第611話 何があったの……
一之祐がさった駐屯地では、エメラルダをはじめ皆がモーブの様子を心配していた。
だが、あの魔人とも魔物とも分からないガイヤたちが本当に消えたのかどうかが分からない今、駐屯地を開けるわけにはいかない。
そのため、一之祐の帰りを今か今かと待ちわびていたのである。
夜がうっすらと明け始めたころ。
トボトボと一人、一之祐が歩いて帰ってきた。
というか、こいつ……乗っていたラクダの事を忘れてきやがったなwww
いやいや、途中で乗り捨てたラクダは、ちゃんと一人で駐屯に帰ってきたのである。どうだ偉いだろうwww
そんな一之祐が城門をくぐるや否や、皆が一之祐を取り囲む。
「モーブ様は!」
「モーブ様は大丈夫なのですか?」
口々にモーブの身を案じる声を出すのだが、一之祐は面倒くさそうに一言だけ。
「ああ、もう大丈夫だ」
それを聞くや否や、周りに集まった駐屯地の兵士たちは互いに手を取り合って安堵の色を浮かべたのである。
そんな人込みをかき分けながら一之祐は駐屯地の入口へと歩いていく。
そして、その道中、一人の兵士にそっと命令したのだ。
「エメラルダを俺の部屋に呼べ」
「御意……」
窓からはわずかに昇り始めた朝日が差し込み、一之祐の部屋の中をうっすらと照らし出していた。
そんな部屋の中では粗末なテーブルを前に一之祐が座り肘をつく。
そして、そんな机の前には、かつて、モーブが座っていたソファーが横たわる。
だが、今はそこではメラルダが腰を掛け、お茶をすすっていたのである。
「ホントに! このお茶ぬるいわね! 眠気覚ましに熱いお茶が欲しいのに! まったく!」
そのコップをテーブルに戻しながら、少々厳しい視線を一之祐に送る。
「ところで……何があったの……」
というのも、この駐屯地に帰ってきてから一之祐の様子がおかしいのだ。
モーブの命が助かったというのであれば、もっと元気があっていいはずなのに、それが少々、何かを耐えるかのように押し黙っているのである。
――きっと何かがあったに違いない……
一之祐と長い付き合いのエメラルダだからこそ分かるのである。
そんな質問に、自分の机に腰を掛けていた一之祐は小さな声を絞り出す
「もう……モーブもそろそろ騎士を引退する頃合いかもしれん……」
「何を言ってるの!」
それを聞くエメラルダは、少々声を荒らげた。
そう、ほんの少し前、この部屋で第2の騎士での後任の話をしたところなのだ。
それが、モーブまで引退となると、だれがアルダインを押さえるというのであろうか?
とてもじゃないが、エメラルダや一之祐では経験が足りない。
そうなれば、アルダインの暴走を止めることはもはや不可能。
融合国はアルダインの好き勝手にされることは目に見えている。
だが、そんなエメラルダを睨みながら一之祐は言葉をつづける。
「もうモーブは、史内様と同じように神民数が限界に達している」
それを黙って聞くエメラルダ。
「今回は何とか助かった……だが、助かったとはいえ、命がかろうじて助かったというだけだ……もう、騎士として前線に立つ力など残っていない……」
「……」
「そんな状態で、今回と同じようなことでも起こったら、今度は確実に命を落とす……そうなる前に……」
「でも! 一之祐! それでは、誰がアルダインを!」
「分かっている! だが、俺は……親父には死んでほしくないんだ……」
それを聞いた瞬間、エメラルダは言葉を詰まらせた。
「私だって……」
「なら、第2の問題が片付いたら、早々に第8の後任を探さないとな……」
「でも……騎士の後任候補なんて簡単には見つからないわよ……」
そんな時である。一之祐の部屋のドアがノックされたのだ。
「一之祐様、勤造です。少し、よろしいでしょうか」
その声を聞いた一之祐は、大きく深呼吸をして、まるで気持ちを切り替えるかのように顔をパンと一回叩くと答えるのだ。
「ああ。かまわん! 入れ!」
ガチャリ。
そこには新たな服に着替え終わった金蔵勤造が一人立っていた。
「一之祐様。あの村の件でご報告が。おそらく、この駐屯地の有様もその件によるものかと……」
そう、勤造は第七駐屯地の外れにあった第三世代たちが虐殺された村に、その原因を調査に赴いていたのである。
そもそも、第三世代を村はずれに隔離したのは、融合された体にアダム因子なるものが存在し、それが暴走するという話であった。
現在作られる第五世代の融合体では、そのアダム因子の除去はできていると言われている。まぁ、これもどこまで本当なのか分からない。
だが、すでに融合手術が終わっている第三世代からは、アダム因子だけを除去するというのは困難であった。
そのため、アルダインが出した命令は、「第三世代の全廃棄」。
だが、融合手術を受けているとはいえ、それは人の命。
そうですかと、簡単に廃棄などできるわけはない。
そこで、一之祐はアルダインに逆らって、門外フィールドに第三世代たちが住む村を作ったのである。
だが、ある日、突然、そんな村が全滅したのだ。
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