第614話 そんな時に決まって邪魔が入るモノ
道具コンテスト。それは融合国の中では由緒あるコンテストである。
このコンテストに優勝した者には金貨一枚(10万円)が贈呈され、融合加工院へ推薦されるのである。
それはまさにエリート街道まっしぐら。
将来の人生を保証されたのも同じことなのである。
すなわち、コンテストに優勝した瞬間から無審査で住宅ローンが青天井で借りることができるのだ!
これで、いかにこのコンテストが凄いのかが理解してもらえたことだろうwww
そんなコンテストに臨もうとタカトはかつて来たこの場所に立っていた。
そう、目の前には三つのテント。
このテントで参加登録をしないとコンテストに出場することができないのである。
そんなテントの前には、相変わらず長蛇の列ができている。
タカトは、以前並んだことがある一番右端のテントの列に並ぶ。
かつて昔、いや、今の時間軸であれば未来の事であるが、この受付のテントの前で道具コンテストに参加させろと押し問答したことが、ついこの前の記憶のように思い出される。
そんなタカトとともに並んだビン子は、妙にタカトがソワソワしていることに気が付いた。
「タカト……大丈夫?」
ビン子はそれとなくタカトに言葉をかけた。
だが、タカトは完全無視! それどころか目の前のテントを睨んだまま体を激しく揺らし続けているのだ。
これは……もしかして……
と、何かに気づいた様子のビン子ちゃんは、ならば!ということで一つの方向をサッと指さしたのだ。
そこはかつてロリコンのオッサンどもがギロッポンの源さんが握りシースーをもって駆け込んだ場所!
「ハイ! スイセン便ジョ!」
「なんでやねん!」
と、タカトはすかさず突っ込んだwww
「だって、タカト……さっきから、オシッコを我慢しているのかと思って……」
「アホか! コレは武者震いだ! 今度はちゃんと推薦状があるからな!」
徐々に近づくテントの天幕。だが、そんな天幕は白く真新しい。
そう、ここは過去の世界だから、テントの天幕もまだ新調されたばかりだったのである。
って、どれだけ使いまわしとるねん! このテントwww
そして、ついにタカトの番!
目の前には見たことがあるオッサンが。
そう、このオッサンこそ、かつて未来の道具コンテストにおいてタカトの参加を頑なに拒み続けていた係員、その人なのである。
だが、そんな彼も一つだけ違っていた。
そう、彼の頭には黒々と髪が生えていたのであるwww
ふっwww
と、鼻で笑うタカト。
そう、タカトは知っている。
――お前の頭は! 十年後にはツルピカのハゲ丸君になっているのだwwwww
そんな係員はタカト態度にカチンときた。
まぁ確かに、初対面の人間に会った瞬間、鼻で笑われていい気がする奴などいやしないだろう。
で、当然、その声のトーンは明らかに不愉快そうにドスを利かせて低かった。
「で、君は神民じゃないよね」
と、一見してタカトの身分を神民以外と決めつけたのだ。
これにはタカトもカチ―ン!
――確かに俺は神民じゃないよ! 一般国民だよ! だけど、人を見た目だけで判断するとはいかがなものでしょうか!
「当然! 俺は悪の大王! A.F.O(オール フォー ワン)! 略してアフォ!なのだ!」
というか、自分からアホと名乗ってどうするんじゃい!
と、後ろで聞いていたビン子は白い目で飽きれていた。
「では、その悪の大王に聞こう! 貴殿は推薦状なるモノを持っているのか!」
って、このオッサン、意外にノリがいいじゃないですかwww
この瞬間、タカトは待ってましたとズボンのポケットの中に手を突っ込んだのだ。
「これを見よ! 第七の騎士! 一之祐様の推薦状じゃ! 控えおろぉぉぉぉ!」
だが、タカトの突き出す手を見るオッサンは冷たい目。
そして、一言。
「それが?」
そう、タカトの突き出した手に握られていたのは推薦状ではなくて……
いわゆる、白濁に垂れるよだれを拭くためのティッシュである!
あれ? 本当の推薦状はどこに行った?
慌てて逆のポケットの中をあさってみるタカト。
だが、そこには賞味期限の切れた牛乳パックしか入っていない。
ちなみに、この牛乳パック、タカトが一人で部屋にこもっているとき、ビン子がそっと差し入れをしてくれたものなのである。
それを後で飲もうと思ってポケットの中に入れていたのだが、今の今まですっかり忘れていたのである。うっかりちゃ~んwww
まあ、今となってはタカトの体温によって白い液体の発酵が促進されて、ヨーグルトのようなドロドロの汚物になっているに違いないwww
ガビィィィィン!
それを理解したタカトの顔から希望の色が消え去って、ムンクのような表情になっていた。
――も……もしかして、俺……落としたとか?
って、ショックを受けていたのは牛乳ではなくて推薦状の方だったかwww
まぁ、当たり前と言えば当たり前かwww
だが、そんなタカトの肩をポンポンと叩くものがいる。
そう、背後に立つビン子である。
「タカトさ~ん…… もしかして、お探し物はこれですかぁ~……」
背後に振り返るタカトが見たものは、ビン子の呆れた顔と一枚の推薦状!
そう、あの時、荷馬車の上でタカトは得意がって推薦状を見せびらかしていた。
そのため、ポケットに仕舞ったつもりでも奥までキッチリと入っていなかったのだ。
中途半端なものだから、
だが、何か得体のしれない危険から本能的に逃げようと焦っているタカト君は、そんなことに気が付かない。
しかし、一方、ビン子はというと……タカトがゴキブリのように逃げようとしているので仕方なしに後を追っただけのことなのである。
――はぁ……なんか私もゴキブリになった気分……
そんなものだから、危機感も焦燥感も全く感じてない。
だからこそ!タカトのポケットから落ちた推薦状にすぐに気が付いたのである。
しかし!
ここで素直に「タカト、これ落ちたわよ」と返すのも癪である。
というのも、アイナが死んで以来、タカトはずっと一人、部屋の中にこもって出てこなかった。
――私だって……泣きたいのに……
そう……泣きたいのはビン子だけではない、真音子や権蔵だって悲しかったのである。
それが、タカトの奴は自分だけが悲劇の主人公にでもなったかのように一人孤独に打ちひしがれていたのである。
それが、どうだ。
道具コンテストの推薦状を貰ったら有頂天になっているではないか。
まぁ、タカトの性格だ……
おそらくそれはカラ元気……
そんなことは言われなくてもビン子には分かっている。
分かっているのだが……
なんか、納得がいかないのである。
というか、こんな大切なものをポケットの中に無造作に入れている奴が馬鹿なのだ!
ということで、ビン子は拾った推薦状を自分のカバンの中にそっとしまったのである。
だが!
だがしかし!
今、目の前のタカトを見ると、さすがにこのまま隠し通す気にはなれなかった。
というのも、今のタカトは推薦状をなくしたショックでムンクの叫びになっている。いや、それどころかアイナの死の記憶も相まって、さらに悲壮な顔になっていたのだ。
このまま道具コンテストに出られなかったら、おそらく、またもやタカトは引きこもってしまうことだろう。
いや、それどころか、最悪、今度は自殺もしかねないほど絶望の色を浮かべているのである。
あまりにも可哀そう……
というか、もはや見るに堪えない……
ということで、ビン子はカバンの中から推薦状を取り出すと、仕方なしにタカトの肩を叩いたのである。
「タカトさ~ん…… もしかして、お探し物はこれですかぁ~……」
すでに鼻水と涙とヨダレによって顔面崩壊しているタカトは、その推薦状を見た途端、ビン子に飛びついた。
「ビ……ビンコォォォォォ!!!!!!
そして、幼子が母親におでこを擦りつけるのと同じように、ビン子の胸に顔をうずめると顔面を激しくこすりつけはじめたのだ。
当然、ビン子の服には涙と鼻水とヨダレがたっぷりと染み込んでいくwww
「ちょっ! ちょっと汚い! やめてよ! タカト!」
「大好きだぁぁあぁぁぁ!」
――えっ? こんなところで愛の告白?
瞬間、顔を赤らめるビン子は思う。
胸元の服が何やら染み込んだ液体で冷たくなっているような気もするが……
ギュッと押し付けられたタカトの肌の温もりが、ティシャツ越しに伝わってくるのだ。しかも、先ほどからビン子の鼻先に近づいたタカトの泣き声が母性本能をくすぐるのである。
……なんだか胸の奥がキュンと熱くなってくるような。
――もう少しだけ、このままでもいいかしら♡
そう思うと、ビン子は、そっと……タカトの背に手に回すのだ。
――このままギュッと抱きしめるのもありだよね♡ だって、私が推薦状を拾ってあげたんだから♡
だが!
しかし! そんな時に決まって邪魔が入るモノなのであるwwww
「おい! イチャつくのは他に行ってやってくれませんか!」
タカトの後ろに並ぶ少女がイライラとした声で怒鳴り声をあげたのである。
――なによ! いいところなんだから邪魔しないでよ!
それをキッと強い視線で睨むビン子。
そこにいた少女は見た感じ8歳程度の小学生。
当然、ペチャパイである!
ならば、いくら胸がないとは言っても13歳のビン子の方が年長者である。
そんなお姉さまの剣幕に驚いたのか、少女は少々声のトーンを落とした。
「えーっと……あのですね……あなたたちの後ろでは私のように受付を待っている人が沢山いるわけなんですヨ。ですので推薦状があるのなら、さっさと見せて受付を済ませろ! この貧乳女!」
「なんですって!」
貧乳といわれて頭にきたビン子はタカトを突き飛ばす。
当然、タカト体は突然の事に地面に転がった。
だが、その体は地面に落ちるとも、今度は推薦状をしっかりと握りしめ地面に落とすことがなかったのだ。
さすがはタカト君! 学習能力がありますなwww
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