第18話●崩れ落ちた宰相
エドワード様の執務室を出た私は情報局が入っている区画へ向かった。
ホセルスに言われるまでロゼリアーナ様が選ばれる行動を一般的なものだと決めつけていた自分に腹が立つ。
王妃の立場であれば馬車を使われるだろうと思い込んでしまっていた。
どんな時でも柔軟に、あらゆることを考えられるようにならなければ、名前ばかりのお飾り宰相になってしまうじゃないか。
エドワードの宰相に選ばれたのだから、万が一を考え対処出来るようにならなければ。
情報局のフロアに着き、局員達の机が並ぶ部屋に入ると、早速対処すべき状況に見舞われた。
ホセルスから聞いたとおりボーネル局長はすでにいなかったのだが、局員まで一人もいなかった。
入り口を入ってすぐ脇の棚に置かれた局員の行動予定表にはボーネル局長以下10名ほどの名前の横に『調査中』と書かれている。
……何を調査しているんだ?
私はロゼリアーナ様の探索の指示を出したが全員で対応しているわけではないだろうに、今このタイミングに誰もいないとは!
いかん、誰もいないものは仕方がない。
しかしすぐに動ける人員は欲しいのだかどううするか……。
少し考えて次は騎士団へ向かうことにした。
騎士団の訓練場では所属する騎士の3分の1が訓練していた。
他の3分の1は城の内外で職務に当たり、6分の1は休養、6分の1は予備要員として待機している。
「マクドナル将軍はこれくらいの時間には訓練場かと思ったがご不在か?」
チェスター・マクドナル将軍はジャムヌール・ダラン前将軍に弟子入りして教えを乞い、才覚を認められて後任に選ばれた。
常に訓練場に身を置きたいと言って、本当に居座ろうとした強者だ。
たとえ元騎士団団長であっても今は将軍職に就いているので、以前はどうであれ、常に居座ることは無理だ。
しかし、午後の遅い時間かつ事務処理を終わらせていれば訓練場をうろついても……騎士達への指導に訪れても良いことになったと、先日、今の騎士団団長から連絡があった。
彼は元騎士団副団長をしていたので将軍の扱いになれているようだった。
マクドナル将軍は今日は珍しく来ていないらしい。
であればと、騎士団団長に直接会いに行こうとしてやめた。
こんなにあちらこちらへ行くぐらいなら、もう私が直接別の門へ聞きに行った方が早いんじゃないか?
その後、私は訪れた先で門番長が『この門では城勤めの出入りを記録したものはない』と言うのを聞くと、さっきまでの自分の労力が無駄になったことよりも城の危機管理のなさを知って崩れ落ちた。
執務室に戻り、部屋から出た後の話をした後、エドワードから言われた一言で再び崩れ落ちた。
「ヴィクトル、私達は自分達で動きすぎなんだよ。君がしたことも他の臣下や侍従に任せて良かったんだ。私もようやく分かったことなんだけどね」
「そ、そうか……。
【王太子とその側近】と【国王と宰相】では他との関わりかたが別物だったんだな……」
先に気付いたらしいエドワードとは似た者従兄弟か。
王太子とその側近の頃は常に自分達が動いていたから、立場が変化しても同じように動くことに違和感がなかった。
だが小国なんだからそれでもいいじゃないかと言ってしまうと、宰相補佐を言い出した時の自分と矛盾が起きてしまう。
思えばあのときは書類の処理にだけ意識を向けていたが、全ての仕事の効率化を図れば良かったのか!
崩れ落ちたまま立ち上がれない私を哀れんだのか、エドワードはノックして入って来た伝令から直接手紙を受け取っていた。
「母上から?」
探索しても全く手がかりがなかったロゼリアーナ様の動向は、思いもよらないところから判明した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます