第17話●母からの手紙
ロゼリアーナは馬車で送らせると言ってもなかなか頷いてくれませんでしたが、終いにはこちらの顔を立てて『少しだけでしたら』と乗り込んでくれたようです。
そのロゼリアーナは先ほど、義理の娘から友人になりました。
とりあえず繋がりを維持するためですから今のところは、ですけれど。
さすがの私もロゼリアーナの話を聞いて息が止まるかというくらいの衝撃を受けたのですけれど、淡々と話をするロゼリアーナを見ていたら落ち着いてしまいましたわ。
あれほどに胆力を持っている
エドワードから早急に話を聞く必要がありますわね。
「料理長をお呼びなさい」
片付けるのを後回しにさせた客間へ料理長を呼びます。
「料理長、こちらのアップルタルトというものを同じように作ることが出来るかしら?
ロゼリアーナがとても美味しそうにしてらしたから、次回にお出しして驚かせてあげようと思うのですけれど」
ホールのままサイドワゴンに乗せて来てあったアップルタルトのフードカバーを指差して聞きました。
「奥様のご要望であれば尽力させていただきます」
さすが、料理長ですね、大丈夫そうですのであとのことは任せます。
客間を出て玄関ホールを横切ろうとしていましたら馬車が戻って来た様子でした。
ロゼリアーナの『少しだけ』は本当に少しだけだったようですね。
私室に戻り、エドワードに出す手紙を書こうと侍女にレターセットを持ってこさせると、いつも使っている気に入りとは違うものを用意してきました。
あら、リリアーナはいないのかしら、新しい侍女のようですね。
ふむ……、しばらく様子を見てみましょうか。
いつもと違うレターセットも時にはいいですわ。
「この手紙を大至急王宮へ届けさせなさい」
手紙を書き終え、封蝋をしたものを渡して送り出させました。
その翌朝エドワードから届いた手紙には、事の始まりから手違いの理由、エドワードの気持ちなどが延々と書かれていました。
多忙でほとんど時間が取れない中で書かれた手紙の文字は、息子の焦りが判るほど字体に乱れがあり、今回のもともとの原因に対して沸々と怒りが沸き上がるのを押さえられなくなった私は、早急にとるべき手筈を整えさせるのでした。
※※※※※
王妃様が訪問された翌々日の午後
お邸の裏に広がる庭園に厳重に準備されたお茶会で会話をされるマリーテレサ様がいらっしゃいました。
お茶会に招待されているのは気心が知れたご友人方です。
マーガレット・サラ・ロドリゲス様
→夫、前王弟ジャスティン・ダ・ネル・トライネル公爵様
テレーズ・ジェラルド様
→夫、前宰相ウィリアムズ・ジェラルド侯爵様
マリアンナ・ルパート様
→夫、元外相ベルナリオ・ルパート伯爵様
メランダ・ダラン様
→夫、前将軍ジャムヌール・ダラン伯爵様
ダリア・ハラルド様
→夫、元情報局長キャスカリオ・ハラルド伯爵様
久しぶりにお集まりになられた奥様方の楽しみと言えば、やはり旦那様方の愚痴となられるかと思われました。
しかし、お話の対象が旦那様方なのは同じようなのですが、なにやら皆さま方は大変にお怒りのご様子でした。
詳しい内容につきましては侍女の基本ですので自分の胸のうちに秘めさせていただきます。
お話の途中でテレーズ様がこちらの方ををしばらくじっと見つめて眉を潜められたようでしたので、さりげなく顔をうつむけました。
ご機嫌を悪くされたのではないかと思い、控えの侍女に交替してもらうようお願いして下がらせていただきました。
奥様方のお茶会はいつもより長く、お帰りになられたのは夕方近くになってからでございました。
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