第5話●侍女アムネリア

「よろしくなくてもこうして届けられたのだから仕方ないわ。リカルド、こちら提出してきてね。アムネリア、私の支度とこれからの手配をよろしくね」


 ロゼリアーナ様からの指示にしばらく呆けてしまいました。


 アムネリア、しっかりしなさい!


 私はロゼリアーナ様が王太子殿下の婚約者となられ、お城で王妃教育を受けられることが決まった時に、お父上のカロニウス・メイナ・パラネリア辺境伯爵様からロゼリアーナ様付きの侍女に選ばれて共にお城に上がりました。


 ロゼリアーナ様は私より三つ年下、20歳の若さで王妃になられました。


 婚約当時の愛らしいお顔は最近では美しい魅力的なお顔になられ、そのお顔でにっこり微笑みながら頼まれたら速攻で承りますとも。


 侍女仲間に声をかけ、ロゼリアーナ様の大切な持ち物を痛めないよう速やかに丁寧にまとめていきます。


 ロゼリアーナ様が辺境伯家から持参なさったお気に入りの品、御友人方から送られてきた品々、衣装部屋に飾られた丁寧な縫製の上品なドレス、等々、ひたすら梱包いたします。


 あなた、そのぬいぐるみは手荷物ですからこちらのカバンに入れてくださいな。


 あ、そちらのブラシは私のものです。すみません。


 飾り物など重さのあるものはシーツでくるんで騎士の方々に運んでいただいてます。


 え?馬車の荷台がいっぱいになった?


「アムネリア、私個人の物と実家から持って来た物だけでいいのだけれど、こんなにあったのかしら?」


「何をおっしゃっているのですか!ロゼリアーナ様は王妃様でいらっしゃるのですよ!これぐらい当たり前ではありませんか!

 あぁ!馬車が足りないですね、また追加を頼みに行って来なければ!」


 荷物を梱包しても馬車がなければ運べません。


 そうだわ、いっぱいになった馬車から先に辺境伯領へ出発させるようにしましょう。


 先触れは送り出してあるから大丈夫です。


「そ、そうなのね、引き続きよろしくね」


 ロゼリアーナ様の『よろしく』いただきました。


「かしこまりました!」


 私達が梱包した荷物は次々と運び出されていく。


 あと少しですよ、ロゼリアーナ様。



 ※※※



「お疲れ様です。あとは女中頭に後片付けをしてもらうよう連絡してくださいね」


 馬車へ乗せる荷物の梱包が終わり、あとは室内の片付けのみとなりました。


 私以外の侍女の二人はもともとお城でお勤めされていたので今日でお別れです。


 お互いロゼリアーナ様の為に協力して、一緒にお世話させていただいてきた仲間でしたので私も本当に残念です。


 お二人はしばらく里帰りをして、ご両親とこれからのことを相談されるそうです。


 それぞれにロゼリアーナ様がお選びになったご自分のドレスを数着ずつ渡されましたので嬉しそうでしたね。


 私はこれからもロゼリアーナ様とご一緒できますので羨ましくなんてないです……ないですよ。


「ロゼリアーナ様、お荷物の運び出しは完了しました。馬車は先にご実家へ出発させました。ロゼリアーナ様はこれから陛下にご挨拶に行かれますか?」


「私がお伺いして参りましょう」


 ロゼリアーナ様へ報告していると、リカルド様が横から提案されました。


「いいえ、エドワードはお忙しいようだから私はこのままお城を下がろうと思います。

 リカルドは先ほどの証明書をこの手紙と一緒に届けさせて。

 アムネリア、私もさすがに堂々とお城から出るわけに行かないから、こっそり出られるようにお願いするわ。衣装もそれなりにね。

 あら、最後なんだからついでに城下を見ておこうかしら」


 ロゼリアーナ様の表情は先ほどまでと変わって明るく見えましたが、気丈に振る舞っているのはわかりました。


 私はリカルド様と視線を合わせて頷きます。


 私達がロゼリアーナ様をお守りします。


 何事にも控え目なロゼリアーナ様はお城をお下がりになるのも目立ちたくないご様子でしたので、貴族令嬢の質素な普段着に着替えていただいてから、私達が城下町に出る門からリカルド様と三人でお城に後にしました。


 門から出られたロゼリアーナ様の目がキラキラして見えたのは、城壁を囲むお堀の水が輝いているせいだったのかしら。

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