第482話 スネークホイホイpart 2(1)

 恐怖のため硬く目を閉じているタカトは思う。

 ――はて? 俺の頭を叩くのは一体、誰でしょう?

 というかタカトは、ただいま魔物バトルのレース中。

 このトラックにいるのは、すでに三匹。

 タカトとハヤテとグレストールのみである。

 自分が自分の頭を触っていないという事は、他の2匹の仕業かな?

 しかし、ハヤテが叩くわけはないよね。だって、ハヤテはタカトの尻の下にいるのだから。

 そうか、グレストールか!

 って、それならば、普通、今の状況ならポンと叩くよりもガブリ! でしょ。ガブリ!

 という事は、やっぱり誰なんでしょう?

 考えあぐねたタカトは、恐る恐る目を開けた。

 タカトの目の前は、いつの間に発生したのか分からないが、もうもうと白煙が湧きたっていた。

 タカトは叫ぶ。

「なんじゃこれ!」


 ハヤテもその声に反応して、目を開けた。

 ハヤテもまた、襲ってくるグレストールの牙の恐怖、すなわち死の恐怖に直面して、つい目を閉じてしまっていたのだ。

 しかし、ハヤテの体には一向に痛みが走らない。

 待てども待てどもグレストールの牙は襲ってこない。

 そんな時に、タカトの驚く声が聞こえたのだ。


 目を開けたハヤテ。

 眼前に迫っていたはずのグレストールの口がない。

 そう、大きく開け広げられていた3つの口がないのだ。

 ハヤテは、とっさに辺りを見回した。

 すると、流れていく白煙の中からグレストールの尻尾が見えた。

 なぜかグレストールは、トラックの内側に向かって押し倒されて目を回していた。

 ハヤテは叫ぶ。

「なんじゃこれ!」


「よっ! 少年! また会ったな!」

 トラックの中心に向かって白煙を引きながら走る人影が、大きな声をだしていた。

 その人影はカウボーイハットをかぶったダンディである。

 ダンディは、ハトネンから逃げるために煙幕をたきながら魔物バトルが行われているトラックに飛び込んだのである。

 そして、こともあろうかグレストールに襲われそうになっているタカトのすぐ背後を駆け抜けた。

 その際に、茶目っ気でタカトの頭をポンと叩いていったようなのだ。

 まだまだ、ダンディには余裕がある様子。


「こらぁ! まてぇ! このコソ泥がぁ!」

 当然、そのダンディの後を追ってトラックへと飛び込むハトネン。

 いまや、ハトネンの体は騎士スキルの魔獣回帰によって巨大なネズミと化している。

 その大きさは、三頭蛇のグレストールよりもはるかに大きい。

 そんなハトネンが、グレストールに突っ込んだのだ。

 そりゃ、それだけ大きな質量がぶつかればグレストールなど簡単に吹っ飛びますよ。

 いきなり真横から吹き飛ばされたグレストール。

 交差点でいきなりわき道から一時停止を無視して突っ込んできた車にはねられるがごとく、全く状況を理解できずにトラックの上で伸びておりました。


 タカトはダンディを確認すると叫んだ。

「お前! あの時の泥棒野郎!」

 あの時とは、当然、元第六の神民たちが人魔の血を浴びた時の騒動の時である。

 その騒動のどさくさに紛れて、このカウボーイハットの男は、エメラルダの黄金弓を奪おうとしてきたのだ。

 そして、今、この魔物バトルにはエメラルダの黄金弓が賞品として賭けられている。

 ということは、また、弓を狙いに来たのに違いない。

 そう思ったタカトは、怒鳴る。

「お前になんか、エメラルダの姉ちゃんの大切な弓を渡すかよ!」

 ダンディは、懸命に走りながらタカトに答えた。

「あぁ、あれはもう死んでいるから、もういらん!」

 タカトは、悩んだ。

 死んでる?

 一体、何を言っているのだ?

 そして、タカトは思い出す。

 あぁ、確か権蔵じいちゃんが仮死状態にするとか言っていたな……てことは、あの泥棒野郎は、それに気づいていないという事か。

 ハハァン!

 にやけるタカト。


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