第3話 縁談?相談?
「この様な時間に失礼します。お嬢様」
部屋に入ってきたのは、勤続30年代々我が家に仕えるメイド長の山田千代さん。
ほっそりとした体形で狐目、一見きつい印象だけど、すごく温厚で優しい女性よ。
「旦那様がお呼びです。応接室に来る様にとの事ですが、お休みに成られる様でしたら、この様なお時間ですし、私の方から旦那様にそう申し上げますが、
「応接室というと、
「はい、西男爵様がいらして居ります」
西男爵というのは母の兄で、西男爵家の当主で憲兵司令官。
憲兵司令官というと怖いイメージだけど、
「そう、でしたら叔父様に新年のご挨拶をしないといけませんわね」
部屋を出て一階のホールへ降りる階段へと向かう。
我が家は2階が家族の寝室や書斎などのプライベートな空間、一階には食堂やリビングや応接室、それに使用人の部屋などがある。
一階に降り応接室の前まで来ると、話声が聞こえてきた。
この大きな声は叔父様ね。
何かヒートアップしてる様だけど何かしら?
「頼む
な、な、な、何ちゅう事を頼んでるの、あのおっさん!
あら、いけませんわ、今はお嬢様モード。
少し動揺してしまいましたわ。
叔父様には
私にとっては従兄ね。
多分その
ドアを開け応接室の中へ。
「叔父様、お声が大きくてよ、外まで聞こえてまいりましたわ」
「おお、そうかすまんかったな」
「まあ、それはともかく、叔父様明けましておめでとうございます」
「ああ、明けましておめでとう」
「お父様も、お母様も明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとう」
お父様は、いつも通り厳格だけど、包容力のある笑顔で新年のあいさつを返してくれる。
「明けましておめでとう小町ちゃん」
お母様もいつも通りにこやかにあいさつを返してくれたあと、鋭い視線で叔父様をにらんだ後プイっとそっぽを向いた。
多分、叔父様がいきなり縁談話なんか持ちだしたから怒っているのね。
とりあえず、味方一人GETと考えて良さそうね。
「ミッチーも明けましておめでとう」
お母様の膝枕で寝息を立ててる弟の
除夜の鐘を聞くんだとはしゃいでいたけど、聞けたのかしら。
さて本題、先手必勝よ!
「叔父様、小町を儂とこにくれだなんて仰ってましたけど、どう云う事ですの?」
「おお、その事で伯爵殿にお願いしておったとこだ」
「うむ、それでお前の考えを聴こうと思ってな、夜更けにすまんかったが千代さんに呼びに行ってもらったんだが……」
お父様はそう言うとお母様の方に視線を向けた。
「しりません!わたくしは反対ですからね!」
とほほを膨らませて、プンスカしている。
単刀直入にお断りするのが良さそうね。
「叔父様、お気を悪くなさら無いで下さいね。
「ちょ、ちょっと待て小町、何の事だ?」
お父様が慌てて問い返す。
「何の事って、私と
あれ?
何かみんなポカンとしてる。
「ガハハハハハ!
叔父様が膝を叩きながら馬鹿笑いしてるけど……何で?
お父様まで堪えるように笑ってる。
「まあ、
「小町ちゃん考え直してみない?」
お母様は目を輝かせながらとんでもない事を言い出した。
「お父様、叔父様これはどういう事ですの?」
「ガハハハ、すまんすまん。儂の言い方が悪かった様だ。西家の嫁にという事じゃなく、憲兵司令部にと云う事だ」
14歳の小娘を憲兵司令部って……どういうこと?
そっちの方が謎だわ。
「そうだ、まずは小町には礼を言わねば成らんな。先日の
行方不明になった
そういえば、
叔父様の部下でしたのね。
「それでだ、
なんだか、叔父様は淡々と語りだしたみたいだけれど、どうやら本題の様ね。
「それ以来、慢性的な人材不足に陥っておるのだ。それもあって、軍としても異例の事だが年齢性別問わず優秀な人材を召集しておる。
蘆屋の御隠居とはお爺様の事だ。
「では、私をその
なるほど、お母様がプンスカしている理由はそういう事ですのね。
「いや、御隠居と同じく相談役として手伝ってもらいたいのだ」
「それは、どう違いますの?」
「隊員と成れば正式に軍人に成るという事だ、勤務時間は拘束され上からの命令に従わねばならん。相談役成らば、軍属として扱われるが、こちらの要請に応じて助言や助力をしてもらえれば良い。学業も今のまま続けて構わない、どうだろうか?」
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