第64話●変化のおとずれ
ロゼリアーナは3日目の宿のベッドで昼間の彫刻家達の会話を思い出していた。
『生きて成長を続けている立ち木にした彫刻は、木の成長とともに僅かずつ変化をしていくのです。
生きているもので成長しないもの、変わらないものなどないのです』
シェイラから言われました。
『後悔することがあってもやり直す強さも持っている』
お祖父様から言われました。
『
これらの言葉を聞いた時の私は、悩み、迷い、不安定な気持ちでいっぱいでした。
そんな私を力付けるためにかけられた言葉、その時の私の気持ちが軽くなるようにと言われた言葉、そのように解釈して受け取っていました。
そして私は受け取った言葉のような人になりたいと、なれたらいいと思いました。
しかし、私を知っている人達は、私が既にそういう人間であると信じているからこそ、その言葉を伝えてくれていたのです。
だから、みんなが信じてくださった私を、私こそが信じなくてはならなかったのです。
エドワードから離れてからの私は一個人として、以前のように自分が思うように町や人を見て回り、狭まっていた視野が広がったことで自分のことをしっかり考えられるようになりました。
シェイラ達に会った日の夜、まだ不安定に揺れている心で考えながら眠りについてしまいましたが、あの夜は改めて自分を、自分の考えをみつめ直すことが出来た時間だったと思えます。
今の私があの夜と違うのは、
「生きていれば成長と変化は起こる」
と語られたニルス様の言葉を聞いて、
あの夜何度も頭の中で繰り返した
『成長』『変わる』と同じ言葉を聞いて、
それが私にも当てはまることなのだと考えているようになったことです。
関わりがあまりない方の言葉だったからこそ、とくに構えることなく聞いていた私の心に真っ直ぐ届き、はっと気付かされた瞬間から、驚きと高揚感で胸がドキドキしてしまいました。
体は成長しても心が成長出来ていなかった?
いいえ、心が成長出来ていなかったのではなく成長したからこそ自分の役割について悩んでいたのです。
王妃になりきれなかった?
当たり前ですわね。
たった一月ほどの期間で王妃の役割を完璧にこなせるようになれるわけがありません。
マリー様に笑われるより先に呆れられてしまいます。
自分を認めたくなくて逃げ出した?
逃げ出したのも書類に頼ったのも事実ですが、何も出来ていなかった自分を認めたくなかっただけではなく、何も出来ないままでお城に居たくなかったのです。
この3日間、彫刻されているたくさんの大きく育った木々を見て回りました。
地面に根を張り天に向かって枝を伸ばし、動けないまま長い年月成長を続け、彫刻された傷さえも自分の成長に合わせて変化させしまう程の強い生命力。
『生きているもので成長しないもの、変わらないものなどないのです』
シェイラ、私は今、うじうじしていた自分の心を後悔しています。
エドワードは『二人で幸せになりたい』と望んでくれていましたのに、私は彼が王太子から国王へと立場が変化したことで『国民を幸せにしたい』と言う考えに変わってしまったと勝手に思い込んでいましたが、これは変わったのではなく、ただ望みが大きくなっただけなのででしょう。
立場が変わっても『二人で幸せになりたい』と望んでいても良かったのだと、今、私は考えています。
その望みを叶える為に私がしなければならなかったことは、ペンダントを受け取りエドワードの気持ちを受け取ってから過ごして来た長い時間、ずっと私に向けてくれていた彼からの愛情を信じることでした。
お祖父様、私は優しさも思いやりも発揮することが出来なかったと考えていましたが、エドワードを想い過ぎて勝手に彼の気持ちを推し量っていただけのようです。
一人の力だけでは出来ることは限られています。
たくさんの人達と一緒に、助け合って生きていく中で『二人で幸せに』なれて『国民も幸せに』することが出来たのでしょうに。
エドワードが多忙だから煩わせてはいけないと遠慮して、勝手に一人で悩んで空回りしていたのですね。
最後にご一緒した朝食の時に、しかめて振られたお顔が気になっても何故と問うこともせずに、私は自分が否定されたのだと考えてしまいました。
そして私はあの時、書面に目を通して浮かんだ疑問についても問うために執務室へ行かなかったことを悔やみます。
『この書類に私の署名を求めることはエドワードの本心なのですか。本当に私はもう不要な存在になってしまったのですか』
もしもまた、エドワードの気持ちを問うても良い時が来たのなら、私は今度こそ問いかけようと思います。
同じ後悔をしないように。
後悔したことをやり直せるかもしれないのなら。
枕の下にしまっているペンダントに手を伸ばすと、いつもは冷たいその表面がほのかに温かく感じられ、握りしめると知らないうちに凝り固まっていた心の緊張が
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