第11話●息子と夫または夫と義父

 丸くなっていたムムールが猫足グーでペシペシとマリー様のお膝を叩きました。


 さすがマリー様は躾も完璧のご様子です。


「はっ!ロゼリアーナ?私は何か聞き間違えたのかしら。離婚がどうとか……ありませんわよね」


 マリー様が焦っていらっしゃるお姿を初めて拝見いたしました。


「いいえ、確かに一昨日、書類とともにそのように言伝てがありましたので、速やかに署名をして手続きを終わらせ、その日のうちにお城を下がって参りました」


「ロゼリアーナ?あなた……エドワードとはちゃんとお話してきたのかしら?あの子があなたを手離す理由わけはないわよ。

 それに速やかにっていろいろ速やか過ぎませんこと?」


「速やか過ぎ……そうでしょうか?

 それはさておき、理由につきましては思い当たる節がありましたの。

 エドワードは戴冠の儀からこちら、寝る間もないほどに忙しく毎日を執務室で過ごされ、私とは朝食をご一緒してくださる程度でございました。

 私事でお手間を取らせてはならないと、私に関係することの相談は遠慮させていただいておりました。

 それでも何かエドワードのお手伝いが出来ればとお伺いしても何もないと返され、一昨日の朝にはお声をかけてもお顔をしかめて頭を振られるほどで……。

 おそらく、もう私のような役立たずは不要と思われたのでしょう」


「そんなことはないと思うわ。あれだけあなたに執着していたエドワードなんですもの……。

 アルの側近達が辞めたばかりだから、確かに今のあの子は忙し過ぎている状況なのでしょうね。

 だからといってロゼリアーナと離婚なんて考えもしないはずだわ。アルならともかく……」


「義父上様ですか?」


「そうなの。私が一緒に保養地へ行かないからって怒ってしまわれて。近頃は連絡もありませんのよ。

 ロゼリアーナ、本当はアルの療養などというのは嘘なのよ。あれは年寄りの慰労会と呼んでいいものですわ」


「なるほど、さようでございましたか」


「……さすがロゼリアーナは驚かないのね」


「はい、それが事実であればそのように受け止めるだけでございますので」


「そ、そう?それはそうかもしれないのかし……ら…………まぁ、よろしいわ。

 あら、でも先ほどの話しからすると私はもうロゼリアーナとは義理でしたけれど母娘ではなくなってしまったのよね。

 それならこれから私とは友人として付き合ってくださると嬉しいわ」


「ありがとうございます。私もマリー様とのお話は楽しゅうございますので、こちらからもよろしくお願いいたします」


 微笑み合ってふふふっと笑うと急にテーブルの上に並べられたお菓子が気になってしまいました。


「こちらのアップルタルトですが、城下のお店で作られておりまして、先日いただいたところ大変美味しゅうございました。マリー様にも是非召し上がっていただきたくてお持ちいたしましたの」


「まぁそうなの?それでは早速いただくわね。あなたもご一緒にどうぞ」



 甘さ控えめのアップルタルトとブラックベリーソースのバランスはやはり素晴らしいですわ。


 アムネリア、帰りにまたお店に寄りますのであまりじっくり見ないでくださいましね。


 お店でいただいたフレーバーティーのお話をしたところ、マリー様は後日お忍びで行ってみようかしらとおっしゃってましたが、聞いていた侍女が笑みを浮かべていましたので良くあることなのでしょうね。



 マリー様との会話は楽しゅうございましたが、お店のケーキがなくなる前に帰らなければなりませんのでそろそろおいとまさせていただきましょうかしら。

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