第139話●おつかいですね

 お祖父様のお店のお世話を済ませて、滞在させていただいておりますロムルド様のお屋敷へ一旦戻ると、ロムルド様とホセルスとのお話は終わっているようでした。


 ホコリを落とし着替えてから再び町へ出ました。


 今回はお父様からゆっくりしてくるようにと送り出されているのですけれど、用事を済ませたらすぐにでも帰るつもりでいました。


 ところがパリオのお屋敷を出発しようとしていたところへ厨房長と侍女長からモチェスでの買い出しを頼まれていしまいました。


 「ユリシウス様から許可をいただきましたのでアムネリアと一緒によろしくお願いいたします」


 嬉しそうに封書をアムネリアに手渡しながら言われてしまっては断ることも出来ませんし、買い出しをしてくるのはいつものことですの承諾したのですが、馬車の中でリストを見て驚きました。


 予想よりたくさん書いてありましたので、これはもうおつかいですね、懐かしいです。


 中には店名まで指定されているものもあり、アムネリアに見せると目を見張って「こんなに」と呟いておりましたわね。


 そう言うわけでモチェスの町中を歩き回り、購入したものは滞在先のお屋敷へ運んでいただくようお願いして次のお店へということをひたすら繰り返したのですが、これが非常に楽しくて夢中になってしまいました。


「ロゼリアーナ様、あの、今日一日で済ますことは出来ませんので今日はこのくらいで終わりにしてはいかがでしょうか」


 お店を出てリストを広げていた私に、声をかけたアムネリアの言葉を聞いて夕方が近いことにようやく気が付きました。


「あら、本当ですわね。日保ひもちしない食材は最終日に回していてもまだまだありますものね。今日は戻りましょうか」


 私がそう言うと外出して来てから一度も何も言わずにいたホセルスが頷いてくれました。


「ホセルスもありがとう。ついて回るのも大変でしたでしょう?明日は入ったお店で気に入ったものがあったら言ってくださいね。一緒に購入しましょう」


「いえ、これは護衛として当たり前のことですのでお気になさらず。私も自分では入らないような店に入るのは興味深かったですし」


「それなら良いのですけれど」


 確かに男性は入らないようなお店もいくつかありましたわね、侍女長のリストのお店でしたか。


 そう言えば、あるお店に入った時にホセルスはお店の外で待機してくれていたのを思い出しました。


「ホセルス様が興味深いと言われたのはロゼリアーナ様がお考えのお店とは違われると思います」


 アムネリアがそっと教えてくれましたが、お顔は笑っていますわよ。


 ここはロムルド様のお屋敷から少し距離がありましたのでホセルスが町馬車を頼みに行ってくれました。


 楽しくお買い物をしていた時は気付きませんでしたが、やはり歩き回って疲れてしまいましたから助かります。




 ロムルド様のお屋敷に戻るとご実家へ行かれていたルーベンスの奥方のシェイラが帰って来ていました。


「ロゼリアーナ!2ヶ月ぶりですわね。あなたが来ていると聞いたので予定より早く帰って来てしまいましたわ」


「まぁ!それはあちらのご両親に悪いことをしてしまいましたわね。こちらにはしばらく滞在させていただく予定ですので慌ててお戻りにならなくてもよろしかったのに」


「私が早くお会いしたかったのですから良いのです。あら?前回お会いした時とは違う護衛の方ですのね」


「今回訪問の護衛をしてくれていますホセルスですわ。アムネリアのことは前回はアンナと紹介しておりましたわね」


 ホセルスとアムネリアが私の紹介に合わせて順番に一歩出るとお辞儀をして下がりました。


「モチェス領主ロムルド・ミリガルドの嫡男ルーベンスの妻で、シェイラと申しますわ。

 ロゼリアーナ、お夕食はもう少し後ですからそれまでお話をいたしましょう!」


 シェイラはさっと自己紹介をすると私の腕を引いて歩き出してしまいました。


「まだロムルド様に戻りの挨拶をしていないのですけれど……」


「私の侍女に行かせますからご心配には及びませんわ」


 シェイラの懐かしい調子に笑いをこらえつつ引かれるままに足を進めると談話室に着きました。


 幼い頃は良くルーベンスと3人で遊んでいたお部屋は内装が変わっていて、シェイラがロムルド様の奥方のイメルダ様と相談して決めたという、全体に温かみのある雰囲気になっておりました。


 そこで私とシェイラは前回では時間が足りなくて話せなかったことを、夕食の時間になるまで話し続けてしまいました。


 ホセルスとアムネリアには退室をしてもらっていて良かったですわ。


 二人とも外から戻って喉が乾いていたと思いますから、一息いていてくれることでしょう。



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