだけど、揺れが微妙だったのよね……。
体感では多分、震度5弱ぐらいかしら。
我が家は、お爺様がお出かけ先で大けがをして大変だったけれど。
倒壊した建物もそんなに無くて、混乱もなく翌日から普通の毎日に戻った。
この時も、それなりに小規模な被害は有ったみたいだから、防災の為に話が盛られて現代に伝わったのかもって思ったわ。
だけど、流石に大正16年は決定的ね。
現代の歴史通りなら、今日は昭和2年の元日でないとダメなんだもの。
そうね、現代と大正の世界は歴史や世界観は結構共通な所も多いから、異世界というよりも
だから今まで、体験してきた現象はタイムリープじゃなく、パラレルリープという事かしらね。
勿論、『パラレルリープ』というのは私の造語よ。
でもこれで、大正の世界では魔法が使えて、現代の世界では魔法が使えない事の辻褄も会うわね。
「いろいろ謎が解けて、ちょっとスッキリしたわ」
まあ、だからと言って私の生活の何かか変わるわけでは無いけれど。
「魔法と言えば、お札を補充しないと心許無いわね」
コツコツと書き溜めてたお札は約2200枚、そのうちの1000枚を使ったから一応1200は枚残ってる。
だから、同等の召喚をあと一回は出来るのだけど、あと一回って言われると、なんだか心許無い気分になっちゃうのよね。
貧乏性なのかしら?
それに、生前お爺様からも「いざという時の為に切り札は多い方が良い、準備は怠らん事じゃ」ていつも言われてたもの。
「またコツコツ書き溜めないと」
机に向かって白紙のお札を取り出し、専用の羽ペンで魔法陣を書き書き。
丁寧に、正確に、魔力を込めて書き上げる。
「一枚描くのに約10分、ハァ~……」
消費した分の補充にどれくらい掛かるか……気が滅入るわ。
「いっそ、お爺様の遺品から、強力な魔法陣や魔道具を発掘してって言うのも有りかも……。でも、それもそう簡単には、ハァ~……」
私の魔法は、お爺様から教わったもの。
時には厳しく、時にはやっぱり厳しく。
普段は優しいお爺様だったのだけれど、魔法を教える時にはね。
ただ、お爺様の教える魔法には致命的な欠陥があったわ。
教わるどれもが、最強最悪な魔法ばかり……。
危険すぎて、とても使えるようなものじゃ無かった。
凶悪な悪魔を召喚して使役するとか、どうかしてるわ!
その事を指摘するとお爺様は、「儂は帝都の魔人と尊敬されておる」とか言ってましたけれど、多分『尊敬』じゃなく『恐怖』の間違いでは無いかしら。
それで、自分で魔法をアレンジにする事にしたわ。
猫を召喚する魔法や、襲い掛かる貴子さんを吹き飛ばした手袋の魔法陣なんかもそう。
手袋の魔法陣は元々お爺様から教わった竜巻と雷を起こし
因みに、右手が電撃で、左手が突風ね。
それと両手を合わせて魔力を通すと氷の
とまあ、そんな分けで、お爺様の遺品を使うとなると、結局アレンジしないと使い物に成らないから、やっぱり手間は掛かっちゃうのよね……。
コンコン
「お嬢様、宜しいでしょうか?」
ノックの音に次いで聞きなれた女性の声。
「コッホン」
お嬢様モード!
「宜しくてよ、千代さん」
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