第596話 ナイススペア! ナイスカバー!

 駐屯地の前には金色の草原が広がっていた。

 その金色の光と比較すると、駐屯地内の広場は松明の明かりだけが照らしているため薄暗い。

 そんな城壁によって隔てられた四角い広場の中心では、ガイヤによって操られた5人の死体がコウケンをタコ殴りにしている最中だった。


 奉身炎舞によって生気がつきかけたコウケンは必死に頭を抱えて防御をする。

 根がまじめなコウケン。ガイヤのトリッキーな攻撃に手も足も出なかった。

 ――私は負けるのか……

 そう思う意識が徐々に薄らいでいくのがコウケン自身にもよくわかった。


 ほぎゃぁぁぁぁ!

 だが、そんなコウケンを殴り続けていた5人の死体&ガイヤが突然はじけ飛んだのだ。

 まるでボーリングのピンのようにスパーン! っとね。

 だが、残念ながらそのスコアは、ストライクではなかったようである。

 というのも、その広場というレーンの上には、残ったピンのようにうずくまるコウケンの頭が一つだけ残っていたのだ。惜しい! 実に惜しい!


 って……誰か助っ人が現れたのだろうか? ほかの二人の兄弟同様にコウケンにも。

 もしかして騎士の一之祐? それともモーブとか?

 いやいや一之祐はモーブを抱えて今ひたすらに内地へとつながる騎士の門へと走っている最中なのだ。

 ならばガイヤたちを吹き飛ばしたのはいったい誰だというのだろうか?


 そう、それはアイナだった。

 駐屯地の入り口から飛び出してきたアイナは、まっすぐにガイヤたちに突っ込んできたのである。

「いやぁぁぁぁぁ! いやぁぁぁぁぁ!」

 いまだ絶叫を上げつづけるアイナは前も見ることもなく頭を振っていた。

 おそらくこの様子、前などいっさい見ていないだろう。

「アダムさま、もう逆らいません! だから! 私を消さないで!」


 たまたまその道程にコウテンたちの一群がいたのである。

 だが、首を振り髪を振り乱しながら走っているアイナにとて、そんな些末なことは関係ない!

 その勢いのまま5人の死体&ガイヤを弾き飛ばしたのだ。

 アイナはそのあと城門の隙間からみえる光の草原に向かって全速力でまっしぐら。

 そう、いまの城門は内地に向かった一之祐が外に出たことによって開いたままだったのである。

 そんなアイナの様子に慌てて守備兵たちが急いで門を閉めようとしはじめた。

 だが、間に合わない……

 もしかして、アイナはこのまま外に出てしまおうというのであろうか?


「アイナちゃぁぁぁぁぁん!」

 タカトもまたアイナのあとを追って駐屯地の建物から飛び出していた。

 「裸にメガネー」をつけたタカト。

 目の前は生気が発する白い影しか見えないのだ。

 だが、タカトもまたタカトなりに全速力で走っていた。

「邪魔だ! ハゲ!」

 そして、スパーーーーーン!

 広場に残っていた最後の一本のピンを弾き飛ばしたのであった。

 ナイススペア! ナイスカバー!


 そう、タカトはうずくまっていたコウケンの頭を力強く弾き飛ばしていったのだ。

 って、メガネの上からでも禿げ頭が見えとるがな!

 だいたい今のコウケンは生気が尽きて眼鏡には映らないはずなのだ。

 しかも、その見えないものを、ハゲ呼ばわりして……

 お前はエスパーか!

 エスパー伊藤か!


 だって、仕方ないのだ。

 先ほどまではっきりと見えていたアイナチャンの桃尻が、何やら丸い黒い影によって隠されてしまったのである。

 さすがのタカトもそこに何かがあることがすぐに分かったのだ。

 って、これだけで、黒い影の正体がハゲであることが分かるとは……驚きである。

 いやいや、だって、目の前においしい桃のようなお尻がぶら下げられていたのだ。

 もう、こんな時のタカトの感覚は魔物以上の鋭さを発揮するのである。

 肉眼以上に心眼というまなこが大きく見開かれていたのだ。

 そう、その心眼によってタカトには前を走る桃の割れ目まではっきりと見える。

 そのはだのうぶ毛まで……

 イヤァ~ん♡

 そして、ついでに弱ったタコのようなハゲ頭も見えてしまったのだ!

 イラぁーん!

「邪魔だ! ハゲ!」

 スパーーーーーン!

 うむ……恐るべし……タカトのエロ心眼。

 あっ! ちなみに見えているのがオッパイの場合には、さらにこの能力は1.5倍にまで跳ね上がるようである。


 そんな時である。

 ガイヤの緑の目が起き上がってきた。

 そして、おもむろに親指を強くかむと息を大きく吹き込んだのだ!

 こ! これはもしかして某ゴム人間の必殺技! ギアなんちゃら!

「おいっ! この筋肉‼ ギガントするのかい? しないのかい? どっちなんだいっ⁉」

 太く大きくなった腕を振りかざして、目の前のコウケンにむかって飛びかかっていく。

「なんと水鳥軒奥義! なかなか筋肉ん大移動!」

 おいっ! これだと……一堂零の技じゃんか!


 すでにコウケンはタカトに思いっきり蹴り飛ばされたことによって最後の力を完全に失っていた。

 その頭は前のめりにゆっくりと倒れこんでゆく。

 ――……私はもうダメです……あんな奴らに負けるとは……まだまだ修行が足りませんでしたね……

 薄れゆく意識の中でコウケンは中山君に反省した。

 って、中山君って誰やねん!

 えっ? 知らない?

 アメリカのボディービル大会「マッスルビーチインターナショナル」で優勝したという伝説の芸人さんを!


 ぼこっ!

 骨が砕けるような鈍い音が薄暗い広場の空に響いた。


 ぎょぇぇぇぇぇ!

 その刹那、先ほどまで腕を振り上げていた一堂零、ちがった! ガイヤの顔面が大きくくぼみ、ケツの穴から大量の空気を吐き出しながら飛んで行ったのだ。


 一方、倒れ行くコウケンの体がしっかりと誰かによって抱きかかえられたのであった。

「よく頑張ったな……」

 いまやガンエンのたくましい腕の中にコウケンの体が眠っていた。

「コウケンよ……後は、ワシに任せておけ……」


 そう! ガイヤがコウケンに腕を振りおろそうとしたその瞬間。

 ガンエンのスピアのような鋭い右ストレートがガイヤの顔面を貫いていたのであった。

 吹き飛んだガイヤは地面に転がる。

 まるで死にかけた虫のように足をM字に開きながらぴくぴくとしていた。

 ナイススピア! ナイスくぱぁ!

 このポーズが女ならエロイのだが……

 眉なし男がやるといっそうキモイ!

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