第7話●教会事務局

 ガラガラと音を立てて教会事務局の受け付け窓口の扉が左右から閉じられた。


 もうすぐ夕方のお祈りの時間だから、急いで今日受け付けをした書類や寄付を一覧にして司教様へ渡しに行かなきゃ。


 やっと一人で受け付けすることを許可してもらえたのに、時間を守れなきゃまた見習いに逆戻りしちゃう。


「アニカ、終わったかい?」


 扉を閉じてくれたおじさんだ。


「うん!ちょうど終わったところ。これから司教様の部屋へ行ってきます」


 一覧表を持って事務局を飛び出すと後ろからおじさんが叫んでた。


「アニカ!薄暗いから足元に気をつけるんだぞ!」


「わかってる!ありがとう!」


 立ち止まって手を振ると振り返してくれた。


 外から見ると開放的な造りの教会なんだけど、教会職員が使う事務局から司教様の部屋までの廊下は窓がほとんどなくて日中でも暗い。


 でも毎日使っていればなんとなく距離や段差に体か慣れるのか、薄暗くても全然平気なんだよね。



 司教様の部屋の扉をノックをすると返事があったので入室する。


「アニカです。今日の受け付けの一覧表をお持ちしました」


「ありがとう。お疲れさまだったね。さぁ、礼拝堂へ行きなさい」


 優しい笑顔のモントニオ司教様はそう言うと一覧表に視線を移されたので、私は司教様の部屋を出た。


 夕方のお祈りの時間に遅れないよう礼拝堂へと急いだけど、余裕で間に合ったので少し仲間とおしゃべりしていたら注意されてしまった。



 ※※※



 夕方のお祈りが終わってお楽しみの夕食に向かっていたら、私が探されていると呼び止められた。


 私を探されていたのはモントニオ司教様だった。


「アニカ、この一覧表に書いてある今日受け付けした離婚申請書を持って来てくれるかな?」


 どうしたんだろう、さっきの笑顔と違う気がする。


「はい、今日受け付けしたものを全部ですか?」


「……そうですね、ではファイルごとお願いします」


「わかりました。すぐにお持ちします」


 足元に気をつけながら急いで事務局に戻り、離婚申請書のファイルを持って司教様の部屋へ。


 事務局受け付けに見慣れない人が来たかと聞かれたから、格好いい騎士様が離婚申請書を持って来たから目の保養になりましたとお伝えした。


 ファイルを渡すと夕食に行きなさいと言われ、おじきをしたらお腹が鳴ったので笑われてしまった。


 今日はなんだか締まらないなぁ。



 ※※※



「大司教様、大変でございます。こちらをご覧ください」


 アニカに持って来させたファイルから抜き出した一枚の書類を差し出す。


 私から受け取った書類を見て目を見開くと、今度は私の目を凝視してから一度飲み込んで言葉を出された。


「……モントニオ司教……、これはどうされたのかな?」


「教会の事務局で本日受け付けしたものでございます……」


「何故、王族の書類を事務局で受け付けたのかね」


「これは騎士の方が持って来られたらしいのですが、その騎士は王族の書類は直接大司教に届けなければならないことを知らなかったようです。

 また、事務局の受け付け担当も署名を見ても王族のものと気づかなかったようで……」


「なんということだ……。城から何か連絡はないか?」


「いえ、今のところは何もございません」


「もしや陛下が内密に取り扱いを希望されたのかもしれぬ。城から問い合わせがあるまでこのことは他言無用じゃ」


「かしこまりました。この書類はいかがいたしましょう」


「ワシが預かっておくべきじゃろうな」


「それがよろしいかと」


「ふぅ、まずは待機じゃな。待つ身も大変なんじゃがのう」


 大司教様の額のシワが少し深くなったように見えましたが、おそらく私の額のシワはもっと深くなっていると思われます。





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