第548話 これはアカン奴や……
「どうして真音子ちゃんがココにいるのかな……?」
懸命に笑みを作ろうとするビン子は真音子に尋ねた。
「真音子ね、決めたの! 真音子、お兄ちゃんのお嫁さんになるの!」
「はい?」
「えっ!」
タカトとビン子はまた固まった。すでに、石化の一歩手前と言ったところ。
だが、よくよく考えると、相手は三歳ほどの幼女だ。
そんな言葉を真に受ける方がバカである。
二人は愛想笑いを浮かべた。
しかし、そんな二人を見る真音子は真剣そのもの。
「金蔵のおうちのお約束はね、ウケたオンは10倍返しなの! だから、真音子お兄ちゃんのお嫁さんになるの!」
タカトは真音子の胸をちらりと見た。
小さい……
将来、あの大きく成長した借金取りの真音子になるのなら巨乳になるのは確実だ。
だが、現状は、きわめて小さい……
しかも、この時間軸から元の時間軸に戻れる保証はなにもない。
そうなれば、この時間軸で生きていくしかないのだ。
ならば、この貧乳が、元の時間軸の真音子のように巨乳になるかと言う保証は何もないではないか。
やはり、将来の巨乳よりも、目先の巨乳の方が断然いい。
「うーん、お兄ちゃんはね、トップアイドルだから、恋愛禁止なんだよ。ごめんね」
カラ笑いを浮かべるビン子は、もう突っ込まない。
どうやらこのウソは大丈夫なようだ。
というか、もう、どうでもいいようである。
しかし真音子は指を唇に当て真剣に何かを考え始めた。
そして、何かひらめいたようである。
「なら、真音子もトップアイドルになる! アイドルとアイドルの恋愛は超スクープだよ!」
今一よく分からん。
だけども、これであきらめてくれる理由ができたというものだ。
「トップアイドルになったら考えてあげるよ!」
タカトは満面の笑みで真音子と指切りをした。
「ところで、真音子ちゃん、お母さんにはココにくるって言ってきたの?」
ビン子は真音子に尋ねた。
真音子は嬉しそうに首を縦に大きく振ってうなずいた。
「ちゃんとお手紙書いてきたよ!」
一瞬嫌な予感がするビン子。
「な……なんて……書いてきたのかな……?」
「えーとね。お母様、真音子はお嫁に行きます。探さないでくださいって!」
アカン……
これはアカン奴や……
どう考えてもタカトが真音子をさらったって思われる……
咄嗟にタカトとビン子は大声を上げた。
「誰かぁあっぁ! ココに金蔵のお嬢様がいらっしゃいます!」
「誰かぁあっぁ!
大騒ぎをする二人の声を聞きつけ、隊列の横につく3人の護衛たちが荷馬車の横に走り寄ってきた。
その三人の頭はつるっぱげ。
だけど年は若い。
おそらくタカトよりも若そうな少年たちであった。
「あちゃぁ~、もう真音子ちゃんバレちゃったのか!」
「オイオイ、オヤジさんを驚かせるんじゃなかったのかよ!」
「そうっすよ!」
この三人こそ万命寺の修行僧コウケン、コウセン、コウテンの兄弟たちである。
後におこる神民街人魔騒動、第七の騎士の門内の聖人世界のフィールドが後退したことによって、魔人フィールドにさらされることとなる第七駐屯地とキーストーン。
そこで一之祐が状況を打破するために頼りにした勇士たちがこの3人であった。
だが、その三兄弟もまた、ハトネン侵攻の際、コウケンは高い空から落ちて砕け、コウセンは胸を貫かれ絶命、そして、コウテンもまたオオボラによって巨大エイのエサとなってしまった。
「だって、袋の中あつかったんだモン!」
ふくれっ面の真音子は運転席の椅子に座りながら足をぶらぶらさせていた。
そんな会話に割って入るタカトとビン子。
「そんなことはどうでもいい! 早く、この娘っ子を
「そうよ! じゃないと私たちが
必死の形相で横に並ぶコウケン達に懇願した。
「魔物でも出てこいつが食われたら俺らが
コウケンは笑いながらタカトたちを諭した。
「大丈夫だよ。
「しかも、この辺りに出る魔物程度なら俺たちだけで十分だしな」
コウセンは高笑いを上げる。
だが、タカトは必死。
「なら、魔人が出てきたらどうすんだよ!」
コウセンは、胸を叩く。
「魔人か? 一人や二人ぐらいなら俺たちに任せとけ!」
「そうっすよ! こう見えてもオイラ達、万命拳の修行をしているスよ!」
コウテンもニコニコ笑いながら同調した。
その言葉に驚くタカトは三人を見た。
「なんだって万命拳?」
「えっ万命拳を知ってるっすか?」
万命拳は修羅の国から派生し、この融合国で進化した独自の拳法。
聖人世界でも、ここ万命寺でしか使われていないのである。
驚くコウテンを見下しながらタカトは得意がって鼻をこする。
「こう見えても俺だって万命拳の達人だ! なんていったってガンエンの爺ちゃんから直々に教えてもらっていたからな!」
もしかして、コイツも万命寺の修行僧?
3人は顔を見合わせた。
「えっ! 直々に師匠からスか! 凄いっす!」
そんなコウテンの驚きにコウセンが水を差す。
「そんなわけないだろ! 師匠はいま第七駐屯地の医者として勤務しているんだぞ。だから俺たちでさえ兄弟子たちからしか教えてもらえないんだぞ」
その言葉を聞いてタカトはぼそり……
「この時代のガンエンの爺ちゃんは、駐屯地にまだいるのか……」
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