第13話●親衛隊隊長
エドワード殿下が戴冠の儀を迎えられ国王となられても俺のエドワード様の親衛隊隊長という地位は変わらない。
王太子殿下の親衛隊と国王陛下の親衛隊とでは何もかも違ってくる。
王太子殿下……ええぃ面倒臭い!
エドワード様は幼少の頃からフットワークが軽い。
何故俺が知っているのか。
それは一緒に育ったからだ。
エドワード様が生まれた日の翌日、王妃様の侍女が王妃様の護衛騎士の子を産んだ。
その子供が俺ホセルス・ナーロ。
まぁ、そういうことだ。
何をするにも何処へ行くにも引きずり回され、エドワード様が起こしたあれやこれやの後始末を一任され、それらをこなしてここまで来た。
城のバルコニーから民衆に手を振って答えている姿は立派だ。
えらそうに聞こえるだろうが立派だ。
こんなに堂々として見えるのは、やはり隣に並んだロゼリアーナ様のお陰だろう。
エドワード様がロゼリアーナ様と出会ったからこそ、このトライネル王国の未来が、いや俺の未来が明るくなったと言える。
※※※※※※※
「ホセ!あの子だ!ほら、あの子だよ!」
エドワード様がものすごく激しく俺の右上腕を揺さぶりながら興奮している。
「エドワード様、俺の利き腕を壊すおつもりですか?」
「そんなことよりやっと見つけたよ!」
俺の利き腕が壊れるのはそんなことなのか。
利き腕に力一杯食いついているエドワード様の手を引き剥がしてから指された先を見ると、教会前の広場の噴水で何かを洗っている娘がいた。
トライネル王国の隣、カラネール王国にある町モチェスには学園の長期休暇を利用して、数日前からエドワード様と俺の二人でお忍びで(遊びに)来ている。
到着した初日に俺の前から姿を消したエドワード様は、たまたま入った店でそこの店主と話をしていた娘の笑顔に一目惚れしたらしい。
あの銀髪の娘の美しさなら納得だな。
「それで話しかけるのではないのですか?」
「ホセ、なんでさっきから似合わない話し方をしてるんだい?」
「…………いい加減練習しろって親父とお袋に言われたんだよ」
「似合わないよ」
「ふんっ!じゃぁ、もうやめた。ほら娘さんいなくなったぜ」
「え~っ!!本当にいないじゃないか~。ホセのせいだから探して来て!」
「そりゃ無理だ。エドワード様の相手なんだから自分で探さなきゃな。これまでの俺の苦労に比べたら楽勝さ」
「ふ~ん、そんなこと言っていいの?この旅の旅費は僕が持ってるんだよ」
どうして嬉しそうに笑うんだ。
「チッ!」
まぁいい、俺は娘さんが去った方向を見ていたからすぐに探せるからな。
エドワード様を教会前の広場に残して娘さんが去った通りに入ったところで、5軒ほど先の店の前にいるのを見つけた。
「ですからこれは私の持ち物なのです。先日こちらの町を訪問した際に無くしてしまったものです。今日は探しに来たのですがどうしてこちらで売られていたのでしょう」
娘さんは店のおかみさんと向かい合い、頬に片手を当てて小首を傾げて聞いている。
「そんなこと言われても知らないよ。家の人がどこかで仕入れてんだから、うちだって元値がかかってんだよ」
「元値ですか?仕方ないですね。では元値だけ支払いますので返してくださるわね。元々私の持ち物でしたけれど元値はおいくらですの?」
周りの野次馬をぐるりと見回してから財布を取り出した。
「あ~もうっ!わかったよ!ほら、持ってお行き!これ以上ごちゃごちゃ言われるのは御免だよ!商売になりゃしない」
「あら、良かったですわ。では返していただきますね。見つけてくださったお礼に少しですがこちらをどうぞ。ありがとうございました」
へぇ、大したもんだ。
すんなり取り戻した上に相手にも損をさせないなんてな。
あ、まずい。
「ちょっと、そこの娘さん!広場の噴水のところにいただろう?あんたあそこに何かを忘れてったみたいだぜ」
「私ですか?あら、あなた先ほど金髪の方とご一緒されてましたわよね?ありがとうございます。戻ってみますわ」
綺麗な笑顔だが、さっきのを見た後だとすんなり受け取れないような気がする……案外エドワード様とお似合いかも。
相手に合わせて対応を変化させるのが上手いエドワード様と、どうやら自分をかなりしっかり持ってそうな娘さんか。
少し近くの店を冷やかしてから戻ると、広場の噴水の前にはエドワード様に両手を掴まれながら攻められ、目を丸くしている娘さんがいた。
おお、意外にエドワード様は惚れた相手にはストレートにぶつかるタイプだったのか。
後でからかったら面白そうだ。
その後、その娘さんがあの辺境伯のご令嬢だとわかり、王都と辺境伯領を何度も往復させられるとは思わなかったがな!
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