第94話●母と息子のお茶会②
「母上には知らないことがなさそうな気がします。もしかしてまだ私が知らないことでご存知なことがあるのではないですか?そう言えば辺境伯領へ送っておいたホセルスのことも使われてるようですし」
「あらまぁ。ふふ、では知っているのでしょうけれどご実家に帰られたロゼリアーナは元気そうですわよ。
王都からパリオまでの旅の間は庶民の衣装を身に付けていろいろ見て回っていたみたいですしね。おっとりした見た目と違って意外に活発な方でしたのね」
ロゼリアーナが庶民の衣装を来ていた?
モチェスにいた頃のようにか。
「確かにそうだったのかもしれません。婚約してからはあまりそういった事を知る機会がなかったので恥ずかしながら良くわからないのが悔しいです」
私と一緒にいるときは危険なことや心配になりそうことは最初から避けさせるように行動していたから知らなかった。
もっと自由にやりたいようにさせてあげるべきだったのかもしれない。
幼少の頃から一人で隣国に通っていたほど行動的なことはわかっていたけれど、私としてはロゼリアーナをあまり多くの人の目に触れさせたくなかったし、危ない目に
ロゼリアーナを想えば早く迎えに行きたいと気は焦るが、今度こそおかしな思い違いをされないように職場環境と生活環境を整えておかなければ。
まだルパート卿達が戻ってくれて改変を始めてから一月足らずではあるが、おかしかったところがかなり整理されてきているからもう少しだと思うのだが、それが落ち着いたとしても辺境までロゼリアーナを迎えに行っている間のことも考えないといけないわけだ。
ロゼリアーナのことを話しているうちに考え込んでしまったら母上に顔を覗き込まれてしまった。
気付けはアップルタルトを完食されていたようで、姿勢を戻されると紅茶を飲んでから母上が言ってくださった。
「エドワード。私達に出来ることはお手伝いでも後押しでもいたしますわ。だから貴方は自分が思うようしてみなさい。そして出きるだけ早くロゼリアーナを迎えに行っておやりなさい」
「ありがとうございます。その時は助けを求めると思いますのでよろしくお願いします。
それに、すでに母上のお茶会仲間の方々にも知らないうちに助けていただいていたようですね。
父上の側近の方々が戻って来られたのも母上からお仲間にお言葉をかけられたのではないかと推測している次第ですが?」
「あら。どうだったかしら」
とぼけるような言い方と表情を見れば、やっと気づいたのかと揶揄されているように思えますよ。
ホセルスの母で私の乳母もしてくれたことがあるらしいリリアーナが母上と私のカップに紅茶を
「公爵夫妻からはヴィクトル経由で今朝このようなものまでいただいてしまいました。私とロゼリアーナを気にかけてくださっているようで大変ありがたいのですが、好きにしていいと渡されたのが『水入り水晶』とはさすがに驚きました」
テーブルに今日ヴィクトルから受け取ったアクセサリーケースを乗せて経緯を話すと母上が慌てたように手に取り蓋を開けられた。
「まぁ!『水入り水晶』が見つかったとは聞いていましたが、まさかこうして見ることが出来るとは思いませんでしたわ。……エドワード、これはまた素敵な加工がされていますわね。注文した方もそれを受けた方も思い切りがいいものですね」
母上は私と顔を見合わせると、豪放磊落な公爵夫妻を思い浮かべたのか、少し笑って肩を
「ふふっ、そう言えばマーガレットもたいがい行動的でしたわね。彼女もロゼリアーナと同じ頃に公爵領へ戻って行ったと聞いていた気がするわ。ちょうど良い時期に発見されたものね。
とにかく良かったじゃないの。これ以上はない素敵な贈り物が出来たのよ」
「はい、ヴィクトルもそう言ってましたし私も素晴らしい贈り物だと思います」
『水入り水晶』の中にある水は太古の水であり、幸運を招くと言われている。
これを身に付けたロゼリアーナが、いつも私の隣で幸せでいてくれるなら本当にこれ以上ない贈り物だろう。
母上から返されたアクセサリーケースを開いてしばらく中の水の揺れを見てから内ポケットに戻した。
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