第597話 スーパーレーザーですら♡
「……お前、まだ、くたばってないんじゃろ……」
コウケンを傍らに静かに寝かせたガンエンは、まっすぐに転がるガイヤをにらみつけていた。
「ケケケケケ……」
案の定、空を向く眉毛のない顔面から不気味な笑い声が揺らめき上った。
もう、目の前のガイヤを排除できるのはガンエンしかいないのである。
そんなガンエンはすっと立ち上がると、おもむろにたくましい上半身の裸をあらわにした。
「一撃で決める……」
構えるガンエンは大きく息を吐く。
ゆっくりと立ち上がるガイヤは、まるで操り人形のように腕がだらんと垂れている。
そんな首がカクンと横に倒れるのだ。
「ケケケケケ」
そんな声が発せられたかと思った瞬間、ガイヤの体がグネグネと揺れながらその姿を変えていく。
「なんと水鳥軒最終奥義! お帰りのサイの川原にメイドの土産!」
いつしかその体には一つのコスチュームがまとわれていた。
そう、それはメイド服。ミニスカートのメイド服をまとったガイヤがそこに立っていたのだ。
だが、想像してほしい。
眉のない顔面巨大な細めの男が、黒と白のゴシックロリータの服を着て立っているのである。
しかも、なぜか頭には角の生えたシロサイの着ぐるみキャップをかぶっている。
なぜホワイトブリムのようなフリルの付いたヘアバンドではないのだぁぁぁぁ!
意味が分からん……いや、キモイ以外にあり得ない。
「この一撃を冥土の土産に持っていきやぁぁぁぁ!」
シロサイの角を前面に突き出したガイヤが一直線に突っ込んできた。
奴は第三世代……いくら感覚器が強化されているとはいえ、ここまでの耐久力は通常考えにくい。
第五世代の魔装騎兵であったとしても打たれ続けば装甲が割れるか、魔血切れを引き起こすのだ。
なのに、こいつはどうだ……
魔血や人血の供給のないままに、いまだ戦い続けている。
まるで魔物……
いや……魔物や魔人でも顔面を打ち砕けばくたばるものだ。
もう、こいつは魔物や魔人といった存在以上なのかもしれない。
かつて、この世界の創造主であるエウアとアダムには、それぞれ8人の従者がいたという。
エウアには人の形をした従者が付き従った。
アダムには魔物の形をした従者が付き従っていたという。
現存する神々が生まれる前から存在していたその従者たちはかなりの力を持っていたという。
もしかして……その力なのか……
奴は従者のその魔物の血を引いている?
だが、そう考えれば合点がいく。
死者を粘液のようなもので扱う能力。
姿を変える能力。
これらすべて、その従者の力がなす業なのかもしれない。
しかし、このまま攻撃しても埒が明かない。
いくら打ちのめしてもガイヤは倒れないのだ。
そう、その攻撃が全く効いてないかのようなのである。
まるで実体のない液体の塊……そう、アメーバーのような感じなのだ。
だが、仮にアメーバーだとしても、それを制御する核があるはず。
その核を打ち抜けば……
しかし、奴の核はどこにある。
どこにある……
そんなガンエンは突っ込んでくるガイヤの体を静かに観察した。
その時、ガンエンは気づいたのだ。
頭にかぶるシロサイの着ぐるみキャップがフリース素材でできていることに。
こんな柔らかいものでどうやって攻撃するというのだろうか?
もしかして、これはフェイク?
ならば、真の攻撃手段はほかにあるはずだ。
⁉
そんなガンエンはガイヤに先ほどまで見なかったものを見つけた。
それはミニスカート下にぶら下がる丸い金色の球体。
その大きさはおよそ握りこぶし一個分……大きい……大きすぎる……
だが、本来二つないといけないものが一つしかないのである。
まぁ、世の中にはそういった病気を患っている方もいらっしゃるので、ないことはない。
というか、今はそんなことは関係ないんだよ!
そのぶら下がる丸い金色の球体の中心にはクレーターのようなくぼみが。
そのくぼみをガンエンのほうへと向けて狙いを定めているようなのだ。
ガンエンにはわかる。
――あれはヤバい……
そりゃ……ミニスカートの下から垂れ下がっているってことは……当然あれはゴールデンボール!
そりゃヤバイ!
いやいやそう言う意味ではなくて……
修行の末、闘気を感じ取ることができるガンエンには、そのゴールデンボールに異常なまでの生気の量が集中されていくのがよく分かっていたのだ。
8つのカウパー・クリスタルから集約されていく生気がそのクレーターのような穴の中心で一つに交わりガマン汁のように弾け飛んでいた。
その様子はまるで、デス●ターのスーパーレーザーですら♡砲。
おそらくその一撃はこの第七駐屯地すべてを吹き飛ばしかねない。
だが、これだけの力!
当然、集約される生気が発する熱量も半端ない。
きっとその熱を体内に蓄積すればガイヤの体も耐えきれなかったのだろう。
そんな膨大な熱を外部へと射出するためにあえて体外に出さざるを得なかったのである。
その金玉は、まるで圧縮される生気から超物質へと変換するハイパーマター反応炉そのもの。
だが、おそらくそれが奴の核に違いない。
――ならば、チャンスではないか!
ガンエンはにやりと笑う。
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