第19話●二人の指輪
朝を迎えたようです。
目の前には昨日、一昨日と同じ天井が見えております。
両手を伸ばして天井に太く描かれた蔦の模様をなぞっていると、左手の薬指に嵌めた指輪に焦点が移り、同時に手が止まりました。
体をゆっくりと起こし、右手で指輪ごと左手を覆うように握り締め目を閉じます。
今朝もエドワード様のご健勝をお祈りいたしました。
カーテンが片側だけ開けてあり、ベッドの足元の方にだけ日差しが当たっています。
アムネリアが入って来たことにも気づかなかったようですので、今朝は少し寝過ごしてしまったのですね。
どうやら自分では気付いていませんでしたが、昨日の外出でかなり疲れてしまっていたのでしょう。
あら、今気付きましたが、無意識に指輪のリングを右手の親指と人差し指で触っていました。癖になっていたようです。
婚礼の儀でエドワードが嵌めてくださった指輪は、二人でリングのデザインを考え、石にはお互いの瞳の色を使いました。
エドワードの碧眼のエメラルドは私の左手に、私の紫眼のアメジストはエドワードの左手に、婚礼の儀で納まりました。
アメジストの方はもう嵌められてはないのでしょうね……。
やはり私も外した方が良いのでしょう。
でも、朝のお祈りの時間だけはつけさせてくださいませ……せめて実家に帰り着くくらいまでは。
ノックの後にアムネリアが入ってくると途中で立ち止まり、外した指輪を見ていた私を見ると、声をかけるのをためらっているようです。
「大丈夫よ、アムネリア。いつまでもつけていてはいけないのはわかっているの。けれど、もう少しだけ身につけておきたいの……だから、この指輪にチェーンを通してもらえるかしら」
「もちろんでございます!すぐにご用意して参りますね。でもまずは身支度が終わるまではこれまで通りにされてはいかがですか?」
アムネリアは優しい目で指輪を見ながら提案してくれました。
「そうね、そうしいたします」
私は一度外した指輪を戻すと、いつものようにアムネリアに身支度をまかせ、今日をどのように過ごそうかしらと意識を切り替えるよう努めました。
※※※※※
侍従が寝台脇の机まで運んで来た水盆に両手を入れると、一つだけ嵌めている指輪に意識が向いた。
引き上げた左手を返すと、指輪のアメジストが同じ色の瞳を持つロゼリアーナの顔を脳裏に浮かび描かせる。
私のロゼリアーナ。
何をしている。
何を想っている。
何故、どうしてとは問わない。
ロゼリアーナだからこそ取り得た行動だったと
今ならわかる。
国王になってすぐ、父上の側近達が城を去り、まだ仕事に慣れない者達の代わりを私がやらなければと、息巻きすぎて空回りしていたのだ。
代わりなど私がする必要はなかった。
指示を出し、報告を受け、決定する。
国王は人を使うのが仕事だ。
空回りしていることに気付かず、心配して手を差し伸べてくれていたロゼリアーナの気持ちも受け取れていなかった。
一人では国を動かすことは出来ない。
臣下達を頼り、臣下達から信を受けられる王にならなければ。
私が理想とする王になった時
ロゼリアーナ
君が隣にいてくれたらと願う。
理想を追う私の隣にいて欲しい。
持ち上げた手のひらに残った水滴が流れ落ち、少し捲り上げただけの夜着の袖を肘まで濡らして生地の色を変えさせていた。
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