第4話●どうしてこうなった?
ヴィクトルが宰相補佐候補を連れてきた。
父上の宰相をしていたウィリアムズ・ジェラルドの甥でガロン・ジェラルドというらしい。
ヴィクトルとは同じ歳だが学園では同じクラスになったことはないとか。
とりあえず前宰相のウィリアムズから薦められたらしいので、各部署との書類の受け渡しから手伝ってもらうことにした。
※※※
「ヴィクトル、父上は本気らしいぞ。ほら」
側室を亡くして落ち込んでいた父上は療養のため、私の戴冠の儀が終わると側近達を全員連れて王都から離れた保養地へ引っ込んでしまった。
普通は全員連れて行かないだろう!
「お前達なら出来る」
意味がわからない。
父上の側近達はそれぞれの部下や子息に引き継ぎをしていってくれたものの、引き継いだからすぐに出来るものではなく、結局まだ全ての書類をこうして私とヴィクトルが確認していくしかなくなっている。
忙しいなんてもんじゃない。
さらに父上は自分の療養に付き添わなかった母上と離婚すると言い出し、私の手元には離婚申請書と表記された書類が提出されている。
記名欄の一番上には父上の名前でアルスタール・ダ・ラル・トライネルと署名されている。
一緒に添付された手紙にはお前と妻の署名をするようにと書かれている。
戴冠して間もないこの忙しい時期に何をと怒りを覚えながら、両親のことなどもう知ったことではないと二段目に署名してガロンに渡す。
「三段目は妻の署名がいるらしい。私は忙しいからさっさと署名して提出してもらえ」
「はい、ではこちらの箱をお借りいたします」
ガロンは執務机の端に置いてあった箱を一つ取って書類を入れると執務室を出ていった。
「伯母上はお怒りになるんじゃないか?」
ヴィクトルは心配するが、いつまでも親の心配なんぞしていられない。
とにかくこの書類を片付けてしまわなければ。
昨日から持ち越した書類がいつもより多くてうんざりしたのが動作に出てしまい、今朝のロゼリアーナとの朝食中に心配させてしまった。
早く落ち着いて二人で過ごす時間を取らなければロゼリアーナを不安にさせてしまう。
ヴィクトルの心配には答えず、次は緊急性の高いものから片付け始める。
※※※
ノックの音にヴィクトルが返事をするとガロンが戻ってきた。
「ご様子はどうだった?」
「護衛騎士に渡して来ましたのでなんとも。とりあえず急いでいただくよう頼みましたが」
「そうか、様子見するしかないな。次はこの書類を渡して来て欲しいのだが場所はわかるか?」
「大丈夫です。城内は覚えましたから。では」
ガロンは再び出ていった。
※※※
夕方近くになってようやく書類が運び込まれなくなり、今日中の仕事に見通しが立ち始めたので、ヴィクトルが侍従に紅茶を頼んだ。
侍従が運んできた紅茶を一口飲むと、香りと温かさに肩の力が抜けた。
ヴィクトルは立ったままソーサーを片手に飲んでいる。
そこにノックの音が響いたので入室を許可するとロゼリアーナ付きの侍女が王妃専用の箱を掲げて入って来た。
「ロゼリアーナ様からのお手紙でございます。失礼いたします」
執務机に箱を置くと一礼して出ていく。
ロゼリアーナから手紙?
私がいつも忙しいから、手間を取らせないように気を付けますなどと可愛らしいことを言って、私の仕事中には連絡を入れないようにしていたのに珍しい。
紅茶のカップをソーサーに戻して箱から手紙を取り出す。
「ん?これは」
離婚申請受理証明書
手紙に添付された証明書に首を傾げながら手紙を開いて読めば、今までのお礼と必要のないはずの謝罪、私の体への気遣いの言葉、そして……別れの挨拶。
さようなら、実家に帰ります。
「はぁっ!?何が起こった!?ロゼリアーナ!」
私は慌てて執務室を飛び出て王妃の間に駆けつけるとノックもせずに扉を開いた。
そこには綺麗に片付けられた部屋があるだけでロゼリアーナの姿はなかった。
「陛下!王妃様は!?……」
後ろから追いかけてきたヴィクトルも部屋に入ると私と同じく絶句した。
何が起こったんだ……。
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