第14話●喫茶店のち執務室
マリー様のお
それでもと勧められましたので玄関からお邸の門まで乗せていただき、御者の方が門番と一緒に見送ってくださいました。
行きと帰りでは同じ通りのはずなのに違って見えるのは不思議です。
「アムネリア、さぁケーキと紅茶のセットをいただきに行きましょう。リカルドもね」
今日も左前にアムネリア、後ろにリカルドが歩いています。
「……」
「……ロ、ロゼリアーナ様、先ほど前王妃様のお邸で召し上がられてましたよね?」
二人とも急に足を止めてしまいましたが、私はそのまま進みますよ。
「えぇ、私はね。でもアムネリアとリカルドはいただいてないじゃないでしょう?それに私は喫茶店の雰囲気をとても味わいたい気分なのよ」
私がそう言うと二人は横並びで後方からついて来ました。
緑色の木戸が見えてきました。
赤い取っ手をひねって入店すると昨日と同じ店員さんが昨日と同じ席まで案内してくださいました。
リカルドはやはりそちらなのですね。
「今日のおすすめは紅茶はミルク多めのキャラメレのミルクティーで、ケーキはナッツ入りのチョコレートブラウニーですよ」
「あら、そうですの?
ブラウニーですか……いいですわね……。
アムネリア、私はお夕食を遠慮してこちらのおすすめセットをいただくことにしますわ」
「ロゼリアーナ様!お食事を抜くなど良くありません。お体を損なってしまいますよ!」
アムネリア、少しだけ怖いです。
「でも、ブラウニー、いただきたいんですもの……」
眉を下げて顔をうつむかせ、じっと上目使いでお願いするとアムネリアは顔を赤らめてしまいました。
「わ、わかりました。今日だけです。今日だけですよ、リカルド様!」
「は?私?はい!」
何故か自分の方に振り向いたアムネリアの勢いに、リカルドは返事をしていましたが、はっと我に返ると敗北感を味わったように寂しそうな表情になっていましたね。
アムネリアがおすすめセットを三つオーダーするとすぐに運ばれて来ました。
早々と準備してくださっていたのね。
おすすめを選んで良かったですわ。
キャラメレのミルクティーはお砂糖を入れずにいただくと、甘いチョコレートブラウニーとぴったりでございました。
チョコレートブラウニーの中には数種類のナッツが混ぜ入れられており、食感もサクサク、ザクザクといろいろあり、楽しくいただくことが出来ました。
ブラウニーにもいろいろありますのね。
以前いただいたものはしっとりしたチョコレートの生地で、表面に焼いて砕いたクルミがくっついておりましたが、あれも美味しゅうございました。
※※※※※
コンコンコンと三回ノックの音が聞こえ、返事をする前に扉が開く。
衝立を回り込んで入って来た親衛隊隊長のホセルスは、そのまま私の執務机の前まで来ると顔を覗き込んできた。
「……大丈夫じゃなさそうだな」
「いきなりかい?」
「ホセルス、御前だぞ」
ヴィクトルが私からホセの体を遠のけて注意する。
「ヴィクトルしかいないじゃねぇか」
「いいよ、ヴィクトル。ホセ、リカルドから連絡はあったかい?」
ホセは執務机の端に腰掛けて首を振る。
「それが、リカルドの奴はうちの親衛隊にも他の護衛騎士達にも何の連絡もせずに出ていったみたいでな、その後もまったく音沙汰なしだ。
厩舎からいなくなった馬もいねぇし、あの王妃様のことだから案外歩いてったのかもな」
「王妃様が歩いて?……正門以外の門か!そういえば城勤めの者と商人達が使う門があったな!」
「はぁ?正門しか調べてなかったのかよ?」
「まさか王妃様が徒歩とか考え付かないだろ!」
「エドワード様なら考えついたんじゃねぇ?」
二人が私を見る。
「……ロゼリアーナなら確かにあるかもしれない。ショックと心配でそんなことも思い付かなかったよ……」
「まぁ、仕方ねぇわな。で、誰に探索させてんだ?」
「キャスカリオ様の後任で、情報局長のランダーク・ボーネル様に今回の件の取りまとめを頼んである」
「ランダーク・ボーネル様ねぇ。
俺がさっき城下から戻って来るときに馬車とすれ違ったから帰ったんじゃねぇか?」
「なんだと!?
ただでさえ人員不足だと言ってるのに局長がこんなに早く帰ってどうするんだ!」
「ヴィクトル、落ち着こう。
ホセのお陰で私も思考力が低下していたことに気付けた。今夜ロゼリアーナのことをもっとしっかり考えてみるよ」
「悪い、私も最近忙しくてイライラし過ぎているようだ。とにかく別の門の出入りについて調べさせよう情報局へ行ってくる」
ヴィクトルが出て行った。
「宰相補佐はどうしたんだ?」
「宰相補佐候補だったガロンは落ち込んで寝込んでいるんだってさ」
「まともな奴はいねぇのかよ……」
「私が未熟だったからなんだ。
これからは、国王としての本来あるべき姿を、皆にしっかり見せていかなければならないんだよ」
「そうか?だがあまり無理はするなよ」
ホセルスも出て行った。
「無理するな、か。それこそ今は無理だよ、ホセ。何かしていないとおかしくなりそうなんだ」
二人の姿を隠した衝立に向かい呟いた私の言葉が一人残った執務室に消えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます