第82話●困惑の侍女と護衛騎士

 屋敷へ帰った直後に侍女長から個人面談を受けたアムネリアはロゼリアーナの帰省は休暇として振る舞うように指示された。


 侍女長から言われた通り、お城を下がってから明日で20日が経つと言うのに、その間に何の布告もされていないことはアムネリアも疑問に感じていた。


 もとより屋敷の者達はロゼリアーナの帰省は休暇だとする説明を聞いていたため、アムネリアにそれについてさらに聞いてくる者はいない。


 よってロゼリアーナの心情をおもんぱかり、今後についての話が出来るのはリカルドだけとなった。


 真実を知っているとは言え、執事のアーマンドと侍女長のローザンヌとはさすがに気安く話が出来るはずがないので、無意識のうちに相談相手としては対象外にしている。


 その唯一の相談相手であるリカルドは屋敷の脳筋組ならぬ騎士達から訓練に連れ出されてしまったようだった。


 リカルドは騎士達から手合わせの誘いを受けたが

「ロゼリアーナ様の護衛だからお側に控えていなければ」

 と断りを入れた。


 ところが騎士達は

「この屋敷の者達は全員そちらの方面に優れているから問題ない」

 と言うと訓練場へリカルドを連れて行ってしまった。


 執事のアーマンドから、ロゼリアーナが休暇で帰って来たことになっているとは聞いていたが、屋敷の者達が全員優れた戦闘能力を持っているとは聞いていなかったリカルドは、訓練場に着いた時に騎士以外の屋敷の者が騎士に混じって訓練している様子に驚かされたのだった。


 訓練場は屋敷の者なら誰でも利用していいことになっており、休憩中の軽い手合わせや食後の腹ごなしなどに来ている者も多い。


 リカルドは今はロゼリアーナの護衛騎士として側仕えをしているが、元はエドワードの親衛隊の一員であるため、辺境伯領の騎士としてはこの機会を逃すまいと皆が手合わせを希望した。


 リカルドの前に屋敷を訪れた客は辺境伯爵が自ら手合わせをするほどの腕前だったが、残念ながら騎士達は剣を交えることが出来なかった。


 そんなところにちょうど良くリカルドが来訪したのだから欲求不満手合わせ希望の騎士達が逃してくれるはずがなかった。


 ロゼリアーナの護衛は不要と騎士達から言われているが、リカルドは護衛騎士であるからやはりロゼリアーナの安全面に不安を感じてしまう。


 だが、行動を供にしている騎士達から 、今日はこれから家族だけで過ごされるので、行けば邪魔になるだろうと言われては納得するしかなかった。


 それから訓練に集中したリカルドは訓練用の木剣を借りると、手合わせを希望した騎士達を次々相手にしていき、久しぶりに満足いくまで体を動かしたのだった。


 そのように到着した日を過ごしたリカルドとアムネリアは、翌日ロゼリアーナからの呼び出しを受けて辺境伯爵のコレクションを見に行くことになるのだった。



 *** ***



 ロゼリアーナ達が並べられたコレクションの全てを見ることを諦めてロゼリアーナの部屋へ向かっていると、そちらからやって来たジャニウスに会った。


「良かった!リカルドだったね。これから私とアーマンドの手合わせをするんだけど立会人をしてくれるよね?」


 ジャニウスはロゼリアーナを素通りすると、すぐ後ろを歩いていたリカルドの両肩に手を置いて問いかけに聞こえる指示を出した。


「お兄様、それでは質問になっていませんわ。そんなにアーマンドとの手合わせが嬉しいんですの?」


「それはそうだよ。私と手合わせさせるくらいなら父上が自分と手合わせさせると言って滅多に許して下さらないのだからね。今回は私の力量をはかることもあって許して下さったんだよ」


「まぁ…お父様がそんなことを?でも何故リカルドを立会人に誘われたのですか?」


 ロゼリアーナは、リカルドの肩をつかんだままの兄に聞いた。


「昨日うちの騎士達と手合わせしたと聞いてね。騎士達の中には引き分けた者もいたそうだが、体力があって連続して手合わせをした上に腕前も大したものだと聞いたんだよ。だから是非彼に立会人をして欲しいと思って来たんだ。彼を借りてもいいよね、ロゼッタ」


 アーマンドとの手合わせに気になる護衛騎士を立会人として呼び、あわよくば引き続き手合わせしたいと言う考えが見え透いてはいるが、果たしてアーマンドがそんな余裕をジャニウスに残させてくれるかどうか。


 そんなことを考えながらロゼリアーナがリカルドを見れば、どうするか困っている様子なので声をかけた。


「リカルド、お兄様の我が儘ではありすけどアーマンドとの手合わせは見る価値があると思いますよ。私も見させてもらいますので立会人をして差し上げてくれるかしら」


「ロゼリアーナ様がそうおっしゃるなら立会人をさせていただきます」


「おぉ!ありがたい!もうすぐアーマンドも父上の補佐が空くらしいから訓練場へ向かおう」


 もとより騎士達から二人の力量について耳にしていたリカルドは立会人の役を引き受けたかったが、今日はようやくロゼリアーナの護衛騎士として側仕え出来ているので二の足を踏んでしまっていたのだった。


 こちらも引き受けて貰えるだろうことを予想していたジャニウスは、早速手合わせをする場所へと皆を促した。


 ロゼリアーナ達が来た道を戻るジャニウスの後ろを、来るときよりも早足で追いかけることになったロゼリアーナは途中でリカルドを先にやり、アムネリアと先ほど見ていた父のコレクションについて話しながらのんびり訓練場へ歩いて行った。


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