第140話●雨の日の知らせ

 しとしとと久しぶりに雨が降っている音が聞こえた翌朝、少し体がだるく感じるのは昨日歩き回り過ぎたせいかもしれません。


「ロゼリアーナ様、おはようございます。

 今日はあいにくの雨模様で雲が厚いので、残念ながら外出には不向きな一日になりそうです」


 朝の身支度の準備をして来てくれたアムネリアに挨拶を返し、カーテンを開けてくれた窓から外を眺めれば確かに暗い雲から雨が降り続いています。


「そのようですわね。今日のお買い物は諦めましょう」


「はい、かしこまりました。ホセルス様には後ほど私から連絡いたします。

 それから、昨日購入した品々ですが、ロゼリアーナ様がシェイラ様とお話をされていらっしゃる間に、こちらへ届けられていた分につきましては先にパリオのお屋敷へ馬車で送り出しました。侍女長達のリストの品を揃えるとなると帰りに全てを運ぶのは難しそうでしたので」


「ありがとう。私もロムルド様に馬車をお借りするか、先に発送するかのどちらかと考えていましたからちょうど良かったですわ」


「はい。馬車は昨日のあの時間に出発させていますから、おそらくは雨にも当たっていないはずです。

 それで今日はいかがなされますか?」


 外出用のドレスを脇にずらし、屋内用の普段使いをしているドレスを広げているアムネリアに聞かれました。


 昨日はシェイラとたくさんお話をしてお互いにあれこれ教え合いましたが、私とエドワードの件には触れておりません。


 シェイラが時々何かを我慢するような表情をしていたのが気にかかり具合を尋ねると、


「最近良くあるから大丈夫ですわ。心配させてしまうなんて駄目ね 」


 などと言って無理やり笑顔を作っているようでしたので、心配ですし一度イメルダ様にご相談させていただくことにしましょう。



 こちらのお屋敷に滞在させていただいてる間のお食事は、以前はミリガルドご一家と一緒に4人でいただいておりました。


 ルーベンスが結婚してからはロムルド様とイメルダ様、ルーベンスとシェイラのそれぞれご夫婦でお食事を取られているそうです。


 シェイラがご実家へ行かれていたので昨日は久しぶりにご家族と私の4人でお食事をしたのですが、今朝からはロムルド様ご夫妻の方にお邪魔することになりました。


「イメルダ様、昨晩お会いしてお話をしていた時に気付いたのですが、シェイラはどこか具合が悪いのではないでしょうか」


「あら、ロゼリアーナも気付いたのね。実はシェイラ達がいつ気付くのかと旦那様と楽しみにしているのよ。ルーベンスも鈍感過ぎるわよね」


「あら、ではやはり、もしかしたら……ですの?」


「そうよ。シェイラのご実家へも連絡をして本人達が気付くまで待つことにしましたの。もちろん危なくないよう常に見守らせていますし、飲食物にも注意させていますわ」


「まぁ!それはおめでとうございます!」


「ふふふ、まだ早いですわよ。あの二人もそろそろ気付いてもいいですのにじれったいですわよね」


「だから言っただろう?イメルダが教えてあげればいいと。そうしたらもっと早くからみんなに喜びを伝えられた」


「それはそうですけれど、是非自分達で気付いて欲しいのですもの。私達もそうだったではありせんか。先に気がついていらしたユリシウス様から旦那様がからかわれて、照れてらしたお姿は可愛らしかったですわ」


「おいおい、可愛らしいはないだろう」


 眉を下げてしまったロムルド様は、イメルダ様とお話をされるときは少しだけ口調が崩れるのですが、イメルダ様はそれがとても嬉しいのだそうです。


 お父様とはもちろんお互いに気安い話し方をされています。


「そこが良いのではありませんか。ふふふ」


「お変わりなくて私も嬉しいですわ」


「ロゼリアーナまで……。んんっ、まぁそれはそれとして、シェイラのことを気にかけてやってくれ」


「もちろんですわ。私が滞在中に皆でお祝い出来ると良いのですけれど」


「そうだね、さすごにそろそろ気付く頃だろうね」


「こうして話している間にあちらから連絡が届いたりするかもしれないわね、ロゼリアーナ」


「えぇ、本当に」


 お二人とも昨日はこのような様子を隠していらっしゃったのは、私のこともいつ気付くのかと見ていたのでしょう。


 しかし、噂をすれば……と言いますが、廊下をバタバタと走ってくる足音が聞こえますね。


「ロムルド様、イメルダ様?」


「おや?」

「あらあら」


 バタンッと扉が開かれました。


「父上!母上!俺に子供が出来ました!」


「そうか、おめでとう!ルーベンス」

「ルーベンス良かったですわね、おめでとう」

「おめでとうルーベンス。ところでシェイラは?」


 勢い良く入室するとルーベンスは感極まった表情でシェイラの懐妊を大声で報告して来ました。


 お二人がおっしゃっていた通り、自分達で気付く方が喜びもひとしおのようですが、その様子を見られた私達もとても嬉しいですわね。


 私の問いにとしたルーベンスはきびすを返すとまた勢い良く部屋から出ていってしまいました。


 ルーベンスが面白いことになっていますわね。


 呆気に取られている私とロムルド様を見たイメルダ様に笑われてしまいました。


「あらあら、二人ともそのようなお顔をされて。内緒にしていて正解でしたわね。ルーベンスは想像以上の喜び様でとても楽しかったですわ」


「ああ、アイツは今日は使い物にならなさそうだ」


「私も様子を見てきてもいいでしょうか」


 シェイラにも早くお祝いをお伝えしたいですわ。


「そうね、きっと今頃はルーベンスが一人で報告に走って来たことをシェイラにとがめられていますわね」


 想像出来ますわ。


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