第131話●発見しました!!
久しぶりにナンシーと一緒の休日が取れたので、ロゼリアーナのお茶会に何かを持参しようと二人で町へ出てきた。
正式な婚約も発表もまだしていないのだが、私達に気付いた人々からお祝いの言葉を受けるのは嬉しいものだ。
「ジャニウス様は何が良いと思われますか?私はやはりその場で出せるお菓子がいいかと思っていたのですが」
「うん、そうだね。でも、どうやら最近ロゼッタが厨房に出入りしていたようだから、おそらく久しぶりに作ってくれているんじゃないかと私は思っているんだ」
「ロゼリアーナ様の手作りのお菓子ですか?もしそうならみんなに羨ましがられてしまいますね」
それなら別のものにしようと町を歩き回り軽く昼食を取っていた所へ、屋敷に残してきた側仕えの1人が息を切らしてやってきた。
「当主様から至急屋敷へ戻られるようにとのことです」
朝食の時間には「ゆっくりしてくるといい」と言われたのに?
何があった?
「わかった。ナンシーすまないが屋敷へ戻ろう」
「はい!急ぎましょう」
私達は店を出ると早足で屋敷へ向かった。
うん、私と側仕えの速さに息も切らさず平然と付いてくるナンシーはさすがだ。
屋敷に着くと父上から陛下とホセルスが行方不明になったという驚きの報告を聞き、私も捜索に出ようとしたところで連絡が入って来た。
「旦那様!お嬢様がお部屋にいらっしゃいません!」
「「なにっ!!」」
思いがけず父上と同じように額を押さえてしまったことに苦笑いしたが、すぐに陛下達の捜索をしている者達にも連絡を入れることにして、屋敷の者達にはロゼッタの捜索を指示する。
「ドロシーには私が伝えてくる」
廊下で母上の部屋へ向かい父上と別れ、自室へ着替えに戻るとナンシーが準備をしていてくれた。
「行ってらっしゃいませ」
部屋を出るときに見送ってくれたナンシーに頷き、側仕え達と父上から連れていくよう言われた数人の者達と共に森へ向かった。
「柵より中にはおられないはずだ!半分は巡回時より広い範囲を確認しながら右回りで行くぞ!もう半分は同じように左回りでカラマ近くの起点まで行け!」
すでに先行している者達が陛下のお姿が消えた場所から左右に展開して捜索していると聞いているので、こちらからも同様に行くことにした。
消えた次男は戻って来なかった。
嫌な汗をかきながら深呼吸をする。
今はとにかく捜索だ。
***
屋敷から出発した班と起点から出発した班が途中交差して、さらにその先で出発時の元の班と合流しても陛下達は見つからなかった。
日はほとんど落ちた。
今日の捜索は中止にしようと屋敷へ戻るとアーマンドが北門で伝令を出そうとしているところだった。
「ジャニウス様、ロゼリアーナ様がお戻りになられて、陛下がどこか柵の近くにいらっしゃるはずなので引き続き捜索するようおっしやっておられます」
「本当か?良かった!」
だがロゼリアーナは何故そんなことを?
「しかし、今からか…あまり森を刺激したくないな。ランタンの仕度を?」
「はい、こちらに」
さすがアーマンド、人数分では明るすぎるからちょうどいい数が準備されている。
「先ほどまでの4つの班を2つに分ける。ランタンは3名に一つだ。光の影にはお互い充分気を付けるように。疲れているのは承知だ。すまないがあと一周だけ頼む」
来た道を戻り柵から左右に展開する。
天頂付近に浮かぶ雲にわずかに薄桃色をした太陽の名残が見えていた。
***
「発見しました!!」
虫の声を聞きながら左回りに捜索していた私達の班のうち、一番柵に近いグループから声が上がった。
残りのグループもそちらへ集まる。
そこは陛下達が消えた場所に近い柵の内側だった。
地面に横たわる陛下とホセルスを2頭の馬が挟むように静かに立っていた。
「屋敷へ伝令!」
伝令を走らせホセルスを側仕えに任せて私は陛下に駆け寄り声をかけた。
「陛下!エドワード陛下!」
手を口元に当てれば息はしておられるし脈も……正常だ。良かった。
「ホセルス殿は眠っておられるようです」
「陛下もそのようだ。先の巡回では確かにお姿はなかったというのにこれはいったいどうなっているんだ?」
皆が首を傾げる中、ここでは私にだけ見える膜の向こうの暗闇に光る4つの目が見えて息を飲んだ。
「…っ!」
私の視線に気付いたそれらは、まるで頷いているかのようにゆっくりと2度上下するとふっと消えた。
「どうかされましたか?」
「……いや、それよりも陛下達のお体が冷えてしまう。毛布をお掛けして差し上げろ」
この森の不思議は見たまま、あるがままを受け止めるしかないと瞬時に切り替えた。
陛下とホセルスを見つけられたことに安堵していると、父上から託された者達のリーダーが言った。
「ここからならカラマが近いです。そちらに連れて行かれてはどうでしょうか。私共の知人の元なら大丈夫かと」
「いや、あまり目立ってはいかん。
彼は頷くと他の連れに合図を送り2名がカラマに向かった。
「ありがとうございます」
「国王陛下のことだ。当たり前のことだな」
彼は無言で礼をすると下がって行った。
我が義弟殿を見守る者が多いというのは何よりだ。
今頃はロゼッタが陛下発見の報告を聞いているだろうか。
私達はランタンで囲まれた毛布の外側に広がる闇に目を光らせ、屋敷からの仲間の到着を待つのだった。
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