第83話●ベリーを摘みに
『薄闇の森』の
収穫の最盛期は少し過ぎているが、ラズベリーは赤、黄、黒、紫と
ラズベリーは痛みやすいので手持ちの入れ物が軽く山になる程度にまで同じ色のラズベリーを摘み、木箱に移すときにはそっと広げるようにして入れていく。
藍色のブルーベリーは完熟して触るとポロリと落ちてしまう物が一番美味しいので、実の下に入れ物を受けて落とさないようにそっと摘まんで収穫していく。
大きな実の完熟したブルーベリーを摘まんでそのまま口に運んでも、こればかりは収穫に来た者の特権なので
上顎と舌を使って押し潰すと口の中で甘酸っぱさが広がり、少し固めの皮が残ればしばらくなめて柔らかくする。
噛むと微妙に強い酸味を残すものがあるのだが、それを好む者は口に入れてすぐに噛んでしまうので、良く歯と歯の間に種が挟まってしまい、まさに笑いの種となる。
完熟して色づいたベリーは沢山あって全てを収穫することは出来ないしない。
この群生地は誰が来て収穫して行っても良く、森に住む鳥達も食べに来ている。
その鳥達のお陰でまた森の別の場所にもベリーが繁るようになり、そういった場所を探して回る子供達のグループもいる。
新発見は子供心をワクワクさせると同時に、おやつとして腹に収めることも出来る嬉しい楽しみなのだ。
もちろん子供だけで森に入ることは出来ないので大人の付き添いが必要になる。
領主の屋敷の門で森への付き添いを頼むとなんと騎士が来てくれる為、子供達にとって騎士とは身近な頼れる大人であり、パリオでは男の子がなりたい職業の1位でもある。
ちなみに女の子がなりたい職業の1位は騎士のお嫁さんらしい。
今日はロゼリアーナがアムネリアとナンシー、騎士2名と供にベリー摘みに来ている。
リカルドは今日の子供達の付き添い騎士から同行を頼まれ、ロゼリアーナからも森の中を見て回るいい機会になると言われた。
パリオに来てリカルドにとって『いい機会』が多いのは、彼には初めて訪れた町であり王都とは違うことが多いからだ。
せっかくパリオに来たのだからリカルドにもいろいろ経験して欲しいとロゼリアーナ達は考えている。
「まだこんなに成っているなんて今年は豊作でしたのね。
こんにちは。皆さんも沢山収穫されてますわね」
群生地に着くと、以前来ていた時より広がった蔓の茂みとそこに実るベリーに感心したロゼリアーナが、先に収穫に来ていた人達に挨拶をした。
「はい、こんにちは……。まぁ!ちょっとみんな!お屋敷のお嬢様だよ!……あら?お嬢様はお城に行かれてしまったんじゃなかったかい?」
挨拶された女性達の一人は挨拶を返す為に振り向くと、そこにいたロゼリアーナを見て驚き、周りに声をかけたもののベリーの入った
他の女性達からも次々に挨拶を返されていたロゼリアーナは、領民らが王都へ行く前と同じように気さくに対応してくれることが嬉しかった。
「ちょっとお休みをいただいて来ましたの。しばらく新鮮なベリーをいただくことがありまませんでしたから」
ニッコリ笑ったロゼリアーナがそう答えると女性達は
「ここのベリーは美味しいからねぇ」
と言って笑い、それならと自分達の収穫したベリーをそ篭ごと差し出そうとする。
「ありがとうございます。お気持ちは嬉しいのですが、私も自分で摘みながらいただきますのでそちらは皆さんがお持ちくださいませ。でもせっかくですからこの美味しそうな黄色のラズベリーを一ついただきますわ」
ロゼリアーナは近くの女性の篭から一つ摘まむとそのまま口に入れてしまった。
「あらま、お屋敷のお嬢様も摘まみ食いするんだねぇ」
「ふふっ、ここでは誰も気にしないはずでしたわよね」
「そうだった!」
回りで聞いていた女性達はまたひとしきり笑うとベリー摘みに戻って行ったので、ロゼリアーナ達も受け皿を手に女性達とは別の茂みで摘み始めた。
子供達の付き添いをしていたリカルドは、騎士が森の中で方向を確認する方法や生えている木や草の種類、食べられるもの、薬になるもの、触ってはいけないものなどを子供に教えているのを一緒になって聞いていた。
森の付き添いではこうして子供の頃から必要な知識を指導するのも大切な役割であるため、騎士達も様々な知識を子供達が分かりやすいように説明していく。
リカルドはこの子供達の付き添いに誘ってくれた騎士と
『薄闇の森』ほどではないが、やはり森の中なので何が起きるかわからないため、警戒を怠らないようにしながら。
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