第533話 労働環境ウィッス!

「どついて悪かったな!」

 歩きながら座久夜さくやは、顎をこするタカトに謝った。


「せめてもの詫びや。ワテの家で飯でも食っていきや!」

「メシ⁉ あざーっす!」

「ありがとうございます!」


 タカトとビン子は座久夜さくやに導かれ金蔵かねくらの屋敷へと招待されているところだった。


「というかお前は関係ないだろ! ビン子!」

「どうしてヨ! 私のおかげで誘惑チャームから覚めたんじゃない!」


 そう、ビン子の放つハリセン技『清浄寂滅扇しょうじょうじゃくめつせん』には状態異常を克服する力がある! ……のかもしれない……


「いや、それ全く関係ないし!」


 実際にはタカト自身、既に座久夜さくやの右フックを受けた時点で三途の川が見えていた。しかも、三途の川の番人である奪衣婆によって、すぐさま氾濫しかけた川の治水と言う普請工事に強制労働させられていたのだ。


 一日23.5時間の超ブラックな労働環境!

 労災なし!

 社保も無し!

 タイムカードもないため、当然残業代などノーカウント!

 その上いわれもない天引きで給料の手取りも全くない!

 唯一支給されたのが、奪衣婆の鼻くそ!

「それ! 三途の川のアイドル様の鼻くそやで! プレミアがつくで! 大切にしまっときや!」

 もう、ツッコみを入れる気力すらもなかったタカトは、素直に自分の鼻の穴に鼻くそをしまった……


 疲れ切ったタカトの脳は、一体いつ誘惑チャームから覚めたのかはっきりとしなかった。

 うっすら覚えているのは鬼監督奪衣婆のいやみな顔ばかり。

 少しでもサボろうものなら、その場で立たされ何時間も罵倒され続けていた。

「このウ●コ野郎! お前のケツについているのは下痢ベンか! お前は尻も拭けないサルなのか!」

 はぁ……

 ウ●コ! ウ●コ! ウ●コ!

 さっきからウ●コの話ばっか……もう、いやになる……

 ――夢なら早く覚めてくれ……

 そうタカトがそう願っていても、しょうがなかった。


 座久夜さくやに連れられてきたのは昔ながらの日本風の商家だった。

 そんな家を取り囲む壁は、白塗りの漆喰。

 そんな玄関わきの壁に一枚の張り紙がしてあった。

 タカトは、その張り紙に目をやる。


 急募! アルバイト募集!

 業務内容: 第七駐屯地への輸送業務

 未経験者大歓迎。誰でも簡単にできるお仕事です。

 交通費、危険手当支給!

 福利厚生葬儀場完備!

 3食保障おやつ付き!

 履歴書不要! 罪人だって構いません! 足がついて歩くことができれば即OK!

 少々、太って魔物が好みそうな人優遇します♥


 ――めっちゃ! ホワイトやん!

 既にブラック脳になっているタカトには、その募集内容がパラダイスに見えた。


「なぁ、ビン子。第七駐屯地っていったら、確か、権蔵じいちゃんが働いて場所だよな!」

 目をキラキラさせるタカトはビン子に尋ねた。


「そうだと思うけど……」


 座久夜さくやが、その会話を耳ざとく聞きつけて、二人をぎろりとにらみつけた。

「権蔵だと! お前ら権蔵の知り合いなのか?」


 タカトは一瞬ドキッとする。

 ――なんかまずかったかな……


 だが、権蔵はすでに休息奴隷の身分となっていたはず。

 休息奴隷とは、騎士の名のもとに奴隷として働いていた期間と同等の期間の自由を保障されるという奴隷にとってはパラダイスのような制度なのだ。

 休息奴隷となれば、奴隷の主だって奴隷を拘束することはできやしない。

 まぁそうはいっても、この休息奴隷になれるまで生き残れる奴隷など、ほとんどいないのが現実なのだが。


 ということで、特に権蔵の事を隠し立てすることも無かろうとタカトは素直に答えた。

「権蔵じいちゃんは俺の親みたいなもんだ!」


「あいつ……堅物だと思っていたのに、こんな大きな子供がいるのか……存外、女をたらしこむのがうまいのかもしれんな……」

「権蔵じいちゃんの事を知っているのか!」


「あぁ、権蔵のことはよく知っている。腕のいい融合加工職人だ」

「だろ! 今度、じいちゃんの作った道具をしこたま買ってくれよ!」


「買うも何も、権蔵は金蔵かねくら家の奴隷だ……権蔵の作ったものは、必然的に、ワテらのモノや」

「えっと……爺ちゃんって、休息奴隷のはずじゃ……」


「休息奴隷? 何寝ぼけたこと言うとんや! 権蔵はワテらの奴隷やで!」

「あれ? あれれれ?」


「という事は、権蔵の子供であるお前たちも、ワテらのモノという事になるな」

「えっ! それはいったいどういう事でしょう?」

 理解が追いつかないタカトの目がくるくると回っていた。


「奴隷の命は、その主人のモノと決まっとるやろうが! なら、その子供も生まれた時から奴隷の刻印をその体に刻まれるもんや」

「うーん……俺らにそんな刻印、あったけ……なぁ、ビン子?」

「ううん、見たことないけど……」

 ビン子は首を振った。


 それを見た座久夜さくやは、声を大にした。

「嘘をつくな! ちょっとお前、そこで服を脱いでみい!」


「なんでやねん! こんな人目の多いところでなんで俺が裸にならんといかんのじゃ!」

 イヤイヤあんた! 先ほど道の真ん中でウ●コしようとしていたでしょうが!


「奴隷の分際で主人に逆らうとはいい度胸しとるなワレ!」

「だから俺は奴隷じゃないって! ただの一般国民だって!」


「さっきワレ、権蔵の子供って言いよったよな! あれは嘘か!」

「いや……嘘じゃないけど……」


「なら、奴隷の子供は奴隷や! 今すぐここで服を脱いでみい!」

「だから無いって!」


「もう面倒や!」

 そう言うと座久夜さくやは、店の前で荷馬車に荷物を積んでいたガタイのいい男たちに声をかけた。

「ちょっとお前ら、仕事をやめて、こっち来い!」


 座久夜さくやの声に反応した男たちが数人集まってきた。

「なんすか! アネさん!」


「こいつの体に奴隷の刻印があるはずや! ちょっと、このガキの服をひんむいたれ!」

「ウィッス!」


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