第2話 二つ目の依頼

「..............まただ。」


机の中に入れておいた教科書が無い。持って帰ってはいない筈なのに...........

もしかすると、と思い、私はゴミ箱を覗く。するとそこには、ぐしゃぐしゃにされた私の教科書が入っていた。


「あ..............」


そんな声しか出ない。これ何回目だろう?

数えることも出来ない。というかしたくない。周りはクスクスと笑っている。誰も味方じゃないのだ。私は常に1人。親も担任もそんな訳ないと手を差し伸べてくれない。本当に毎日が辛い。だが。


「今日の放課後だ.......」


私の最後の頼みの綱。スクールカウンセラー。今年から新しく来た先生に頼るしかないのだ。


「そう言えば、朝いた人......初めて見た人のような......?」


新任の教師は大体知っている。そのため、彼は初めて見たということで間違い無いだろう。


「あの人なのかな.......」


お願い助けて。

これでダメなら、私はもうーーーーーーーー


「琴音ー。ちょっといい?」


名前を呼ばれた。よく聞く声だ。嫌というぐらい聞かされた。と言ってもいい。


「な、なに.........?」


振り向いたそこに、彼女はいた。校則に引っかかるであろうスカートの丈。金色の髪。整った顔とバッチリ決めたメイク。いかにもスクールカースト最上位といった容姿の彼女の名前は川上沙羅。私をいじめている主犯だ。沙羅は容姿もスタイルも良く、クラスでも人気者だ。誰もが沙羅の味方になる。私は身構えた。


「そんな怖い顔しないでよ〜wでさー、あたし今ちょっとお金必要なんだよねぇ〜。琴音貸してくんない?」


またこれだ。昨日も一昨日もそんなことを言われた。だけど反抗しようものなら何をされるか分からない。私は仕方なく


「ど、どのぐらいなの........?」


と聞く。ああ、また言っちゃった。本当は貸したくないのに。これ以上虐められるのが怖くて、沙羅が怖くて。はぁ、こんな私を変えたい.........。いつもそんなことを思っていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



お昼休み。腹が減ったなぁと感じた頃、俺は作ってきた弁当を開き始める。仕事は早めにやっておく主義なので、割と食べる時間はある。この時間が俺は好きだ。なんて思っているとそこへ、


「伊織くん、ひとり?よかったら一緒に食べない?」


と声をかけられた。長い黒髪。スラっと高い身長。若干低めの声。2Aの担任の滝川麻弥だ。性格も明るくお人好しって感じの人。人生充実したそうな印象だ。俺は少し考えて、


「まぁ、いいですけど」


と了承した。


「おー良かった。君とはお話ししたかったんだよねぇ」


「それ、昨日も聴きましたよ」


「あちゃー、バレたかー」


.............まったく。なんなんだこの人は。

苦手じゃないが、意図が読めん。と思いながら、俺は弁当を食べ始める。麻弥も同時に食べだした。


「んで、俺に用でもあるんですか?」


「あーそれね。簡単に言うと君への依頼なんだけど。」


「カウンセリングなら放課後は無理です」


「じゃあ掃除中にしよう」


「決めるの早っ」


「緊急だからね」


緊急?この人今緊急と言ったか?何かあったのだろうか


「......緊急とは」


「単刀直入に言うと、今回上がっているいじめに関するものだ」


なるほど。それに関係しているのか。

麻弥は弁当を食べながら淡々と話を進めていく。その能力、少し羨ましい.......。俺は与えられた仕事はこなせるが、どうもマルチタスクってやつが苦手なのだ。一つのことに集中してしまうと他のことが並行してできない。


「その子、3年なんだけどさ。なんか凄い複雑なんだって。こう、自分が、自分じゃない〜みたいな?」


「は、はぁ......」


この時期の子供にはよくあることだ。所謂思春期ってやつだろう。俺には中学の時の記憶がないため、一切わからないが.........


「で、その子が掃除中に来ると」


「そう言うことさ」


「了解しました」


「...........」


麻弥が何故か見てくる。


「何ですか?」


「君、何で言うかロボットみたいだよね。こんなに美人なお姉さんと一緒に食事してるのに、仕事の話以外しないんだもん」


「仕事の話持ちかけたのはそっちじゃ無いですか」


「そぉ〜だけどぉ〜」


いや、そうじゃねぇかよ。


「終わったらすぐに黙っちゃうじゃんかぁ」


「だって特に話す話題無いですし」


「はぁ.....釣れないなぁ」


「釣れないなぁって.......ていうか、麻弥さん彼氏とかいないんですか?」


「お?そこ聞く?彼氏はいないよ〜欲しいけど」


「へぇー」


「もう、なにそれぇ〜〜」


そんなこんなで昼食を食べ終え、俺は相談室は向かう。この後掃除のはずだ。例の生徒が来るだろう。それにしても、ロボットみたい。ねぇ........。よくわからんことを言うな。麻弥は。


相談室へはいると生徒がいた。金色の髪と校則大丈夫かってレベルで短いスカートの丈が印象的な少女。


「あぁ、待たせた?ごめんな」


「い、いえ今来たばかりなので」


「そっか。俺は三黒伊織。君は?」


「川上......沙羅です。」

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