第621話 司会者はいったい誰でしょう?
一方、控室では……受付の係員がドアから中を覗き込み次の順番を呼び上げていた。
「えーっと、72番の方、ステージの横に控えてください」
うん? 072番?
おお! それはタカトの番号ではないか!
タカトが長々と「エロ本カク―セル巻き」の説明をビン子にしている内に、あっという間に時間が経っていた。
そう、時刻はもう夕方wwww
そのため、控室にはもう、タカト達以外の参加者は誰も残っていなかった。
というか、そもそも、カレーが品切れで無くなったあたりから誰もいやしなかったのだ。
だって……昼飯であるカレーを食べていないから、腹がグーグーなって仕方ないのである。
ステージの上で腹でも鳴かそうものなら、明日、神民学校に行けばみんなの笑いものになってしまう。
「やーい! グーグー太郎‼」
「グーグーがんも! がんもどき!」
って、古いわ!
だが、それだけは避けたい……
その一心で皆、、会場近くにあるコンビニでパンを買って飢えをしのいでいたのである。
まぁ、他の奴らの事などどうでもいい!
さぁ! タカト君の出番です!
そんなタカトは意気揚々と控室を出ると、ステージの脇へと歩いて行くのだ。
で……
タカト君は、この道具コンテストに一体なにを出品しようというのでしょうね?
なぜか、タカトを後を追うビン子は不安になっていた。
道具コンテストも大詰め!
夕刻を迎えているというのにステージ前の観客席は超満員であった。
コンテストに参加しているものの多くは神民学校の生徒と、まだまだ若い。
だが、若さゆえなのか、出品されている道具は先駆的なものから実用的なものまで多種多様であったのだ。
そんな道具で一山当てようと、観客席には、融合加工道具の販売会社の企画部長やら商社の人間、はたまた他国の産業スパイなど有象無象がひしめいていたのであった。
参加者たちが上るステージの真ん中では司会の男が大声を張り上げていた。
「さあ! 道具コンテストもクライマックスだぁぁぁぁ!」
その白い服に覆われた筋肉隆々の逞しい体は、見る女性たちを魅了する。
筋肉隆々の逞しい体……
うん?
もしかして、スグル先生のこと?
確かに、スグル先生は道具コンテストの司会を担当している。
しかも、その体はマッチョだし、「尻魂!」改め「お尻ラブ!』とプリントされた白いタンクトップを身に着けていた。
だが……それは……タカトのいた10年後の世界。
この過去の世界のことではないのだ。
では、この時代のスグル先生はどこにいるというのであろうか……実は、作者すらもよく分かっていないのである。
なら、この司会者は一体誰なのだ?
ならば、一つヒントを差し上げようwww
「現在のトップは、あの空に浮かぶ月へと届くかもしれない驚異の超推進力エンジン!オイルバーン試作機を作ったクロト = メンジェントル君、その得点はなんと49点だ!」
ちなみに、この道具コンテストは持ち点10点の5人の審査員による50点満点で競われる。
そんな司会者のセクシーボイスが発せられるたびに、観客席の前に陣取ったおば様たちが猿のような黄色い悲鳴を上げて大騒ぎしていたのである。
「きゃぁぁぁぁぁ♡」
あれ? この展開? もしかして! 司会者はセレスティーノの旦那ですか?
ブッブー! 不正解!
この時代のセレスティーノは中等部の学生。
さきほどまで、ミーニャと一緒に控室の中を覗いていたではありませんか。
まぁ、今は、誰もいなくなった控室など興味がないようで、ミーニャがブリブリざえもんと戦っている水洗便所の壁に耳を押し付けて中の様子を伺ってニヤニヤといやらしい笑顔を浮かべていますけどねwww
「やっぱり美少女だって人間、ちゃんとウ〇コするじゃんwww」
変態かよ!
しかし、そのいやらしい気配にミーニャは気づいたようで、トイレの中で泣き声とも怒り声とも分からぬ発狂した大声を上げていた。
「セレスティーノっ! 殺す! 絶対殺す! トイレから出たら絶対に殺すからな!」 ブリブリブリ! ブリブリざえもん2nd!
「おお怖っwww」
笑顔で身震いをするセレスティーノは、それでも耳を壁に押し付けたままだった。
というのも、この音の様子だと、ブリブリざえもんとの格闘はしばらく続くことだろう。
ならば、ミーニャちゃんの恥ずかしい姿、まぁ、この場合は音だけであるが、それでも、それをじっくりと堪能したいのである。
だって、今晩のおかずは、トイレの中で恥ずかしに顔を赤らめ腹痛と格闘するミーニャちゃんで決定なのだ。
ああ……そう考えただけでも、なんだか下半身にピラミッドパワーが宿ってきそうである。
そう……この頃のセレスティーノ君はミーニャが好きで好きでたまらなかったのであるwww
あれ? そういえば、セレスティーノといえば、アルダインの娘であるアルテラと結婚しようとしていたのでは?
その通り! でも、この時点のセレスティーノ君は、まだアルテラと出会っていないのです。たぶん。
そう! このあと展開されるお話で二人は遭遇するのです。そして! LOVEストーリは突然に!
って、セレスティーノもアルテラも互いに恋心は全く抱いていなかったかwww
だって、セレスティーノは権力目的の政略結婚、アルテラに至ってはセレスティーノのことなどアウトオブ眼中なのですからwww
さて、ステージに話を戻そう。
スグル先生でもなくてセレスティーノでもなければ、この司会者は誰なのだ?
そう、この司会者こそ! ユングラー=フーディーンさんなのである!
はぁ⁉
ユングラー=フーディーンって誰だよ⁉
知らない?
知らないかぁぁwwww
今までのお話の中にちゃんと出て来てたんだけどなぁwwww
そう、ユングラー=フーディーンさんとは、この近くにあるコンビニの店長さんで、最近、ケイシ―さんという女性と結婚した新婚ホヤホヤさんなのである。
しかも、かつては、そのセクシーボイスと逞しい体で女たちを虜にし、どこぞのホストクラブではナンバー2にまで上り詰めた人気ホストだったそうである。
だった?
そう、なぜか本人は、このホスト時代の話になると固く口をつぐんで話そうとしないのである。
まぁ、そんなことよりも……だいたい、なんで!コンビニの店長さんが、こんなところで司会なんてしてるんだよ!
コンビニの仕事を舐めるな! めちゃくちゃ忙しいんだぞ!
だって……
道具コンテストが開催される日は、決まってコンビニには閑古鳥が鳴くのである。
というのも、参加者たちには運営から昼ご飯が提供される。コンテストを見る観客たちも会場内にある屋台で思い思いに食事をしているのだ。でもって、審査員などをはじめコンテストの関係者たちは、昼休憩も取らずに午前中からぶっ通しで馬車馬のように働いていたのである。
このように、この道具コンテストが開催される日は、まずもってコンビニに客など来ないのである。
だからこそ、結婚したばかりのユングラーは、暇なコンビニの仕事を新妻のケイシーに任せて、自分は金になる司会のアルバイトをしていたのだ。
「だって、そのうち赤ちゃんが生まれたれら金が要るだろ(まだ、妊活中だけどな)。(///ω///)」
そんな言葉に、初めてのコンビニの仕事を快諾したケイシーだったが……今日に限って言えば……コンビニは地獄であった。
「もう! なんで!こんなにお客が多いのよ! 道具コンテストの日はお客が来ないから大丈夫って、ユングラー言ってたじゃない!」
慣れない手つきでお金を勘定するケイシ―がコンビニのカウンター内で目に涙を浮かべていた。
そう、彼女が頑張っても頑張っても、客が長蛇の列を作るのだ。
「カレー弁当、残ってないですか?」
客からのクレームに一人で対応するケイシ―。
「すみませ~ん! もう、そこになければ、売り切れです」
そんなケイシーは思うのだ。
――なんで、今日はどいつも!こいつも!カレーばかり買いに来るのよ!(ToT)
忙殺されているケイシ―のことなどつゆ知らず。ユングラーはステージの上で嬉々としながら司会をしているのだ。
というのも、ここ数年、人の目を避けるかのように引きこもり生活をしていたのである。
カーテンの閉め切った暗い個室。
そう、ここはユングラーが育った子供部屋である。
そんな子供部屋に置かれたベッドの上で、ユングラーは毛布をかぶって、日がな一日ジーっとしているのだ。
なんかその雰囲気……カビかキノコが生えてきそうなほどドンヨリとしている。
しかも、毛布の間から覗く目などは完全に生気を失って死んでいた。
もはや、ここまでくると病的と言ってもいいほどの状態。
おそらくこのままに放置しておけば、遅かれ早かれ体調を崩して大変なことになってしまうことだろう。
ということで、幼馴染のケイシ―は毎日、ユングラーが立てこもる子供部屋のドアを蹴破って無理やり中に入ってくるのだ。
ドカンっ! ばきっ!
「こらぁぁぁぁ! ユングラー! いい加減に起きてこんかい!」
暗い壁にもたれるその姿は、まるでボケモンのダストダス。
彼の周りには空になったカップヌードルやらペットボトル、使い古したティッシュやアニメ雑誌などが至る所に転がっていた。
そんな散らばるゴミを蹴散らしてケイシ―はユングラーに近づくと毛布の端をつかんで無理やりはぎ取ろうと力をこめるのだ。
「こら! 聞いてんのか!」
しかし、ユングラーは毛布を掴んで必死に抵抗する。
「俺のお気に入りのブリキュアの毛布をとるなぁぁあ!」
毎回こうなのだ……
そして、お決まりのようにケイシ―は肩で大きくため息をつくと、毛布から手を放すのである。
「ユングラー……何があったのか知らないけど……こんなところにいつまでもいたら腐っちゃうよ……」
部屋を出ようとするケイシ―は、最後にもう一度振り返り、小さな言葉を絞り出すのである。
「ユングラー……私でできることがあったら何でも言ってよね……」
だが、当然、ユングラーから言葉は返ってこなかった。
いつもそうなのだ……
そして……今日もまた……
だから、ケイシ―もその反応に慣れ始めていた。
だが、この日は少し違っていたのだ。
「……ブリキュアの壱番くじ……買ってきて……」
そう、ユングラーが自分から願い事をしてきたのである。
――これは、改善のチャンスかも!
そう、思ったケイシ―は目に沢山の涙を浮かべながら言葉を返すのだ。
「アホか! 恥ずかしい! 自分で買ってこい!」
そんなケイシ―に促され、ユングラーは久しぶりに外に出た。
眩しい日差しがまるで別世界のようにも思える。
ピンポーン♪ ピンポーン♪
コンビニのドアの開閉音が明るく二人を迎え入れる。
目の前に並ぶブリキュアの壱番くじのフィギュアたち……
なにか宝石のようにキラキラと輝いていた。
そう、いつしかユングラーの眼には大粒の涙が浮かんでいたのである。
「い……壱番……くじを買いたいんですが……ヒック……ヒック……」
泣きながらくじを買おうとするユングラーに店員さんは驚いた。
「な……何枚ですか?」
「1枚で……」
と、答えながらユングラーは数枚の大銅貨をカウンターの上に並べる。
引き籠っていたユングラーにとって、今、買えるのはこの一枚だけでなのだ。
そして、しばらく後……くじを開け、商品と交換を終えたユングラーの手の上には、ウィンクするブリキュアが印刷されたコンド〇ムが一つ乗っていた。
それを横からのぞき込むケイシ―が一言。
「……それが欲しかったの?」
当然ながら首を振るユングラー……そう、彼は、1等のエロエロコスチュームのフィギュアが欲しかったのである。
だけど、もう、くじを買う金は残っていない。
肩を落としコンビニから出ていくユングラーに、ケイシ―が恥ずかしそうに声をかけたのだ。
「その……コンド〇ム使ってみる? もし……私でよかったら……あの……エロエロコスチューム……着てあげようか……」
うぉぉぉぉぉぉ! ケイシ―のため!
いや、ケイシ―とこれから生まれてくる赤ちゃんのために、俺は稼がないといけないのだあぁぁぁぁぁあぁぁ!(って、まだ、妊活中でいろいろなプレーを楽しんでいる最中だけどなwww)
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