第492話 天使とバナナとミニキュウリ(2)
そんなテッシーを見たビン子はタカトに目をやる。
「タカト! バナナちょうだい!」
「俺の?」
タカトはズボンを脱ごうとした。
ビシっ!
ハリセンが、タカトの頭をどつく。
「アンタの貧相なバナナじゃないわよ! 優勝賞品の中にあるバナナよ、バナナ!」
――えっ……俺のって、貧相なの……
少々ショックを受けたようなタカト。
だが、タカトは気づいた。気づいてしまったのだ。
――それって誰かと比較してのことですよね……
少々涙目のタカトは、それどころではなかくなった。
「タカト、これと交換ね!」
というと、ビン子は魔物券をタカトの前にたたきつけると、バナナをもってさっさと走っていった。
そんなビン子を見送るタカトは視界は、すでに涙でかすんでいた。
――ねぇ、ビン子ちゃん誰と比較したのか教えて……ねぇ……
タカトは、走り去っていくビン子の後ろ姿を見ながら、なんだかどんどんと遠い存在になっていくように感じていた。
知らず知らずのうちに女の子は、大人の女性になっていくものなんだよタカト君。
って……ビン子ちゃんは、神様だろ!
路地奥に飛び込むビン子。
「アンタたち! いい加減にしなさいよ!」
ゴリラの三兄弟は一斉振り向いた。
「なんだと! お前には関係ないだろうが!」
「ミーキアンがいなければお前らもただのエサだ!」
と息巻く。
ビン子はバナナを突き出した。
「どうせアンタたちが欲しいのはこれでしょ! これあげるから、その子を離しなさいよ!」
突然ゴリラたちの目の色が変わった。
――どうしてこの娘、俺たちが狙っているのがそのバナナだと分かったのだ?
ゴリラの口からよだれが垂れている。
――こいつは超能力でも持っているのだろうか?
ゴリラの黒い頬に、ほんのりの紅がさしている。
――もしかしたら、俺たちの心の声を聴いているとか……
と言うか……先ほどまで、怒鳴り散らしていた目が、だらしなくたるみ、媚びるような笑顔になっているではないか。
三人のゴリラの魔人はお互いに顔を見合わせた。
ビン子はにやりと笑う。
「いらないのならいいわよ! 私が食べるから!」
そのバナナの一本に手をかける。
「分かった! こいつはもう自由だ! だから、そのバナナを俺たちによこせ!」
「本当に、もう、その子に乱暴しない?」
信用しないビン子は念を押す。
「あぁ、そのバナナが手に入れば、こいつは用なしだからな!」
ゴリラたちはテッシーの首根っこを掴むと、ビン子に向かって放り投げた。
ズザザザザー
擦過音を立てながらテッシーの体が転がると、ビン子の足元で動きを止める。
その様子に慌てたビン子は、思いっきりバナナを投げた。
まるでラグビーのボウルのように放物線を描く。
ゴリラたちは背後に振り返ると、懸命に空飛ぶバナナを追った。
そしてトライ!
地を滑る三人の体が重なるようにバナナを掴んでいた。
だが、すぐさま起き上がると嬉しそうにバナナを掴み上げ、ビン子にありがとうと言いながら路地奥へと消えていった。
テッシーは口から垂れる一筋の血を拭きながらつぶやく。
「どうして、僕を助けた……僕は魔人だぞ……」
ビン子は、そんなテッシーに手を差し伸べた。
「何言っているのよ。命に人間も魔人もないわよ……」
テッシーは、そんなビン子の手をパッと払うと、壁に手をつき立ち上がる。
「放っておいてくれ……」
ビン子に背を向けたテッシーは、壁を伝いながら路地の奥へと消えていく。
一方タカトは、ビン子が叩きつけた魔物券を不思議そうに見ていた。
――こんな紙、何の役に立つんだ?
匂いを嗅いでみるも分からない。
光に透かして見るも分からない。
――うーん、ムフフな本を読み終わった後のお掃除紙ぐらいにしか使えそうにないな……
その瞬間、タカトは我に返った。
――なんで俺は、今の今までこんな大事なことを忘れていたんだろうか。
そう、タカトの持つムフフな本の事である。
――そう言えば、俺のムフフな本はどうなったのだろう……ビン子が何かごそごそとしていたような……
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