第2話●受理されました

 リカルドが書類を提出するために訪れたのは王都の中心にある国教会の事務局。


 事務局の受け付けにいたのは若い女性の事務員で、リカルドから書類を受けとると記入内容の確認をして教会の受理印を押した。


「はい、記入間違いはありませんでしたのでこの書類は受理いたしました。受理番号を記入しましたので、受理印の割り印からこちらを切り離しますね。…………どうぞ、お控えください」


「……こ、こんなに簡単に受理されて良かったのだろうか?」


「はい?教会に提出される書類は全てこの事務局で受け付けておりますが?」


 奥から持ち出してきた保管ファイルに書類を閉じながら、事務員の女性は小首をかしげる。


「そ、そうなのか。……ありがとう」


 リカルドは受け取った割り印がある書類をしまうと城に戻るため、待たせていた馬車に乗った。


 いろいろとありえないことがスムーズに進んでいる気がしてならないのだが、一護衛騎士が口を出すのもおかしいので、今はロゼリアーナ様の指示に従っておこうと思考を止めた。



 ※※※



 ドタバタとはならないものの、ロゼリアーナが使っていた王妃の間から荷物が運び出されていく。


「アムネリア、私個人の物と実家から持って来た物だけでいいのだけれど、こんなにあったのかしら?」


「何をおっしゃっているのですか!ロゼリアーナ様は王妃様でいらっしゃるのですよ!これぐらい当たり前ではありませんか!

 あぁ!馬車が足りないですね、また追加を頼みに行って来なければ!」


 荷物を手に持ち、忙しく動き回りながら答えるアムネリアの雰囲気が怖い。


「そ、そうなのね、引き続きよろしくね」


「かしこまりました!」


 優秀な侍女達のお陰で荷物は次々と運び出されていく。



 ※※※



「ロゼリアーナ様、戻りました。こちらは教会で書類が受理された証明書だそうです」


 ロゼリアーナはリカルドから渡された証明書の割り印を見て、今さっきまで不確定に思われていた事実が確定したことを知った。


「リカルドありがとう。お疲れ様でした。

 これすごいでしょ?あなたが出かけていってから始めたのだけれど、アムネリアの勢いに他の侍女達まで巻き込まれたみたいで、私なんて見てるだけで目が回りそうよ」


 王妃の間はリカルドが出かける前とくらべてかなりすっきりしている。


 もともと豪華な物や派手な物は多くなかったものの、センス良くまとまった上品な品々が片付けられシンプルな執務室のようになってしまっている。


「エドワードはまだまだ執務中よね。ここ数日は朝食でしか顔を合わせていないわ。

 戴冠式の後、国王としてのお仕事に慣れるまではやることや覚えることがたくさんあって大変だと言っていけれど、私がお手伝い出来ることはないとも言われたの……。

 今朝、エドワードが顔をしかめて頭を押さえられたから心配して声をかけたのだけれど、なんでもないとそっけなく返されたの。

 書類の署名を見てこれだったのかと思ったわ」


「ロゼリアーナ様……」


「エドワードどころかヴィクトルからも何もないところを見れば、このままお城を下がっても問題なさそうよね。

 王太子妃から王妃になって私なりに気合いを入れていたけれど、終わりはこんなものなのね」


 リカルドが返答に困っているとアムネリアがやって来た。


「ロゼリアーナ様、お荷物の運び出しは完了しました。馬車は先にご実家へ出発させました。ロゼリアーナ様はこれから陛下にご挨拶に行かれますか?」


「私がお伺いして参りましょう」



 スカートのひだを直しながらアムネリアが報告し、リカルドが自ら扉へ動き出そうとしたところで制止がかかる。


「いいえ、エドワードはお忙しいようだから私はこのままお城を下がろうと思います。

 リカルドは先ほどの証明書をこの手紙と一緒に届けさせて。

 アムネリア、私もさすがに堂々とお城から出るわけに行かないから、こっそり出られるようにお願いするわ。衣装もそれなりにね。

 あら、最後なんだからついでに城下を見ておこうかしら」


 胸につかえる想いはあるけれど、こうなったからには前を向いて楽しまなくては!


 ロゼリアーナの表情が暗いものから明るいものに変わるのを見て、アムネリアとリカルドは視線を合わせて頷いた。


 自分達がロゼリアーナ様をお守りします。



 その後速やかに質素な衣装に着替えたロゼリアーナは、アムネリアとリカルドの二人だけを連れると、城に仕える者や商人が出入りする門から城下へと抜けたのであった。

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