第6話●お城を下がりました
門から出てお堀の上にかかる橋を渡りながら振り返っても城壁しか見えません。
エドワードから直接お話をいただけなかったのは悲しいですが、義父上様から継がれた国王の政務は大変なものだと思われますので、少しのお時間も無駄にさせてはなりませんものね。
最後だからとお手紙を送ってしまいましたが、読まれるお時間がもったいないと思われれば時間があるときにでも読んでくださるでしょう。
どうかご無理をなさいませんよう……。
お忙しいから私と違って寂しく思う暇なんてないですよね。
橋を渡りきると両側に商店や宿屋などの看板が並ぶ通りがまっすぐに延びています。
お城の正門から伸びる大通りよりは狭いですが、さすが城下町だけあって辺境伯領の町より賑やかです。
「ねぇ、アムネリア、この時間にお城を下がってしまってから言うのも悪いのだけれど、今夜の宿の手配を頼めるかしら?」
「大丈夫です、ロゼリアーナ様。すでに押さえてございます。手荷物も先に運んでありますのでご安心ください」
「「おおっ!」」
「え?」
アムネリアの手際の良さに思わず声を出してしまいましたら、後に控えたリカルドと被ってしまいました。
「いえ、では宿屋でお部屋の確認をしてからこれからのことを考えることにします。行きましょう」
アムネリアの案内で少し歩くと他よりしっかりした造りの4階建ての宿屋に着きました。
宿屋の主に案内されたのは最上階のお部屋で、従者用の部屋が三つついており、すでに手荷物も運び込まれてありました。
「まずはあなた達の荷物を部屋へ運んでいらっしゃい。私はそちらで休んでいますね」
広いリビングルームにあるソファーは、柔らかくて沈み具合がちょうど良くほっとしました。
テーブルの上に飾られたブーケからの爽やかな香りを深呼吸して吸い込むと、さらに気持ちが落ち着いてきました。
エドワードから届いた書類を見てからずっと気持ちが急いていて、とても慌ただしく過ごしたような一日でした。
でも、あまり自分のことのように感じません。
エドワードから離れて悲しい気持ち、寂しい気持ちはあるのですが、どこか客観的になってしまう自分が不思議でなりません。
やはりお忙しい毎日を過ごされているうちに妻は不要と感じられてしまったのでしょう。
お城では身の回りのお世話は従者の方がしてくださるし、お食事も料理長をはじめコック達が美味しい料理を出してくださるもの。
私がエドワードに出来ることなどなかったのですね。
……。
……。
「私は大丈夫ですので、そんなに心配そうに覗かないでくださいな」
アムネリアとリカルドの部屋の扉が中途半端に開いて止まっているので、私でも二人の気づかいはわかりますよ。
困ったような顔でこちらに近付いて来た二人に提案しました。
「今日はお部屋にお夕食を運んでいただいて一緒に食べましょう。アムネリアよろしくね」
「はい、……」
「せっかくのお誘いですが、私はロゼリアーナ様とご一緒の夕食は遠慮させていただきます。
ご実家へお送りするまではロゼリアーナ様の護衛騎士としてお守りさせていただきますが、私は王太子時代から陛下の親衛隊に所属しております。
この度このような状況になってはおりますが、やはりロゼリアーナ様とご結婚までされた陛下のお気持ちを不快にさせるような行為は控えさせていただきます」
アムネリアの返事を遮ってリカルドが拒否の言葉を伝えてきましたが、拒否の言葉を残念に思うより、リカルドがたくさん喋ったことに驚いてしまい、つい頷いてしまいました。
アムネリアも目を大きく開いてリカルドの顔を見ています。
結局、運ばれて来た夕食はアムネリアと二人でいただき、リカルドは脇の方にあるカウンターで食べてもらいました。
護衛がお側を離れるわけにはいかないから部屋は出ないと夕食を食べるつもりのないリカルドに言われ、それでもせめて食事は取って欲しいと説得して一人分はカウンターに並べてもらいました。
リカルド、こんな人だったのね。
お夕食後の紅茶を飲みながらアムネリアとお話しました。
アムネリアとリカルドがついてきてくれて嬉しいです。ありがとう。
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