第3話 断罪! 俺!?
教室に入ると、アロガンシアは既にいた。
「ごきげんよう、アロ――」
「あなた、頭おかしいんじゃありませんの!?」
「……は?」
鬼気迫る表情で、挨拶もなしにつかみかかってくるアロガンシア。
自己完結型で支離滅裂な彼女だが、今日は一段とわけがわからない。
「あの、仰っている意味がよくわかりませんわ」
「わたくしは画鋲を入れておけと言ったのですのよ!?」
「ええ、入れましたわ」
「本当に、画鋲を……?」
「……いやその、マジで踏んだらヤバいかなって思いましたので、五寸釘にしておきました」
アレなら履く前に気づくだろう。
「その発想もどうかと思いますけど、誓って五寸釘なのですわね?」
「どうなさいましたんですの。さっきから何を仰っていらっしゃるか、さっぱり……」
その時、バァン! とドアが強く開け放たれた。
男子生徒さえお上品なこの学園において、なかなか見られない光景だ。
「騒がせてすまない、2年生の諸君!」
よく通るテノールは、オペラ歌手にだって負けてはいない。
白い学生服。肩まで伸びた金色の髪。色の白い、しかし虚弱さなど感じさせず、むしろ気高さと凜々しさを印象づける美貌。すらりと伸びた背丈は2メートルを越す。
彼こそ、『幻麗のアストラルリート』の
「え、エーデルライトさま……!」
彼の怒りの理由を察したアロガンシアは、そのままショック死しそうなほどに顔を蒼白にして、後退る。
まあ、彼女にとってはここで死んだほうが望ましいかもしれない。
これからはじまるのは、この物語の悪役であるアロガンシアの公開処刑だ。
ノーマルーデに対してやった数々の悪行をエーデルライトによって公衆の面前で暴露され、それを理由に婚約を破棄され、そしてすべてを失うのだ。おいたわしや。
しかし妙だ。このイベントは3日後に開かれるダンスパーティで行われるのではなかったか。
そしてその場にはノーマルーデがいたはずだ。
なのに今、彼女の姿はどこにもない。
こんな重要イベントが主人公不在で行われるわけがないのに。
エーデルライトは、細くしなやかな指をすっと前に突き出した。
おかしい。彼の指が向かっているのは――俺じゃないか!?
「アインザム嬢。ノーマルーデ・アリフレッタ殺害未遂の容疑者として、君を官憲に引き渡す」
「はあ? 殺害未遂?」
「シラを切る気か!」
エーデルライトの柳眉が逆立つ。
「忘れたなら思い出させてやろう。今朝、ノーマルーデの下駄箱に暗器が仕込まれていた。蓋を開けると矢が飛び出す仕掛けだ。辛うじて外れたからいいものを、一歩間違えればノーマルーデは死ぬところだった!」
王子さまはお怒りのあまり、ノーマルーデを呼び捨てにしていることにも気づいていないようだった。
婚約者がすぐ側にいるというのに、別の女との親密さをもはや隠しもしない。
「君たちは以前からノーマルーデにいやがらせを繰り返していたようだな! そして下駄箱に細工をしようとしていたと! 多くの生徒が聞いている!」
「いや……」
矢だって? 俺は五寸釘を靴の中に差し入れただけだぞ?
それに、なんでアロガンシアじゃなく俺、いや、アインザムが糾弾されてるんだ?
なんとなくアロガンシアの様子を横目でうかがうと、お嬢さまは身をかがめて抜き足差し足で教室を出て行こうとしているところだった。
本当、小者ムーブしかしねえなコイツは!
向こうもちらっとこっちを見たので、俺は生暖かい微笑みを贈ってやる。
いいよもう、おまえには期待してねえから勝手にしろよ。
「どこを見ている、アインザム嬢?」
「いえ、別に」
「言い逃れは利かんぞ。証人もいる」
「証人?」
前に進み出てきたのは、なんとクランクルムだった。
そういえばさっきからアロガンシアの
クランクルムはつるりとした顔をまっすぐ俺に向ける。
アインザムもそうだが、脇役である彼女の顔には目が描かれていない。
ちなみに盲人設定はないので、視力はある。どこでどうやってものを見ているかは自分でもわからない。
「間違いありません。アリフレッタ嬢の下駄箱に対する悪戯は、アインザム嬢がおひとりでやったことですわ!」
こいつ、他人の語尾を復唱する以外にも喋れたんだな――と俺は思った。
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