第134話●不思議のまま
エドワードとたくさんお話をいたしましたが、なんと『水入り水晶』を私に預けたのはエドワードでした。
しかしエドワードからは預けたのではなく贈り物として送ったと言われましたので、おそらくお母様の機転だったのでしょう。
もし普通に贈り物として渡されていたら、その希少性からさすがに身に付けていようとは思いませんでしたから。
その『水入り水晶』ですが、エドワードとのお話の途中で見せようとしたところ、真ん中のユラユラが戻っていて驚きました。
内側の水がなくなったように見えたのは目の錯覚だったのかと一瞬考えましたが、薄暗い中でも首から外した時にはユラユラしていたものが、ペンダントで挟み込んだ後にはそれがなくなっていたはずです。
その他のことについても考えれば考えるだけ疑問が浮かびますが、もう、そういうものだと納得するしかないということはなんとなくわかりました。
『はざま』での出来事は、過去の不幸と同じことが起きることを見越して集められた複数の人と材料によって、そうならないように本来とは別の未来を進むべく矯正させるために引き起こされた異常事態でした。
あちらからこちらへ戻って来た時に、その異常事態で起きた変化を正常な形に戻そうとするなんらかの力がかかったとしても不思議ではないと思います。
『薄闇の森』の不思議は不思議のままに…
エドワードとのお話が終わるまで待っていてくれたアムネリア達とともにお父様達がいらっしゃる執務室へ移動し、そこでした話し合いの中で、お父様とお兄様も私の考えに同意してくださいました。
「あるがままを受け入れるしかない」
これはお兄様のお考えだそうです。
「謎は謎のままに。それを楽しむ」
これはお父様。
守り手として認められた私達は『薄闇の森』で起こる不思議については不変であることを受け入れるしかないと感覚でわかるようです。
もしそれが人に不具合をもたらすのであれば調整役として動くことがお役目。
長い年月をそうして過ごしてきたパラネリア家の守り手の責務。
「ペンダントは戻らなかったんだね」
エドワードが小さく呟きました。
「その指輪の石の不足していた力になったというのであればそうでしょうね。儀式は終わっているのでそれはそのまま陛下がお持ちになられていても問題ありません。私のものも妻に持ってもらっています」
お父様が微笑みかけるとお母様は頷かれました。
「大切な思い出の品だったのに……」
「思い出の品にもう一つ新しい思い出が重なったと考えてはいかがでしょうか」
私が、初めて私へ下さった贈り物の変わり様に項垂れているエドワードにそう言うと、瞬きをパチパチして「そうか」と納得してくれたようです。
***
「ところで陛下。陛下とロゼリアーナは現時点では夫婦として認められていないということを覚えていらっしゃいますよね」
朝食を取っていなかった私達の為に、少し早い昼食を皆で食べ終えたところでお父様がエドワードに尋ねられました。
「……あぁ、わかっている。しかしロゼリアーナと私の想いは以前と変わっていない。心は夫婦のままだ」
「実際のところを知らない者達ならば同じように夫婦として見てくれるでしょうね。しかし、知っている私達の前では適用されない意見です。つまり、こちらで滞在される間は、別に用意させたあの部屋をお使いくださいということです。屋敷の者達には国王陛下としての大事な仕事の関係でロゼリアーナとは別室だと伝えてありますので」
とても嬉しそうにニコニコしたお顔でお父様が話していらっしゃるのですが、エドワードは頭を抱えてしまいました。
「さて、ドロシーとロゼリアーナは席をはずしてくれるかな。これから少し男同士の話をしたいからね。ホセルス、君も残ってくれるね」
私とお母様が席を立ち、エドワードの後ろに控えていたホセルスも動き出したところを引き留められました。
「 あ、待ってロゼッタ。せっかくお茶会にと作ってくれていたお菓子なんだけどね、私とナンシーとでいただいたよ。もちろん皆にも分けさせてもらった。ロゼッタが寝てしまっていたから報告が遅れてごめんね。とてもおいしかったよ。ありがとう」
「まぁ!すっかり忘れてしまっていましたわ。私からお誘いしておりましたのに申し訳ありませんでした。ふふふ、でも食べていただけたのでしたら良かったですわ。お茶会はまた別の日にいたしましょう。では失礼いたしますわ」
作ったお菓子が無駄にならずに済んだことをお兄様から教えていただき、喜びながら退室した私は知りませんでした。
私達の話を聞いたエドワードが抱え込んでいた頭を上げて呆然としていたことを。
「え?ロゼリアーナの手作り!?」
そう言えはエドワードには私が作ったものを食べてもらったことがありませんでしたわね。
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