第471話 二週目(5)

 澄み切った大きな声が響く。

「あなたたちの不正はハッキリ見たわ!」

 騒がしいスタジアムの中でもはっきりと聞こえるその声は、三兄弟の間近かから発せられていた。

 三兄弟たちは、その声の主を探した。

 スタジアムの上段に通じる手すりを掴むエメラルダの姿。

 その表情は、「すでにお前たちの不正の手口はマルッとお見通しだ!」と言わんばかりに、残った手の人差し指をまっすぐに三兄弟に向かって伸ばしていた。

「なんだと!」

 そのエメラルダの声に驚いた三兄弟のお尻が、体の影にかくまわれていたテッシーを押した。

 長い筒の先が微妙にずれる。

 その瞬間、2発連続で発射された水弾はグレストールから大きく外れ、その一つが運悪くライオガルの目に当たってしまった。

 一瞬目をつぶったライオガル。

 ライオガルの戦意が途切れる。

 このチャンスをグレストールが見逃すはずがなかった。

 その瞬間、ライオガルの頭にグレストールがかみついていた。

 前足で必死に蛇の頭を押しのけようともがくが、時すでに遅し。

 しっかりと牙がライオガルの首に食い込んでいた。

 グレストールの喉が波打つたびに、ライオガルの体が、少しずつ消えていく。

「ああぁぁあ! うちのライオガルが!」

 スルボマは絶叫を上げた。

 ハンカチを口で引っ張るその目は、もう、涙目

「また、シウボマにやられてしもうたというんか!」


 トラックでスキップを踏むゴリラの魔物は、今だ水弾による援護があるものと思っているようだ。

 カマキガルに踏まれた頭をかきながら、余裕でグレストールの横をすり抜けようとしていた。

 しかし、残念ながら、ゴリラを守るはずの水弾は、すでにライオガルの目玉で水しぶきを上げ終わっていた。

 カマキガルで2発、ライオガルで2発すでに、テッシーの口の中には水がない。

 もう、ゴリラを援護するには至らないのだ。

 だがそんなことは知らないゴリラ。

 いまだに、スキップを踏んで余裕を見せている。

 しかし、グレストールの残った一つの首が、ゆっくりとゴリラの上から降りてゆく。

 そして、ついにゴリラを優しく包み込んだのだ。

 生暖かい口の中でゴリラは思う。

 ――なんで……


 そのゴリラの後ろをハヤテたちが懸命に追いかけていた。

 先ほどのテッシーから放たれた水弾を避けていたためにハヤテは、ゴリラから大きく引き離されてしまっていた。

 その遅れを取り戻そうと、ハヤテは息を切らしながら懸命に走る。

 口から垂れた長い舌が、風になびき、背後へと唾液を飛ばす。

 だが、スタート地点には三頭蛇のグレストールが待ち構えている。

 どうする。

 ハヤテは考える。

 背中に乗るタカトは、現在、軽い脳震盪を起こして目をまわしている始末。

 とても使える状態ではない。

 ここは自分一人だけの力で切り抜けるしかない。

 だが、どうやって……

 しかし、幸運なことに、目の前のグレストールの口はすべてふさがっていた。

 ゴリラ、ライオガル、カマキガルの体によって三つの口が使えないのだ。

 これ幸いと、ハヤテは一気にグレストールの横を駆け抜けた。


 第二週を終わって、トップはハヤテとタカト、2位はいまだスタート地点から一歩も動いていないグレストール。以上2匹だけ!


 そして、タカト君生きて帰るまであと一周。


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