第138話●遅らされた連絡

 ユリシウスからロゼリアーナのモチェス行きを聞いたエドワードは驚いていた。


 用件を聞けば納得したものの、都合が良すぎることに首を傾げているとユリシウスが自分を見ていることに気付いた。


「どうもホセルスは随分動き回っていたようですね。陛下からの指示だけではなかったようですから忙しく行動していましたよ」


「なるほど。やはりそうだったか。

 義父殿…、いや、辺境伯殿の手助けをするように言っておいたが、母上からの連絡も入っていたのだろう。母上の侍女をしているのはホセルスの母だ。彼らは親子間の連絡手段として他にはないものを持っているから私が知らないこともあるだろうな」


「ふむ、その連絡手段というのは気になりますね」


「あれは私でも使えないから辺境伯殿にも無理だろう。それより私もあちらへ行きたいところなのだが大丈夫だろうか?」


「ほとんどの下準備はホセルスが前回済ませていることはお聞きでしょう。彼も自分で確認をしたいところでしょうが、今回は護衛を任せていますので行動に制限がかかっているでしょうね」


「そういうことであれぱその確認を私がやればいいのではないだろうか」


「それは私の口からは何とも。

 これからのことにつきましては、今回はこちらからも偶然とは言え、陛下へは少なくない影響を受けさせてしまいましたので、仕方なくですが承諾いたしました。しかし次はありません。心に留め置きください」


 ユリシウスはアムネリアから愛娘の帰省と離婚の連絡を受けた時から静かに怒っていた。


 娘を悲しませる結果を出したエドワードに。


 そのエドワードに娘との結婚を許可した自分に。


 次いで、ホセルスから渡されたエドワードの手紙に書かれた内容から根本の原因を理解すると、速やかに今後の対策と報復手段を取るために動き始めた。


 後者については既に本人達に直接届くようにしてあるので、彼らの元に着いたらどのような反応をするのかを連絡してくるよう指示してある。


 自国の国王であろうと誰であろうと言いたいことは言い、やりたいことはやるのがユリシウスだった。


「わかっている」


 二度とロゼリアーナに悲しい思いをさせるつもりはない。




 今朝訪れたアーマンドから、突然「今日からは食事はロゼリアーナとは別々でお取りください」とユリシウスからの連絡を受け、納得いかないエドワードは理由を聞きに直接ユリシウスの執務室を訪れている状況だ。


 疑問について言えば単にロゼリアーナがしばらく屋敷を不在にするから食事は一緒に出来ないというだけのことだった。


 それなのにユリシウスはわざわざ嫌みを交えた言い方でエドワードを困惑させて喜んでいる。


 昨日の今日でモチェスへ立つことになったロゼリアーナはエドワードに自分から伝えると言い出たが、ユリシウスから自分が連絡するから出発の準備に専念するよう言われてしまった。


「ロゼリアーナは今は陛下とは他人なんだよ。独身の淑女がじかにお互いの部屋を行き来するものではないだろう?」


 世間的に見れば国王と王妃だが、書類上ではすでにお互い独身であることは確かなのでロゼリアーナはユリシウスの正論に太刀打ち出来なかった。


 その結果エドワードが知らされたのはロゼリアーナが既にモチェスへと出発した後だった。


 どう考えても嫌がらせ以外のなにものでもない。


 そう思いながらもエドワードはこちらの希望を受け入れてくれたユリシウスの優しさを感じていた。


 やはり娘の幸せは娘が選ぶものなのだからか、彼女の望みを知っているユリシウスにしたら自分の怒りを優先するようなことにはならないのだろう。


 だから多少はこのような嫌がらせがあったとしても仕方がない。


 それでもエドワードと顔を合わせるときには、ユリシウスの表情には諦めたはずの怒りを隠すような苦笑が時々垣間かいま見えていた。


「しかし、陛下がモチェスへ向かわれるとなるとさすがに今の護衛の数のままとはいきませんね」


「いや、お忍びなのだからあまり多くても困る。今の人数で大丈夫だ」


「確かにそれなりには付いて来ているようですが、こちらからも何名が目立たないように行かせることにしましょう」


「そうか、心遣い感謝する」


 国王として立ったばかりのエドワードが国を離れることはお忍びであろうと、他国に気付かれることは避けたい。


 うまくいっているように見える関係も、多くの人間がいれば複数の意見が出てくるのが常である。


 面倒なことを好むユリシウスだが、さすがに自国に面倒なことが降りかかることは避けたい。


 それに別行動で行かせることでいろいろと自由も利く。


「それでは人選して支度をさせますのでしばらく部屋でお待ち下さい」


「わかった。よろしく頼む」


 自分達の国王は柔軟な思考を持っているようでありがたいが、まだまだ鍛え甲斐があるようだと、ユリシウスはエドワードの背中を見送るのだった。




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