第133話●愛しい人

「エドワード、私も貴方を愛しています」


 胸が激しく熱くなる言葉を、これまでに向けられた中でも最高の笑顔で伝えられた私は、本当に心臓が止まったかと思った。




 眠りから覚めると扉へ向かう誰かの後ろ姿が見えた。


 自分が何故こうしてベッドに横になっているのかがわからず困惑したのも束の間、定まった焦点で見たその後ろ姿に目を見張った。


 ロゼリアーナ!


 扉を開けた彼女を引き留めようと声を出そうとしたが、なぜか喉が張り付いて上手くいかない。


 また去られてしまう!


「ロ…、ゼリ…アー、…ナ」


 無理やり発した声はかすれたかすかなものだったにも関わらず、振り返ってくれた好運に感謝した。


 私の視線に気付いたのか、走り寄って来た彼女が水を飲ませてくれると、喉の乾きが癒えて体にも力が戻って来るようだった。


 再び会えたことを良かったと何度も繰り返すロゼリアーナが涙をこぼし、ふっくらとした愛らしい唇を噛みしめ始めたので、どちらも止めさせようとなだめる方法が髪を撫でることしか思い付かなかったのが情けない。


 ロゼリアーナの目元にうるみがなくなったのを確認してからベッドに座り直した私は、隣に彼女を座らせると自分の未熟さや心の内を話して謝った。


 そして語り終えた私にロゼリアーナが言ってくれた言葉は、何度も聞いたことがあったのに、再会を果たした今は何より聞きたい言葉だった。




 思考と呼吸が戻ったと気付いた瞬間には、ロゼリアーナの唇を奪っていた。


 細く柔らかい体を引き寄せ、艶やかな銀髪ごと後頭部を支え、久しぶりのロゼリアーナに酔いしれた。


 私のロゼリアーナ


 愛しいロゼリアーナ


 ただただ愛しい気持ちが溢れ出して止まらない。


 離れていた時間の分だけ気持ちを込めた口づけが、どれくらい続いたのかわからないが控えめなノックの音に反応したロゼリアーナにそっと胸を押されては離れるしかなかった。


 しかし、うっすらと赤くなり困った顔をされても彼女の腰に回した手を離すことはしない。



 申し訳なさそうに入室したアムネリアに続いて案内されて来たのはホセルスだった。


「なんだホセルスか」


「なんだっ…て何だ。…ふぅっ……」


 相手がホセルスだったことで内心の苛立ちのままに睨んでしまうと、呆れたような顔で溜め息をつかれた。


「エドワード様、あまり侍女を困らせないようお願いいたします。お陰で随分待たされましたが王妃様とのが仲が戻られたようで何よりです。

 エドワード様もお体に異常は無さそうだと聞いておりましたが、本当に医師の言った通りお元気そうですね」


 強調された部分は気になったが、私に向けていたからかい気味の表情から一転、真剣な顔をロゼリアーナに向けた。


「王妃様、詳しいお話はまたご本人からされるでしょうが、エドワード様は王妃様が城を去られた衝撃から自力で復活されると、この2ヶ月半とても努力されて、ようやく人に頼ることも出来るようになられました。幼馴染としても臣下としても嬉しいことです。

 しかし私的な場面ではあまりエドワード様の好きにさせない方がよろしいかと。とくに王妃様の行動を制限するような言動があった場合は私かヴィクトルにご相談ください。

 では私はメアリーとロッドの様子を見てくることにします」


 ホセルスは対外的な言葉遣いではあるものの最後には好き勝手なことを言うとさっさと出て行ってしまい、それを見ていたアムネリアが目を丸くしていた。


 彼女もホセルスが閉めた扉の音を聞くと慌てて頭を下げると退室した。


「ふふ、ホセルスはエドワードのことを良くご存知な幼馴染ですもの。彼の助言はしっかり聞いておかないといけませんわね」


 ロゼリアーはおかしそうに笑ったが、ロゼリアーナの記憶にホセルスのあんな言葉が残るのはイヤだな。


 それから私達は離れてからお互いに起きた出来事や、私がこの部屋で眠っていた理由などを語り合った。


 ロゼリアーナが体験した昨日の出来事には特に驚かされたが、彼女が先ほど「良かった」と繰り返し喜んでいた理由もわかり、改めてこうして元気に再会出来たことに感謝した。


 そうして話をしている間、気を使ったのか再びノックをされることはなく、語り終わってから二人で部屋を出ると、隣の部屋にはホセルスとアムネリア、リカルドが待っていてくれた。


 やはり彼らにもかなり心配をかけていたようだったので謝罪しようとしたのだが、ホセルスを除く二人からは再びものすごい勢いで断られてしまった。


 隣でクスクス笑うロゼリアーナから

「二人が困るだけですからお気持ちだけで」

 と言われてので、仕方ないかと諦めたのだった。


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