第137話●代わりの護衛

 カラネール王国の西端にあり、トライネル王国パラネリア領パリオの隣町に当たる、モチェスの町を納めるのはロムルド・ミリガルド様だ。


 俺はいま、そのミリガルド様と向かい合って座っている。


「まさかナーロ殿がロゼリアーナの護衛として再訪してくれることになるとはユリシウスからにしては珍しく嬉しい連絡でしたな」


「このたびは私どもまでこちらのお世話になることを快く引き受けてくださりありがございました」


「いや、それは気にすることはない。ロゼリアーナがこちらへ来ていた頃に使用していた区画は今もそのままにしてあるので、ユリシウスのところの者が来た時には時々利用して行きおるからな」


 俺は辺境伯様から連絡を受けて、リカルドの代わりに王妃様の護衛として来ているのだが、店主……アムネリアは先代様といっていた……の店へ向かった王妃様には、ミリガルド様の子息のルーベンス殿とその護衛が同行することになり、俺はミリガルド様の話し相手をするよう引き留められてしまった。


「前回約束したようにナーロ殿にはいろいろ話を聞かせて貰えるのを楽しみにしておりました」


 このように俺に話しかけたミリガルド様の意向を汲んた王妃様は、それならとルーベンス殿達と出掛けてしまった。


 それでも護衛か?とエドワード様にまた嫌味を言われるだろうが仕方ない。


 トライネル王国内のほとんどの地域を訪れたことがある俺の話を、時折質問をしながらミリガルド様は目を輝かせて聞いてくれていた。


 なんでもトライネル王国を訪問しようとすると、毎回辺境伯様が現れて連れ回されてしまうとかで、行きたいところに行けた試しがたいのだそうだ。


 それを聞いてミリガルド様が辺境伯様に気に入られていることと、大変な苦労をしていることが良くわかった。


 他人事とは思えない。



 ***



 それほど時間はかからないと言っていた通り王妃様一行は屋敷に戻って来たので、ルーベンス殿に護衛の代役の礼をしようと近付いたところで逆に声をかけられた。


「ナーロ殿、父上のお相手をしていただきありがございました。ユリシウス様から連絡をいただいてから楽しみにしておられる様子には母上も呆れるほどでしたよ。これで落ち着いてくれることでしょう」


 なるほど。先ほど話をしている時にも思った通り、ミリガルド様は自分の感情に素直な方のようだ。


 辺境伯様が付いて回るのはミリガルド様のことが心配だからだろう……こういうお方は言動が面白い人が多いのもあるが、突然何をするかわからないからな。


「はい、ミリガルド様は私の話を楽しそうに聞いてくださいました。ルーベンス殿も王妃様の護衛をしてくださり感謝いたします」


「あら、ホセルス、ルーベンスではなくて彼の護衛にお礼を言うべきですわ。ルーベンスは座っていただけですもの。掃除を手伝ってくれたのは護衛の彼らですわよ。ねぇ、ルーベンス」


「そうだね。私は付いて行っただけだな」


 王妃様とルーベンス様の会話の気安さは兄妹のようだが、エドワード様がここにいたら機嫌が悪くなりそうだな……。


 今頃は残されてふて腐れているかもしれないから、こうした人間関係は報告しない方が無難だろうが、後から知られたら八つ当たりされるか?


 いや、王妃様からルーベンス殿との関係を話してもらっておけばいいのか。


 アムネリアにその旨を頼んでくれるように話しておこう。


 その後、今度は俺が護衛についてモチェスの町に出ると、店という店と言っていいほどの数を見て回ることになった。


 購入したものはミリガルド様の屋敷に送ってもらうように依頼して次の店へ。


 店の者とのやりとりを見ていて初めて王妃様を見つけた時のことを思い出した。


 そうだった。こういう活発な方だった。


 城ではおしとやかで落ち着いた王妃様として振る舞っていたが、こちらが本当の姿だったな。


 アムネリアと店の品について話をしている姿等はエドワード様が見たことないだろう。


 あぁ、リカルドは知っているのか。


 奴の報告が遅れたり内容が不明だった理由が少しわかる気がする。


 王妃様のこういった姿や行動、表情を知らないエドワード様に、自分は見たと言わんばかりの報告をするのは気が引けるな。


 この店の品は気に入らなかったようで次の店へ移動する王妃様に付いて店を出た。


 こういうことは疲れ知らずなのかもしれない。


 エドワード様に振り回されていた頃はもっとひどかったが、なんとなく似た者同士のお二人だと思ってしまう。


 それはさておき、今回は勝手に動き回る時間がないから、せっかく来たのに前回手配したものの確認に行けないのが惜しい。


 普段の単独行動は自由でいいんだが、こう言う時に補佐してもらえない不便さが生じるのはなんともし難い。


 俺はこの時、王妃様を追うように来ていたエドワード様が、既に自分で動いていることをまったく知らなかった。


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