第646話 美女の香りにむせカエル!リターンズ!

 ならば、デスラーたちはどこに行ったというのであろうか?

 というか、クロトにはその心当たりがあるとでもいうのだろうか?

 そんなクロトがハイグショップの中に戻ると、先ほどまで四人が胡坐をかいて座っていた場所で何かゴソゴソと作業をし始めた。

 そして、3分の後、何かを持って帰ってきたではないか。


 クロトの手には一匹のカエル。

 このカエル……どこかで見たことがあるような……

 そのカエルを見た途端、タカトは驚きの声を上げた。

「あっ! それは俺が作った『美女の香りにむせカエル』じゃないか!」

 そう! これこそタカトがおっぱいの大きな女性を見つけるために作った融合加工の道具。美女が発する特有のにおいをかぎ分けて発見するとカエルが鳴いて、その方向を知らせてくれるという代物なのである。

「って、懐かしいなぁwwww」

 などと、感慨深いタカトかと思ったらwwww

「じゃねぇよ! このボケガエル!」

 と、過去、いや、今の時間軸から見れば未来の出来事を思い出したタカトは、クロトの手からカエルをつかみ取ろうとしたのだ。


「おっと! だめだよ!」

 クロトはカエルをサッと背に回しタカトから隠した。

 しかし、それを見たタカトはバカにしたように笑うのだ。

「わはははは! 自慢じゃないが、そのカエルは美女の香りには全く反応しない!」

 そう……

 そうなのだ……

 そのカエルを実際に使ってみると……美女の香りではなく、なぜかオッサンのむさくるしい体臭にしか反応しなかったのである。

 これによって……

 いや、このカエルのせいで、未来のタカトはガンエンとおホモ達の関係と権蔵たちに認定されてしまったのである。

 思い出すだけでも、忌々しいカエル。

 だが、今は、そんなことはどうでもいい。

「ということで、このカエルでエロイおなごを見つけられる可能性は100%!ナッシングなのだぁぁぁぁぁ!」

 って、失敗の自慢してどないするんやwwww


 だが、クロトはニコニコと笑うのだ。

「たぶん、このカエルで鰐川さんの跡を追えると思うんだけど……さっき、この道具をちょっと分解して中の仕組みを少し改造させてもらったから……」

「改造って、あの店に戻った3分でかwww」

 それを聞いてタカトは、あからさまに馬鹿にするかのような笑みを浮かべた。

 というのも、タカトでさえ自分の作った道具の裏モードを発現させるのに5分はかかるのだ。

 それなのに、初見で道具の構造を全く知らないクロトが3分でまともな改造ができるわけはないのである。

 ということは、そんな大した改造ではないだろう。と、高を括るタカト君。

 ――そのボケガエルはオヤジにしか反応しねぇんだよwww

「まぁ、確かに3分ぐらいしかなかったから大した改造はできてないんだけどね……」

「そらみろwwww」

「美女の香りとまではいかないけれど、鰐川さんの匂いは登録できたと思うんだ」

「はい⁉」

 キョトンとするタカト……

「だから、店に残っている鰐川さんの歯ブラシからその匂いを記憶させたんだ。これで、多分、このカエルは鰐川さんの香りに反応する思うんだよね」

「……はい?」

 何やら形勢が逆転しているような気がするのはタカトだけではないだろうwww

 

 そう言い終わると、クロトはカエルを開血解放させる。

 ゲロゲロ!

 すると、カエルはクロトの手の上で大きな鳴き声をあげた。

「うまくできたみたい」

 その反応を見たタカトは、何か嫌な汗が噴き出すような感覚を覚えていた。

 ――いやいやいや……そんなに簡単に女の匂いに反応するようにできるのなら世話ないんだよ! だいたい、俺がどれだけビン子でテストしたと思ってんだ! 874回だぞ! もう‼鼻血もでねぇよ!

 というか……今、思うと……ビン子でテストしたのがダメだったのではwww

 ――仕方ないだろ! 俺の周りに女はビン子しかいねぇんだから!


 そのカエルを見た本郷田タケシは驚きの声を上げた。

「ならばこれで!ルリ子さんの居場所が分かるんだな!」 

 だが、融合加工に通じている立花どん兵衛はいぶしがる。

「クロト……そのカエルの反応範囲は?」

 そう、いかにルリ子の匂いを嗅ぎ分けられたとしても、その場所が遠く離れていては意味がない。

「おやっさんwwwこのタカト君の発明は凄いよ。おそらく、反応範囲はこの融合国全域」

「融合国全域だと! そんな馬鹿な! 物理的に不可能だ!」

「だから、匂いを嗅ぎ分けるというより、存在そのもの空間認識してるんだよwwコレ!」

 と、クロトは嬉しそうに説明した。


「「「そうなのか……すげぇ……」」」

 と、感心する3人のオタク……って、タカト!お前もかよ!


 ――ま……まぁ、実は障害物があるとその範囲は狭まるんだけどね……

 などと、思いながらタカトは前を走るクロトたちについていく。

 クロトの手の上ではルリ子の匂い、いや、存在に反応したカエルが右を向いてはゲロ!

 左を向いてはゲロ!

 そして、ついには、下を向いてゲロゲロゲー

「臭え!」

 あまりのゲロの臭さにタカトは思わず鼻をつまんだ。


 あたり一面に広がる汚物臭……

 そう……ここは貧困街の最果て。スラム街の一歩手前である。

 道端では酔いつぶれたオッサンがゲロを吐きながらガラの悪い兄ちゃんに土下座をしていた。

「許してくれ……金はちゃんと払う……」

 その横では女が小便を漏らしながら気を失っている。おそらく、その兄ちゃんに先ほどまで殴られていたのだろう。

 ここにいる人間はゴミのような人間ばかり。

 そんなゴミと糞尿とゲロとが入り混じったあぜ道……そんな道の奥に2階建ての建物が一つぽつんと立っていた。

 だが、その建物だけは周りの建物と明らかに違った異様な存在感を放っていたのだ。

 そんな建物の前に立つ四人。

 彼らの目の前には鋼鉄製の小さな四角いドアがどんと立ちふさがる。

 カエルの反応によると、どうやらこの向こう側にルリ子がいるようなのだ。

 だが、次の瞬間、鋼鉄製のドアの向こう側から雷鳴のような振動が襲ってきたのである。

 身震いする四人。

 どうやらそれは人の叫び声。

 歓喜と怒声とが入り混じった狂気の声のようである。

 クロトは、そんなドアに恐る恐る手をかけた。

 鋼鉄製のドアがギィーッという低い音ともにゆっくりと開いていく。

 その瞬間、その隙間からひときわ大きくなった凶音がドッと押し寄せてきたのだ。

「「「「ワァァァァァァァッァ!」」」」


 ドアの先には左右の壁を赤いたいまつによって照らし出された階段が地下へと長く落ちていた。

 そう、ココはかつて過去の遺物を発掘するために掘った穴の跡。

 そして、今は、非合法な地下闘技場として使われていた。

 そのあまりの異様な雰囲気にクロトでさえも躊躇する。

 だが、そんなクロトの肩に手を置き、立花が前に進み出たのだ。

 それから「俺についてこい!」と、ウインクしながら手招きするのである。

 この地下闘技場は立花にとって毎日通う慣れた場所。

 まるで我が家の階段かのように平然とスタスタと降りていくのだ。

 残る三人はそんな立花に少し間を開けてゆっくりとついていきはじめた。

 そして、その降りた階段の先にあったのは……


「「「「ワァァァァァァァッァ!」」」」

 そこは、天井とリングの四隅に立てられた松明の明かりが、赤々とリングを照らしだす小さな世界。

 掃きだめのような汚い地下室につくられた小さなリングであった。

 そんなリングを取り囲む観客たちの阿鼻叫喚が地下のホールにこだまする。


 そんなリグの上では一匹の魔人が吠えていた。

 顔はオオカミ。

 その上半身裸の体は筋肉質で逆三角形を描いていた。

 見るからにムキムキマッチョのそのボディは格闘技向きと言えることだろう。

 だが、そんなオオカミの魔人は、先ほどから幾度となくロープによじ登っては、リング下にいるセコンドの男に押し返されていた。

 ならばと、逆サイドのロープをくぐろうと走って滑り込めば、今度は審判に足を引っ張られてリングの中央に戻されるのだ。

 どうやら、この魔人……リング上で戦う事が嫌なようである。

 まぁ、確かに、魔人といえば人間ほどとは言わないが、それ相応の知能が発達している。

 自分が見世物にされると分かれば、もしかしたら、そのプライドが許さないのかもしれない。

 というのも、魔人は人を喰らうのだ。

 さらなる進化をするために人を喰らい続けるのである。

 リングの周りを見渡せば酒を飲んだ親父たちが先ほどからヤジを飛ばしているではないか。

 この親父たち……いかに小汚いチビハゲデブであっても人間は人間。

 であれば、リングから降りて群がる人間たちを片っ端からたいらげたいと思うのが魔人の本能である。

 そんな魔人はついに自分の本能を抑えきれないかのように天に向かって吠えたのだ!

「俺はアイドルのお尻が見たいんだァぁぁぁぁぁ!」


 オオカミの咆哮は、すでに鳴き声、いや、泣き声に変わっていた。

 そう、まじで泣いているのだ。

「信じてくれ! 俺はアイドルを見に来ただけで、人間を食いにきたわけじゃないんだあぁぁ」

 リングサイドに駆け寄ってはロープの隙間から下ろしてくれと懇願するが、リングサイドの怖いお兄さんたちは首を横に振って魔人をにらみつけるのだ。

 もはや、この状況……どちらが怖い魔人なのかわかりゃしないwww

「これを見てくれ! おれは本当にアイドルのステージを見に来ただけなんだって!」

 そんな狼の魔人の手にはアイイドルの顔写真が大きく印刷された大きな紙袋が揺れていた。

 その中には、

 色とりどりのペンライト。

 蛍光ペンで大きく「お尻!」と書かれたジャンボうちわ。

 きわめつけは「発情! 交尾! 子孫繁栄! 両国平和!」とのドン引きの手作り横断幕。

 そんなものを取り出しては、リングの周りの観客たちに助けを求めるかのように見せ始めたのだ。。

 どうやら、この魔人は本気で聖人世界にアイドルのステージを見にきただけのようであるが……そんなことはココでは関係ない。

 そう、地下闘技場では生きるか死ぬか……

 リングから降りるには相手を殺すしかないのである。

 それが、この地下闘技場の唯一の掟。

 リングに上がれば、それがアイドルオタクだろうが、お尻フェチだろうが例外なくこのルールに縛られる!

 というか、魔人がアイドルのステージwwww

 この魔人に、そんな文化的なものを見て感じるだけの知能があるとでもいうのだろうかwwww

 と言わんばかりの失笑が観客席から沸き起こっていた。

 試合開始前の余興としては悪くはない。

 だが、これでは賭けが成立しない。

 というのも、次の試合はファイナル!

 対戦相手は、この地下闘技場、無敗のチャンピオン!ゴンカレー=バーモント=カラクチニコフ! 本日!2回目の登場なのである!

 そう、彼はこの数時間前に一度、魔人と戦っていたのだ。

 そして、その時、この地下闘技場にいた立花どん兵衛は……手持ちの全財産を失ったのである。

 ハッキリいって立花の様に対戦相手に敢えて賭けるという変わり者がいなければ、賭けが成立しないレベルなのだ。

 それほどまでにゴンカレーという男は強すぎる! 強すぎるのである!

 だが、かといって、ゴンカレーをリングに上げないわけにはいかない。

 というのも、彼を目当てでやってくる客が大半なのである。

 しかし、ゴンカレーが勝ち続けたのでは、さすがに面白くない。

 大金が動かないのでは地下闘技場としてはエンターテイメント性に欠けるのである。

 負けてくれとは言わない……だが、せめてギリギリの勝負。紙一重の勝利を演出してもらいたいのである。

 しかし、ゴンカレーはそんな話に耳を傾けない。

 ただひたすらにリングに上って拳を振るだけなのだ。

 そんなものだから地下闘技場のオーナーは、あの手この手を考えた。

 ゴンカレーの対戦相手を魔人にしてみてはどうだろうか……

 彼を連続で戦わせてみてはどうだろうか……

 けれども……どれもダメだった……

 ならばということで、本日、新たなステージを試みるのである。



 

 






 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る