第67話●宰相補佐増員
国王陛下の執務室に置かれていたヴィクトル殿の机は、今は宰相の執務室に戻されている。
以前は目を通す書類が多過ぎて、その移動の手間を省くために陛下と同室で処理されていたらしい。
確かに初めて陛下の執務室に入った時は、その書類の量に頬が引き吊った。
仕事を始め、処理済みの書類を各部門に戻して減らした分より、その帰りに預かる書類の方が多くて私が入っても意味がないような、今思えばかなり気が焦った状態で仕事をしていた。
「ウィル伯父上、いえ、ウィリアムズ様。あの、本当に宰相補佐が3人も、しかも私までいて良かったでしょうか」
伯父上に伴われて陛下に謝罪とご挨拶をする為に城へ上がった日、陛下は私達を咎めることなく迎え入れてくださった。
「私の戴冠の儀からこちらで起きた不備や不祥事については、主に私の力と考えが及ばなかっただけのことだがら謝罪は必要ないよ。
しかし、これまではまだ周辺国からも様子を見られている期間だったからなんとかして来れたが、これからは今のような体制でいては国政自体がなりたたなくなる。
それで3日前からルパート卿の助言により城内の変革を始めているところだ。
まずは各部門の上役交代によってガタガタになっていた各部門の事務処理と、部門内で完結出来る作業については、上役が責任を持って処理するようルパート卿が指導してくれている。
ジェラルド卿にも同じような指導を頼みたい。ガロンにも期待しているぞ。皆が私を助け、トライネル王国の為に努力してくれたら嬉しい」
そして伯父上と二人ともルパート卿と同じ宰相補佐の役職をいただいた。
私は宰相補佐候補で失敗して逃げ出したのに、前宰相の伯父上と、元外務大臣のルパート卿と同じ役職なんていいのだろうか。
自分用に用意された机で、以前より
「なに、宰相補佐などというのは分かりやすく言えば便利屋じゃ。ワシとルパート卿は以前のような通常業務が滞りなく行われるように、管理する立場の者達を指導をしておる。このトライネル王国は周辺の国々の中でも小さな国じゃ。その国の中枢で働くワシらが自分の役職のみをこなしていたとしたら、別の役職の誰かに何か事が起きたときには業務が滞って しまって困ることになるじゃろう?だから地位が上になる者ほど、こなせる業務内容を増していくよう常に努力しなくてはならん。
まさか全ての部門の上役を辞任させていたとは思わなかったがな。そこまでアルスタール様の指示はなかったはずじゃがのぅ」
「以前、私は陛下の書類の授受でほぼ全ての部門に行きましたが、どの部門も書類の不備だらけでしたね。とくに上役からの報告書と承認確認が抜けていたりしてましたから、やはり上役交代していたからなのでしょう」
「しかしまだ歳が若い者まで辞任させたなどとは聞いていなかったはずじゃが……」
「ああ、それはどうやら他国からの引き抜きもあったようだ。
アルスタール様が我々全員に付いてくるようにと話されたことで、当時の上役達も不安になったのだろう。
体調を崩されたアルスタール様の代わりに王太子だった陛下が政務を執っていらしたが、我々の補助ありきだったところが大きいことを彼らは良く知っていた。
ところが代替わりしたとたん、その我々が全員居なくなると知った。
不馴れな若者達が我々の後の地位について関係が上手く行かなければ、不備や面倒を自分達に押し付けられるかもしれない。
そこに実務に優れた我が国の役人を求めていた他国から声がかけらて揺さぶられたのだろう。
自主的にアルスタール様に付いて行く者もいた故に、残されそうになって焦った者達が数名旨いエサに飛び付いたと言うところか。
年齢的に代替わりだと辞任して行った者もいる。
悪いことにそれらが重なったせいで全ての管理職に当たる上役が交替することになってしまったようだ。
ちなみに引き抜きした相手国には損害賠償の請求、引き抜かれて行った者達には我が国が不利になるような発言の禁止契約はされている」
話の途中で戻られたルパート卿が伯父上とは別の一人用ソファーに座り、首を傾げていたことについて詳しく教えてくれた。
「そのようなことになっておったのか?アルスタール様が聞いたら悲しまれることじゃろうの。まさかそこまで新王陛下にご負担をかけることになるとになっていたとは未だにご存じあるまい」
「悪い方へ偶然が重なってしまった結果だから仕方ない。だが、それらを悔やむより残った者達が力をつけ成長することが大事な時なのだ。なぁ」
「無論じゃな。ガロン、おぬしははワシらに最も近い特等席にいるのじゃから他の者より得るものも多かろう。しっかり盗めよ」
ルパート卿と伯父上の二人からじっと見つめられて手に持っていたペンに力が入ってしまった。
私に出来ることをしようと登城してきたのだが、これはもしかしなくても出来ること以上を望まれているのかもしれない…?
いや、及び腰になってはいけない。
こんなに恵まれた環境は利用しなければ逆にもったいない。
私は握りしめていたペンを置き、立ち上がって頭を下げた。
「はい。私もこの機会に学ばせていただきます。よろしくお願いします」
お二人は私の返事を聞くと満足そうに笑い、テーブルに置かれた書類を手に話し始められた。
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