第136話●お菓子より甘い
翌日の午後、案内されたテラスに支度されたお茶会にエドワードは感動していた。
滞在している客室のテーブル下に飾られた花と同じものが植えられた美しい庭。
そしてテーブルに並べられたロゼリアーナの手作りだというお菓子がエドワードの目には輝いて見えた。
「ロゼリアーナは自分でもお菓子を作れるんだね。全然知らなかったよ」
「王子妃教育がありましたし、お城では厨房をお借りするわけには参りませんでしたので披露する機会がありませんでしたわ。内緒にしていたわけではありませんが申し訳ありませんでした」
「そんな謝るようなことじゃないよ。なんだかもういろいろともったいない時間を過ごしていたのだと、私が勝手に反省しているだけだからね。君のことを見ていたつもりでいたのに、蓋を開けたら見落としだらけだったことが残念過ぎるよ」
「でももう知ってくださいましたわ。ここに滞在している間にはまたお作りいたしますわね。今は果物がいろいろありますので作るのも楽しいんですの」
「それはこれからが楽しみだね。でも今日はこの美味しそうなものを早速いただいてもいいかな?」
「もちろんですわ」
つい先日作ったので自信を持って作ることが出来た『葡萄とカスタードのタルト』と『チョコレートブラウニー』をエドワードが幸せそうに順に口に運ぶ。
「どちらもとても美味しいよ!あまり甘すぎなくて私にはちょうどいいくらいだ。作ってくれてありがとう、ロゼリアーナ」
「お口に合って良かったですわ」
寄り添って微笑み合う二人の間に漂う空気は並べられたお菓子に比べてもかなり甘く、出来れば退室していたいアムネリアとリカルドだったが、ユリシウスから直接呼び出されてエドワードとロゼリアーナを二人きりにしないよう言い含められていた。
二人は夫婦ではないのだから、昨日の朝の件は目を
ホセルスはリカルドにエドワードのことを任せると屋敷からさっさと姿を消してしまっている。
お約束のようにエドワードの口の脇に付いた菓子屑をロゼリアーナが細い指でそっとつまんで食べさせている。
リカルドは出来るだけ視線を反らし、会話は聞こえないよう意識するのは慣れたことではあるが、お城にいたときよりもエドワードが甘い。
すっかり国王の立場を忘れて表情を
そんな空間でもアムネリアが侍女の職務を完璧にこなせていたのは、ロゼリアーナの幸せそうな笑顔に満足して自分も幸せだったからからだった。
お茶会の後は少しでも一緒にいられる時間を長く取る為にエドワード自らロゼリアーナの部屋まで送り、名残惜しそうに戻って行く後ろ姿に威厳はなかった。
*** ***
エドワードが屋敷に滞在するようになって数日後、ロゼリアーナはそろそろランボルトの店の様子を見に行きたいと考えていた。
「せっかくエドワードが来てくれているのだけれど、前回から半月以上経ってしまいましたから、さすがに換気とお掃除をしないといけませんわよね」
「そう言うことでしたら護衛はお屋敷の騎士をお連れされるのですか?」
「そうなるのかしら。リカルドはエドワードの護衛をしているから無理でしょうし。まずはお父様にお話をしてみましょう」
ユリシウスに隣国の町モチェスにある祖父の店へ行きたいと申し出たロゼリアーナに、彼はしばらく天井に目線を上げて何かを考えていたが、一つ頷いて許可を出したが久しぶりに条件を告げた。
「ただし今回はロムルドの屋敷に泊まりなさい。彼にはロゼリアーナが羽を伸ばしたいらしいと私から連絡を入れておくから大丈夫だよ」
「お父様、離婚の布告もなく王妃をしているはずの私が、ロムルド様のお屋敷に顔を出すのは良くないと思うのですが」
「大丈夫、大丈夫。どうせなら数日滞在する支度をして行くといい。早い方がいいね」
「しかし、2ヶ月ほど前にもルーベンスにお忍びとお伝えしておりますわ。そんなに頻繁にうろうろしている王妃は不自然ではありませんでしょうか」
「彼ならロゼリアーナだからと言えば大丈夫だ。長い付き合いだし、もう一人の父親みたいなものだろう?護衛はアムネリアだけでは心配だから騎士の誰か……」
ユリシウスはまた思案するように顔を上げつつ執務室の窓の方をみやり、目を細めて頷いた。。
「ホセルスに連絡をしてみよう。そう言えばロムルドから彼と話がしたいと頼まれていたんだよ」
なぜ自分だから不自然な行動を納得されるのかわからず、さらに勝手に国王陛下の親衛隊隊長を使おうとしている父に困惑したロゼリアーナだったが、ランボルトの店に行きたいこともあり全てユリシウスに任せることにした。
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